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Laboro.AIコラム

その課題はやはり過大。見えてきた、介護AIの可能性

公開2021.5.13 更新2023.3.13

概 要

高齢者をはじめ、私たち国民を支える重要な役割をもつ介護業界は、少子高齢化やそれに伴う社会保障費の負担の増加、介護難民の増加など、さまざまな問題を抱えています。こうした課題を解決するために、AIというテクノロジーはどのように力を発揮することができるのでしょうか。今回のコラムでは、介護業界が直面する課題、そしてAI活用の動き、また実際のAI導入事例をご紹介していきます。

目 次

介護業界が抱える課題
 ・介護難民の増加
 ・2025年問題
 ・平均寿命の上昇
 ・送迎業務の負担
 ・社会保障費の増加
介護業界でのAI活用の動き
 ・施設入居者の観察
 ・情報のデータ共有
 ・データに基づいた介護
介護業界でAIを活用するメリット
 ・介護スタッフの負担軽減
 ・介護の質の向上
 ・介護利用者や家族の満足度向上
介護業界でAIを活用する際の注意点
介護業界でのAI導入5事例
 ・介護送迎サービス支援
 ・行動モニタリング
 ・ケアプラン作成支援
 ・介護リフォームの設計支援
 ・AI搭載の自立走行ロボットの活用
介護業界のAI活用に向けた国の取り組み
介護現場ごとのAI導入設計

介護業界が抱える課題

介護業界に直接的に関係する社会課題として、大きく五つが挙げられます。

介護難民の増加

介護を必要としている要介護状態であるにもかかわらず、十分な介護を受けることができていない「介護難民」は、年々増加し続けていると言われています。特に、75歳以上の後期高齢者の急増が見込まれる東京、神奈川、埼玉、千葉の4都県から成る東京圏での増加が深刻です。高度経済成長期に職を求めて地方から東京圏に集まった多くの方々が高齢化していることが理由として考えられています。

一方、地方には余力のある介護施設が多く存在しているとも言われており、今後、介護難民の数は特に東京圏で大きな課題となっていくことが予測されます。

2025年問題

介護にまつわる問題として指摘されるのが、比較的多くの人口が含まれる団塊の世代が75歳以上を迎える2025年問題です。日本経済の成長を支えてきた団塊の世代が75歳以上となる2025年以降、社会保障関連費用の負担増加や介護人材の不足が一気に加速すると言われています。

実際、65歳以上の高齢者の人口割合は、2015年に26.6%だったものが2025年には30.0%に、75歳以上の人口割合は12.8%から17.8%にまで増加すると予想されています。その一方で、2022年の出生数が速報ベースで初めて80万人を割るなど、少子化を背景にして、高齢者を支える生産人口は減少していくことから、その役割を担う介護業界の存在がますます重要になっていくものと考えられています。

出典:厚生労働省「人口動態統計速報(令和4年12月分)」(2023年2月28日)

平均寿命の上昇

長寿大国の日本では、医療の発達や栄養・衛生環境の改善などを背景に、平均寿命は年々上昇しています。喜ばしい反面、単に年齢の長さを指す「寿命」と健康な状態を保った上での「健康寿命」とには大きな違いがあります。健康かつ長寿であることを目指すためには、医療はもちろんのこと介護業界に求められる役割が今後増していくことが考えられます。

出典:みんなの介護「【超高齢社会】介護業界が抱える問題に迫る(人手不足・介護難民・虐待)
   内閣府「人口急減・超高齢化の問題点

送迎業務の負担

介護業務の中でも少なくない割合を占めているのが、通所介護サービスにおける送迎業務です。介護施設の職員の中から運転できる人材が担当することになり、場合によっては通常業務を圧迫することがあります。

介護のサービスレベルを上げていくには、介護スタッフが介護に専念できる環境づくりが重要です。厚生労働省も、介護と送迎は業務を分離することが望ましいとしています。

出典:みんなの介護「事業者の負担が大きい通所介護の送迎業務。地域一体で解決する送迎サービスが誕生!」(阿部洋輔)

社会保障費の増加

上記の健康寿命が伸びていない件と関連し、社会保障費が増加を続けている問題も指摘されています。平均寿命が伸びながらも健康寿命がなかなか伸びないと、医療費や介護費用は増大し、国民1人当たりの負担も増えてしまいます。

財務省によると、社会保障給付をまかなうための税金と借金の総額は、1990年度から2020年度までの間に約3.7倍増えているとしています。

出典:財務省「なぜ社会保障費は増えるのか

介護業界でのAI活用の動き

以上で挙げたような介護業界の大きな課題に対して、AIを活用して解決しようとする動きが見られます。AIは、従来のITでは対応が難しかった大量のデータを処理したり学習データとして活用できたりするほか、それらのデータの中から共通する特徴を抽出することなどを得意とすることから、さまざまな活用の可能性が期待されています。

