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Laboro.AIコラム

「生命線」としてのデータ。ヘルスケア&医療×AI 活用事例

2022.6.21

概 要

ウェアラブルデバイスをはじめとしたセンシング技術の高度化、そしてAI技術の発達によって、近年、ヘルスケアに関するデータを非侵襲で収集し、またそのデータの分析を通して新たな体に関する法則を発見したりといったことが可能になってきています。いまヘルスケア・医療はこうしたデータ取得・解析の技術進化を背景に、身体管理の未来に向けた大きな転換期に入っています。今回のコラムでは、ヘルスケア・医療分野でのAI活用事例をご紹介していきます。

目 次

ヘルスケア・医療でAIはどう使われているか
ヘルスケアでのAI活用事例
 ・栄養バランスなどの食事アドバイス
 ・パーソナルAIトレーナーによるレコメンド
 ・ウェアラブル端末による心拍数の計測
 ・睡眠の質の計測
病気の発見・治療・介護でのAI活用事例
 ・AI画像診断
 ・新薬の開発
 ・介護施設のモニタリング
 ・ケアプラン作成支援
“AI活用”は、AIだけでは実現できない

ヘルスケア・医療でAIはどう使われているか

国内のAI利活用状況をまとめた『AI白書 2022』によれば、AIを導入あるいは検討している企業は実に40%を超え、多様な業種・業界でAIの活用が進められていることが報告されています。中でもヘルスケアの領域ではウェアラブルデバイスを始めとしたセンシング技術の高度化によって、これまで未取得であったデータの収集が進んでおり、より簡単に、そして日常的・継続的に自分の体に関する情報を可視化できるような環境が整いつつあります。

また、これまでそのセンシティブさから活用が控えめであった医療現場でもAIを導入する動きが多く見られるようになっており、例えば、CTスキャンやMRIなどで取得された画像データをAIに学習させて同様の症状を検出するためのシステムを構築する例や、マテリアルズ・インフォマティクスの見地から新薬開発や創薬にAI技術を活用する例など、多方面で新たなデータを活用した取組みが進められています。

ヘルスケア領域でのAI活用事例

ここからは分野ごとのAI活用事例についてご紹介していきますが、まず日々の健康管理・維持や病気予防のための活動として位置付けられるヘルスケア領域でのAI活用事例を見ていきましょう。

栄養バランスなどの食事アドバイス

健康維持のための重要な要素である食事についてAIがアドバイスをくれるサービス「カロママ プラス」は、食事を入力することによるカロリー計算はもちろん、その栄養バランスの評価、日々の食事に関するアドバイス、運動内容の管理など、食事にまつわるさまざまな機能を持ったアプリです。カロママプラスでは約1万人の管理栄養士のネットワークを活かした運営をしている他、科学的なエビデンスに基づいたアルゴリズムによって、2億通り以上のアドバイスを行えるとされています。

また当社Laboro.AIでは、味の素様が展開するパーソナライズ献立提案アプリ『勝ち飯®AI』の開発を支援しました。このアプリは、味の素様が保有するノウハウから必要な栄養計算をアルゴリズム化し、計算された栄養素を満たす献立を機械学習で提案するというもので、一般的な献立AIでは事前に用意された内容を用いるケースが多い一方、今般のアプリでは献立というユーザーが毎日参照するものであること、ユーザーによって嗜好性が異なるものであることを踏まえて、大量のレシピの組合せからパーソナライズされた最適な献立提案を行うことを実現しています。

参考:プロジェクト事例「パーソナライズ献立提案『勝ち飯®AI』
   Laboro.AIコラム「新・食体験に挑む。食品AIの可能性

出典:カロママ プラス

パーソナルAIトレーナーによるレコメンド

健康維持の観点では、食事だけでなく運動も重要な要素です。運動に関してAIを活用している事例として、ヘルスケアプラットフォームアプリとしてリリースされている「FiNC」があります。FiNCは、パーソナルAIトレーナーが内蔵され、AIがダイエットやフィットネスをサポートするアプリで、体重や歩数、睡眠、食事などをまとめて記録することができ、AIトレーナーが1人ひとりに合った提案をしてくれるというものです。また、実際の栄養士やトレーナー、アスリートなどが発信するエクササイズメニュー、ヘルシーレシピなどに関する動画コンテンツも用意されている点が特徴とされています。

出典:FiNC Technologies

ウェアラブル端末による心拍数の計測

センシング技術の高度化により、時計機能に留まらない様々な機能を搭載したスマートウォッチが多く登場しています。スマートウォッチはウェアラブル端末の代表的なもので、その機能としては心拍数計測がよく知られるところです。スマートウォッチの代表格であるApple Watchにも心拍数機能が搭載されており、AIによる解析を通して心拍数の上昇を通知してくれるなどの機能が搭載されています。このように人間の状態をデータ化して収集するウェアラブル端末は、IoB(Internet of Bodies / Behaviors)と呼ばれ、近年、様々なデバイスが誕生しています。

参考:Laboro.AIコラム「 IoBが拓く、身体とネットの新結合

睡眠の質の計測

睡眠時の動きを加速度センサーで読み取ったり、呼吸の音などを分析したりすることで睡眠の質を計測するといったAIの活用も進んでいます。動きや音などのデータからその睡眠が健康な状態なのか、あるいはそうでないのかを分析するためには、さまざまな状態の特徴パターンを学習することを得意とするAIが活躍するところです。睡眠の質計測を目的としたアプリも多く登場しており、熟睡しているか、いびきをかいていないかなど、自分の睡眠の状態をある程度把握できるようになってきています。

