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Laboro.AIコラム

いのち守るためのAI。医療現場へのAI導入の壁

2021.8.15

概 要

その活用方法が模索されつつ、さまざまな分野で導入が進むAI。その中でも、とくに“精度高く”導入が進むのが医療のです。“精度高く”というのは、やはり医療現場が人の命を扱うことに起因しているためです。今回のコラムでは、医療現場へのAI導入を目指す方に向け、その活用事例やメリット、導入する際の課題、その他関連分野でのAI活用状況についてお伝えしていきます。

目 次

医療現場でのAI導入の実際
医療現場でのAI活用事例
 ・レセプト業務の自動処理
 ・診療録(カルテ)解析
 ・AI画像診断
医療現場へのAI導入メリット
 ・事務作業の効率化
 ・医療データの収集・分類・分析
医療現場でAIを導入する際の課題
 ・医療従事者のAIに関する知識の不足
 ・AIの説明性と妥当性の検証
医療関連分野でのAI活用と展望
 ・新薬の開発
 ・診察・治療の支援
 ・介護
医療現場はAIの壁を乗り越えられるか

医療現場でのAI導入の実際

つい先日もGoogleが医療用の画像認識AIを開発・提供することが発表されましたが、人間の知能を模した機能を持つ技術群であるAIは、特定の機能であれば人間以上のパフォーマンスを発揮することが明らかになっており、医療現場では画像診断などを中心に導入が進められています。

一方で、医療従事者の多くがAIに関する知識を十分に得ていないなど、現場でAIを存分に活用するにはまだまだ多くの課題が残されています。また、ディープラーニングなどAI技術に関わる技術が進歩してきたとはいえ、現場医療に十分な有効性を発揮できるかの妥当性が十分に検証されていないケースもあり、AIが人に代わって意思決定を担うようになるまでには、まだ時間がかかるのが実際です。

出典:WIRED「グーグルが開発した“医療用”の画像認識AI、その実用化までの課題」

医療現場でのAI活用事例

医療現場へのAI導入を目指すにあたっては、まず実際の事例を知ることが第一です。医療AIは、その現場特性から慎重にらざるを得ない面があるものの、さまざまな場面で活用が進められています。ここでは、4つのシーンでの活用事例をご紹介します。

レセプト業務の自動処理

ここでのレセプト業務とは、行った診療の内容をもとに診療報酬明細書(レセプト)を作成し、審査支払機関へ提出する業務を指します。定型的な処理を得意とするAIは、バックオフィス業務との相性が良いとされており、その業務の一部をAIで自動化するソリューションの開発も進められています。

例えば、人が作成したレセプトをチェックするためのAIチェッカーが提供されており、複数のAIプロダクトが実際に現場で使用されています。AIでレセプトをチェックすることでミスを高確率で見つけることができ、誤請求の防止や事務業務の効率化につながることが期待されます。

診療録(カルテ)解析

ディープラーニング技術や最近ではTransformerなど、機械学習技術の進化により、テキスト情報を処理する技術分野である自然言語処理の能力も発達してきています。自然言語処理技術を用いることで、例えば『AI問診ユビー』などのような、カルテから疾病を診断するAIが医療現場で活用される例も増えてきました。

カルテには患者の病歴や検査結果、診察を通して得られた医師の所感などが書き込まれていますが、内容が膨大だと人の目では疾病を診断するのが難しいケースもあります。膨大なデータの中から規則性を見つけ出すことを得意とするAIを用いることで、カルテから疾病を特定し医師の診断を支援し、作業時間も短縮化するといったことが目指されています。

AI画像診断

医療AIの活用方法としてよく耳にするのが、画像から疾病診断を行うAIです。レントゲン写真や心電図などの特徴を学習させることで、ケースによっては医師よりも正確に、かつ素早く疾病診断ができるといった例も報告されています。また、患者の高齢化と患者数の増大などを背景に、医師の数が追いついていないという現状がある中、こうしたAI画像診断を用いることで現場の負担を軽減し、スムーズに診断や治療を進められるという点でも、今後の活用が期待される分野です。

一方で、患者の命を預かる医療においては誤診は許されません。またその診断の説明性も求められることから、重大な内容に関わる診断を完全にAIに任せるケースは稀であり、あくまで医師の判断を支援するためのツールとしてAIを用いるのが現実的な活用方法だと考えられます。

出典:QLifePro 医療ニュース「AIに心電図とレントゲン画像を読み込ませ、副伝導路の高精度な予測に成功-神戸大」

医療現場へのAI導入メリット

上でご紹介してきたように、医療現場へのAI導入はさまざまな分野で進められている一方、命に関わる重要な部分についてはやはり医師による判断が必要であり、AIはあくまで支援ツールとしての位置付けにありますが。では、医療現場でAIを活用することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。

事務作業の効率化

レセプト業務へのAI導入事例でもあったように、決まった形式のデータを処理するような定型的なタスクはAIの得意とするところです。レセプトをチェックするAIのほか、受付業務、精算業務など、さまざまな医療事務がAIによってさらに効率化される可能性があります。