施設入居者の観察

介護施設では、施設入居者の状態を常時把握できていることが望ましいものの、介護スタッフのリソースには限界があります。そこで、センサーと連携したAIシステムを用いることで、入居者の体温や心拍数、位置情報などを常に把握するような取り組みが行われています。

入居施設のさまざまな箇所にIoTのセンサーを設置することで、施設入居者の起床やトイレのタイミング、食事の量、転倒など、さまざまな情報を24時間把握していくような活用が期待されます。

情報のデータ共有

厳密にはAIの領域ではありませんが、AIを導入する前提として各種の情報をデータとして整備・管理することが伴って必要になります。施設入居者の体調、食事の摂取量、行動情報などといった情報は通常、少人数の介護スタッフによる観察のみで把握することには限界があります。しかし一定のルールに基づいたシステムとして蓄積していくことで、施設入居者に関わるあらゆる情報をスタッフ間で共有し、客観的に把握できるようになることが期待できます。

データに基づいた介護

施設入居者に関する情報を基にした介護プランの設計も、AIの活用が期待される分野です。最適な介護プランを提案することがAIによって実現できれば、介護スタッフは介護業務そのものに集中できるようになります。介護スタッフの負担軽減はもちろんのこと、介護の質が向上することで、入居者や家族の満足度向上にもつながることが期待されます。

介護業界でAIを活用するメリット

介護業界では、AIを活用することでどのようなメリットが得られるでしょうか。

介護スタッフの負担軽減

AI活用によって本来注力すべき介護業務以外の業務が自動化されたり、軽減されたりすれば、介護スタッフの負担軽減につながることが期待されます。介護サービスの需要が今後ますます増す中、限られた人材でもサービスを拡充しやすくなり、また介護業界での働きがいの認知が広まる可能性もあります。

介護の質の向上

介護スタッフの負担軽減ができれば、介護スタッフは本来の業務に集中できるようになり、よりきめ細やかな作業や利用者との心のこもったコミュニケーションが増え、介護全体の質向上が期待できます。介護サービス全体の質が上がれば、持続可能な社会の実現にもつながると言えるでしょう。

介護利用者や家族の満足度向上

介護サービスの質が上がれば、介護利用者はもちろん、家族の満足度の向上にもつながると期待できます。介護はもちろん、利用者や家族のためにあり、彼らの 満足度を高めることがのは根本的に重要です。そのための手段として、AI活用を検討する価値があります。

出典:学研Cocofump「介護業界でのAI活用は役に立つ?導入の現状や利点・課題から実際の事例まで解説」(坂入郁子)

介護業界でAIを活用する際の注意点

介護業界でもAIの導入がさまざまな視点から検討されていますが、多くの課題や注意点もあります。
AIを開発する側の視点としては、カメラを用いた画像認識AIサービスを開発する際、プライベートの問題をクリアする必要があります。個人情報が意図せず蓄積されたり漏洩したりしないようにする仕組みづくりも必要です。

また、介護サービスでは命に関わる場面もあるため、安易にAI任せにすることは難しいと言えます。人とAIがどう安全に協業できるかを十分に考える必要があります。
サービスを導入する側としては、AIがあればすべて解決するわけではないことを理解し、自社や施設・利用者に合ったAIサービスを見極めることが重要です。

介護業界でのAI導入5事例

ここからは、実際に介護の現場に導入され、高い効果を生み出すことが期待されているAI導入事例を五つご紹介します。

介護送迎サービス支援

まずは、パナソニックカーエレクトロニクスが開発した業務用車両管理システム「DRIVEBOSS」を介護送迎サービスに応用した事例です。このケースでは、施設利用者の情報を考慮し、効率の良い送迎ルートを作成することを実現しています。介護施設の送迎では、利用者の車椅子利用の有無、直前連絡の要不要、車の乗降に要する時間、座席の配置、施設からの距離などさまざまなことを考慮して送迎計画を立てる必要があります。このような複雑な情報を元にしたルート予測をAIが代行することで、送迎にかかるスタッフの負担軽減につながることも目指されています。

また、DRIVEBOSSには事故抑制の機能もあり、急加速や急停止、速度超過に対してアラートを出すといった機能も備わっています。運転の良し悪しはログによって評価されるため、ドライバーの安全意識の向上につなげることも期待されます。

出典:Panasonic『DRIVEBOSS送迎支援サービス』

行動モニタリング

介護総合支援事業を展開しているインフィックと、ITを用いて介護事業者、入居者、家族の3者間のコミュニケーションを円滑化する事業も行う凸版印刷により開発されたのが、この事業のコアシステムとして使用される「LASHIC+(ラシクプラス)」です。