出典:SORCENEXT「いびきラボ」

病気の発見・治療のためのAI活用事例

日常的な健康管理や予防を目的としたヘルスケア領域だけでなく、病気が発症した後の対策として位置付けられる医療分野でもAIの活用が進んでいます。ここでは医療の中でもとくに病気の早期発見や治療、そして介護を目的としたAI活用事例を見ていきましょう。

AI画像診断

AI画像診断は医療分野でもとくにその重要性が高く、AIの技術進化が進んでいる分野のひとつです。MRI画像やCT画像などから病気を診断することは、熟練の医師でも見落としや間違いが少なからず存在する、スキルと経験が必要とされる難易度の高いタスクですが、人間を超える精度を獲得しつつあるAIがとくに力を発揮しやすい領域の一つでもあります。

例えば、アメリカのスタートアップ企業Enliticが開発したAIシステムは、MRI画像やCT画像、X線などの画像診断を高い精度で処理するもので、癌については放射線専門医より50%近くの正確性をもって診断できるとしています。他にも、同じくアメリカのスタートアップ企業Arterysが開発した3DのMRI映像システムは、通常は静止画として表示されるMRI画像をAI技術を用いて3Dアニメーション化し、心臓の動きや血流をリアルに表示、医師による画像診断をサポートすることに一役買っています。

さらに、MRI画像からアルツハイマーの発症予測をする研究成果も近年報告されており、2022年6月、UKにあるNIHR(National Institute for Health and Care Research Center)は、400名のアルツハイマー患者のデータを用いて学習させたアルゴリズムを用いて、約98%の精度で症状の有無を検出し、約79%の精度で早期・末期のステージ予測に成功したことを報告しています。

出典:DAIC “6 Takeaways in Cardiac and Vascular Imaging at RSNA 2021
   News-Medical “MRI-based machine learning approach can accurately predict Alzheimer’s disease

新薬の開発

画像診断のようにフィジカルなシーンだけでなく、製薬・創薬でAIを活用する取組みも進んでおり、とくに近年、元素レベルでの素材の組合せを導き出すマテリアルズ・インフォマティクス(MI)が注目を集めています。その特性から難易度が高い領域である上、治験などの手続きも必要であるため、その活用は慎重にならざるを得ませんが、今後ますますの活用が期待される分野の一つとして期待されています。

参考:Laboro.AIコラム「化学のような、AIと産業の融合。MIの新価値

介護施設のモニタリング

術後のリハビリや介護も重要な医療分野の一つです。介護施設にいる入居者が安全に過ごせているかをモニタリングするためにAIを活用するといった取組みも多く検討されていますが、プライバシーの問題から室内にカメラを設置することができないケースが少なくありません。そのため、人感センサーや赤外線センサーをはじめとした画像に頼らないセンシング技術を活用して入居者の状態を感知し、プライバシーを保護した上で必要なデータを得るといった手法も増えてきています。こうした新規の技術を用いて入居者の睡眠の質やトイレのタイミング予測、起床時間、転倒などを検知し、離れた場所からのモニタリングを実現するサービスも登場しています。

出典:日経クロステック「介護現場の判断をセンサーやデータで支援、ベンチャーのツールがじわり浸透

ケアプラン作成支援

介護職員の重要でありながらも負担の多い業務のひとつとして、ケアプランの作成が挙げられます。AIの活用によって、入力した内容に応じたケアプランを予測・生成し、介護職員の負担を軽減することが期待されるほか、被介護者の将来の状態予測をすることでケアプランの内容に新たな気づきを与えるといった効果も期待されており、実際にこうした作成支援ツールも登場しています。また、AIケアプラン作成システムを提供するCDIが、2021年に愛媛県伊予市・西条市で実施した実証実験では、AIが作成したケアプランを参考することによって被介護者の状態改善が見られたことが報告されています。

なお、ケアプラン作成支援など、介護現場におけるAI活用については以下のコラムでもご紹介しています。

参考:Laboro.AIコラム「その課題はやはり過大。見えてきた、介護AIの可能性

出典:DiGiTAList 「シーディーアイが「SOIN」に新機能を追加 「アセスメント支援AI」機能でより質の高いケアマネジメントを提供
   高齢者住宅新聞「AIケアプラン実証実験 愛媛県伊予市・西条市で

“AI活用”はAIだけでは実現できない

今回はヘルスケア・医療での様々なAIの活用例をご紹介してきました。多くの領域で活躍するAIではありますが、上記の事例からも見えてくるように、AI技術単体が何かしらの革新を起こしている訳では決してなく、とくに各種のセンシング技術との両輪の進化が近年のイノベーションをもたらしています。MRIといった画像データの取得、ウェアラブルデバイスを通した健康に関わるデータの取得、人感センサーによる行動データの取得、これまでは未知だったデータを活用できるようになっている背景には、様々なセンシング技術の高度化が背景にあります。

近年、ビジネスワードとして「両利きの経営」という考え方が注目されています。つまり、既存のビジネスを改善していく「深化」と、新たなビジネス領域を模索する「探索」、この両面で事業を発展させていくべきという考え方ですが、データにも同様のことが言えるように思います。既存に保有しているデータを活用する「深化的なアプローチ」と、先端技術を活用して新たなデータを取得してく「探索的なアプローチ」があるとすれば、こと近年は後者のアプローチによって革新が起きているということです。

AI技術は確かに有望なテクノロジーではありますが、実際、その範囲は与えられたデータに何かしらの処理を施すことに留まります。“AIを活用する”ということを考えるにあたっては、AIや機械学習という一領域の技術についてのみ想像を巡らせるだけでは足りず、その前工程にあたる“データの取得”、そして後工程にあたる“出力結果の現場反映”までにも気を配る必要があります。それぞれの工程の関連領域で起きている様々な技術進化を追いかけること、とくにデータの深化・探索に関わる技術キャッチアップはAI活用の生命線であり、とても大切なことなのです。

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