医療データの収集・分類・分析

多くのデータから規則性を見出し、共通する部分を特定、一定の基準に従って分類することもAIが得意とするタスクです。自然言語処理を用いたカルテ診断AIの事例であったように、その患者の病歴が長い場合など、データが膨大になるケースでは医師でも判断に困難を伴うこともあります。AI技術を用いることで、このようなビッグデータの収集や分析を行い、医師の治療をサポートに役立てる可能性があります。

医療現場でAIを導入する際の課題

医療AIの可能性の高さや成功事例を知っても、なかなか導入に踏み切れないというのが多くの方の抱えている実情です。そこで、医療におけるAI導入の課題についてまとめてみます。

医療従事者のAIに関する知識の不足

AIは高度な技術知識を伴う一つの専門領域であり、それを扱う側にもある程度の知識が必要になります。AIはいずれ、医療現場のあらゆる箇所で導入が進んでいくと考えられますが、やはり医療従事者にも一定の知識を習得することが求められます。こうした背景から、医師を始めとした医療従事者が知識不足にならないよう、医学科の必修科目にAIを追加しようという議論も活発になってきています。

出典:The Medical AI Times「医学生の基礎教育にAI科目導入の必要性」

AIの説明性と妥当性の検証

近年、「説明可能なAI(XAI:Explainable AI)」という言葉もキーワードになっていますが、特定の機能に特化したAIの機能が十分に高いだけでは不十分であり、なぜそのような判断をAIがしたのかの説明性を担保し、またAI技術の妥当性の検証が十分に行われる必要があります。

AIの学習方法にはさまざまありますが、例えば画像診断AIのような疾病診断を支援するAIの場合には、過去の検査内容などを読み込んで学習させる「教師あり学習」が用いられることが主流です。この場合、AIは学習したことは正確に判断できる一方で、学習していないことには当然ながら対応ができません。そのため、訓練用のデータセットと同様の条件のデータでは正確な判断を下せたとしても、実際の医療現場で取得される新規のデータに対して同様の判断ができるかどうかは未知数ということです。また、十分な量のデータセットを用いて学習を行ったつもりでも、特定のグループのサンプルが足りていない場合には偏った診断をしてしまう可能性もあります。

いわゆるPoC(Proof of Concept:概念実証)で成功しても、実際の本番環境である医療シーンで活用できるかは別問題であり、実際の医療現場を想定した検証を十分に行う必要があります。

参考:The Medical AI Times「医療AIの最新活用事例とは?医師が解説【2021年版】」

医療関連分野でのAI活用と展望

現時点では導入するためにさまざまな課題もある医療AIですが、直接的な医療現場だけでなく、その他の関連分野での活用も期待されています。

新薬の開発

医薬品の開発は人の手によって行われていますが、ここにAI技術を活用する取り組みが登場しています。例えば、大日本住友製薬とイギリスのExscientia Ltd.は、2020年1月、AIを用いて開発した新薬の臨床試験が開始したことを発表しました。AIを用いることで、医薬品開発の効率化が期待できるだけでなく、いわゆるマテリアルズ・インフォマティクスのように、人では発見することが難しい原材料の組み合わせや合成経路を見つけ出すことが今後期待されます。

出典:大日本住友製薬「大日本住友製薬とExscientia Ltd.の共同研究 人工知能(AI)を活用して創製された新薬候補化合物のフェーズ1試験を開始」

診察・治療の支援

医師の診察や治療の現場ではまだまだAIの活用は限定的ですが、さまざまな活用が模索されています。例えば、医療現場で広く使われている聴診器にAI機能を搭載し、患者の異常な呼吸をいち早く検知するという技術が登場しています。また、採血を人間ではなくロボットが行うという取り組みも行われており、手術の一部を外科医ではなくロボットが行うということも将来可能になるかもしれません。

参考:The Medical AI Times「医療AIの最新活用事例とは?医師が解説【2021年版】」

介護

医療に関係する分野として、介護の現場でもAI導入が進められています。プライバシーを保護しつつ施設入居者の24時間観察を行うほか、データに基づいた介護プランを作成するなどのAI活用例も登場していますが、要介護者とコミュニケーションを取ることのできる介護ロボットの開発なども行われており、AI活用はさらに進んでいくことが期待されます。

関連分野でのコラムとして以下も公開していますので、これら分野に関わる方はぜひご覧ください。

見えてきた、介護業界のAI活用
薬局DX。AIは薬剤師業務を変革できるか

医療現場はAI導入の壁を乗り越えられるか

人の命を扱う医療では、AIはもちろんのこと、その診療・診断を機械に任せるということには大きな抵抗や難しさがあるのが実際です。近年の技術進化を背景にAIの技術力や精度には向上が見られていますが、まだまだ乗り越えるべき壁は多く、導入分野の模索だけでなく、AIの説明性の担保、技術的な妥当性など、入念な検証を踏まえた上で、導入に向けた試行錯誤が続いていくことが予想されます。

当社では、技術ソリューションとしてAIを設計(デザイン)するだけでなく、ビジネス側の運用や業務も合わせて再デザインする概念を「ソリューションデザイン」と呼び、その重要性を提唱しています。特命を預かる医療現場は、このソリューションデザインが他業界にも増して重要な業界だと考えられます。

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