LASHIC+は、入居者のプライバシーを侵害しない程度の簡易センサーにより温度や人感などを取得し、AIにより取得した情報を解析する機能を備えています。これにより入居者の行動をモニタリングしたり、普段と違った行動があった場合にアラートを出したりするなどの活用が行われています。

出典:PR TIMES『凸版印刷とインフィック、センシング×AIで介護業務を支援』

ケアプラン作成支援

シーディーアイによるAIケアマネジメントサービス「SOIN(そわん)」は、ケアマネージャーのケアプラン作成を支援するシステムです。ケアマネージャーが必要な情報をSOINに入力すると、SOINは多くのケアマネージャーによる膨大な実績から介護対象者の状態が改善する可能性の高いケアプランを提案する仕組みになっています。この提案結果にケアマネージャー自身が築いてきた経験を重ねれば、より介護対象者や家族に対してより説得力のあるケアプランを提示できるようになることも見込まれます。

出典:@Press『在宅ケアマネジメント基本システム(AI)をリリース  AIケアプラン実装による適切なプラン作成の支援と 業務効率化をサポート』

介護リフォームの設計支援

介護リフォーム工事を手がけるユニバーサルスペースでは、介護用にリフォームしたい現場写真を基に設計支援を行うAIアプリシステムのテスト運用をしています。専用のタブレット端末でリフォーム対象の箇所を撮影することで自動採寸ができ、その情報を基に適切な部材の選択を支援するなどの仕組みが備わっています。このアプリシステムにより、これまで1カ月以上かかっていた工事期間を約2週間に短縮でき、大幅な効率化を実現したとしています。

出典:@Press「業界初!介護リフォームの見積作成AIアプリを開発  創業10年を迎え事業の加速と年内にFC加盟100店舗を目指す」

AI搭載の自立走行ロボットの活用

Aeolus Robotics Corporationが開発した「アイオロス・ロボット」は、周囲の環境を認識、学習できるAIビジョンセンサを搭載し、2本のアームで物を掴むことも可能な自立走行ロボットです。機械学習技術により周囲の環境を学習すると同時に、学習内容をクラウド上で複数のロボットが共有してフィードバックを繰り返すことで、日々変化する環境にも適応できるとしています。介護現場におけるアイオロス・ロボットの具体的な役割としては、人物を特定してあいさつする見守り、高齢者の転倒などを知らせる緊急対応、日用品や食事、洗濯物等の運搬などが想定されています。

AI搭載ロボットの導入はまだ課題が多いのが現状ですが、介護スタッフの身体的な負担を軽減することはもちろん、高齢者との会話や心のケアといった業務に割く時間の増加にも期待が寄せられます。

出典:PRTIMES「介護現場でのAI搭載型ロボットの実用化に向けオリックス・リビングとAeolus Roboticsがコンサルティング契約を締結」

介護と近い関係にある医療やヘルスケアでのAI活用事例については以下のコラムもご覧ください。
「生命線」としてのデータ。ヘルスケア&医療×AI 活用事例

さまざまな産業におけるAI事例は以下のコラムをご覧ください。
産業別 AI導入事例 コラムダイジェスト

介護業界のAI活用に向けた国の取り組み

介護業界でAIサービスをはじめとしたICT(情報通信技術)の活用が広がるよう、国もさまざまな取り組みを行っています。例えば、介護施設などの現場向けには、介護AIの導入におけるマッチング、助成金、税制優遇措置、金融支援などの補助があります。また、介護ロボットを開発しているベンダーへ向けての支援もあります。

こうした支援策があることで、介護業界全体でAIやICTの活用の機運が上がり、介護サービスが改善していくことが期待されます。

出典:厚生労働省「介護ロボットの開発・普及の促進

介護現場ごとのAI導入設計

比較的最近までITなどのデジタル技術が入り込みづらかった介護現場ですが、介護対象者の体調や状態など、データとして蓄積できる情報も多く存在しています。こうした物理現場での情報取得や解析はAIの活用が期待される分野だと言えます。

ただし、介護サービスや施設によって方針や必要な解決策が異なるため、AIソリューションを一律に導入できるわけではありません。ビジネス課題を見極めた上で、自社に適したAIを設計することが重要になってくるはずです。また施設や企業側だけでなく、利用者やその家族からもAI技術を利用することに対する理解を得ることも必要になると考えられます。さまざまなステークホルダーとの関係を考慮し、運用も含めた上で導入設計を考えていくことが、介護業界でのAI導入には特に大切なポイントになってくるでしょう。

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