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Laboro.AIコラム

IoBが拓く、身体とネットの新結合

2022.1.23
株式会社Laboro.AI マーケティング・ディレクター 和田 崇

概 要

2021年頃から急速に注目を集めている戦略的テクノロジーのトレンドのひとつ「IoB」。“身体や振舞いのインターネット化”を意味し、人々の状態や行動をデータとして取得することを目指すIoBとは、どのような概念で、今後どのような活用が見込まれるのでしょうか。今回のコラムでは、IoBの概要や活用例、今後の進化について考えていきます。

目 次

IoBとは
 ・「Internet of Bodies」としてのIoB
 ・「Internet of Behaviors」としてのIoB
IoBとIoTの違い
IoBの活用例 3選
 ・ウェアラブルデバイスによる医療向け身体情報の収集
 ・画像データからの認識・検出・識別
 ・位置情報取得からの感染経路の特定
IoBの未来、その2つのタイプ
 ・タイプ1:ウェアラブル
 ・タイプ2:体内内蔵型
IoBのリスク
 ・サイバーアタック・情報漏洩
 ・デバイスの不備・故障
技術と共にビジネス側も進化させる

IoBとは

人流、温度、過密度、混雑状況など、センサー技術の進化によって私たちの身の回りを取り巻くあらゆる事象がデータとして取得することができるようになってきたことは、この数年で鮮明にわかってきたことかもしれません。

IoBとは「Internet of Bodies / Behaviors」の略で、前者の「Internet of Bodies」は「身体のインターネット」、後者の「Internet of Behaviors」は「振舞いのインターネット」という意味で、人々の身体の状態や振舞いを何かしらのセンサー技術で感知し、インターネットを通じてデータとして取得・収集すること、あるいはそのための機器を指す言葉です。

IoBは、アメリカのIT調査会社であるガートナー社が、2021年の戦略的テクノロジーのトップトレンドのひとつに挙げるほど、急速に注目度を高めているテクノロジーです。この背景には、RFIDやウェアラブルセンサーなど、さまざまなセンサー技術の進化があることに加え、インターネットの通信品質の向上と普及、そして収集されたデータを解析するために用いられるAI技術の発達など、複数の技術革新が結合した結果として、IoBの実現性・有用性を急速に高めてきたことが挙げられます。

IoBの進化によって、デジタルダスト(粒度の小さいデータ)を含めた、これまで取得できなかったような新規性の高い情報をセンサーによって収集、高速インターネット通信を通じてほぼリアルタイムにセンターに集約、それらを統合的にAIが分析、そして次に取るべきアクションを予測する、こうした複数技術の総合的な進化がトリガーとなって近年、新たなソリューションやプロダクト、マーケットの創出につながっているのです。

さて、IoBの”B”には、Bodies(身体)とBehaviors(振舞い)の2つが含まれていますが、それぞれどのような意味合いを持つのでしょうか。

「Internet of Bodies」としてのIoB

「身体のインターネット化」と言うと少しSFチックな雰囲気も漂ってきますが、第一のInternet of Bodiesとは、人の身体をインターネットにつなぐことで取得されるデータあるいはその機器の意味で、とくに脈拍や心拍、睡眠サイクルなど生理的なバイオメトリクス情報の活用・取得が主に言われるところです。

こうしたデータを取得するための機器としては、体内にマイクロチップを埋め込むといった極端なデバイスもある一方で、身近に分かりやすい例としてはApple Watchに代表されるスマートウォッチを用いた身体データの収集が挙げられます。

身体状態やバイオメトリクス情報を取得するBodiesとしてのIoBは、スマートウォッチのようなウェアラブルデバイスをはじめ、新たなセンサー技術の登場によって近年開拓されてきたマーケットであり、これまで取得が難しかった新規性の高い身体データの活用を目指す取組みが次々と登場しています。

出典:itrex “What is the Internet of Bodies (IoB), and why should you care?”

「Internet of Behaviors」としてのIoB

一方、第二のInternet of Behaviorsはかなり広い概念であり、人々の行動や振舞いをデータとして取得することを意味します。上にも挙げたスマートウォッチのようなウェアラブルデバイスを活用する場合には、GPSから位置情報や移動速度などの活用可能性が考えられ、その他にも施設内に設置された監視カメラを用いた人流・動線データの収集なども挙げられます。

こうした新しいセンサーやデータ取得技術の活用はもちろんですが、実は、現在でもビジネス活用が盛んなWebサイトの閲覧履歴や行動履歴も、Behaviorsという意味ではIoBに含まれてきます。既に普及しているパソコンもある意味、データ収集・通信・分析機能が備わったセンサーであり、こちらの第2のIoBについては、決して新しい技術活用のみを指す言葉ではありません。

また、「モノのインターネット」を意味するIoTがデータ収集と通信機能を備えたデバイスやテクノロジーを意味することに対して、Behaviorsの意味としてのIoBは、IoT技術によって取得された行動データを活用することから、IoTを包含するコンセプトととしても捉えることができます。

このように同じIoBでも、新たなセンサー技術を活用して身体状態やバイオメトリクス情報の取得・活用が主として言われるBodiesとしてのIoBと、広く行動データの取得・活用を意味するBehaviorsとしてのIoBでは、人間に関するデータを収集すると言う点では同じではありますが、用いられる技術や目的、コンセプトが大きく異なることには注意が必要かもしれません。

出典:TECH FUNNEL “What Is the Internet of Behaviors? – A Guide”

IoBとIoTの違い

上でも少し触れましたが、IoBと似たような言葉としてIoT(Internet of Things)がありますが、IoTは「モノのインターネット」と訳され、さまざまなモノがインターネットにつながっている状態を可能にするテクノロジー、あるいはそのためのデバイスを指す言葉です。IoTの代表的なものとしては、近年、自動運転車や内部の状況を把握した上でレシピ提案をする冷蔵庫など、新しいテクノロジーも注目されていますが、パソコンやスマートフォンなど、私たちが現段階で使い慣れている多くのプロダクトも列記としたIoTのひとつです。

IoTとIoBの違いは、データの取得・活用対象がモノであるか、人であるかという点にありますが、上記の通り、モノから取得されたデータを用いて人の行動を把握するというケースもあることから、「IoT < IoB」という包含関係にあるとも捉えることができます。

こうした包含関係がより明確になってきた背景には、ディープラーニングやニューラルネットワークなど、データ分析・予測技術としてのAI/機械学習の進化が挙げられます。IoTデバイスを通じて取得された位置情報や購買データ、デバイスの使用状況などは、そのままであれば「モノの状態」を認識したデータでしかありませんが、これらデータの時系列関係や相関などを解析することで一定の特徴や法則を見つけ出し、将来予測を可能とするAIモデルやAIアルゴリズムの実用化が進むにつれ「人の状態」としてデータが再補足され、その活用可能性が見出されたことが近年のIoBの隆盛につながっていると考えられます。

IoBの活用例 3選

次に、現段階で見ることができたIoBの活用例を紹介していきます。

ウェアラブルデバイスによる医療向け身体情報の収集

IoBでは、人々の状態や振舞いのデータを的確に収集するためにウェアラブルデバイスが使用されるケースが多くあり、中でも高い成果が期待されているのが医療分野でのウェアラブルデバイスの活用で、脈拍数・呼吸数・血中酸素飽和度・血圧など、さまざまな身体情報を計測するプロダクトが登場しています。定点的なデータ取得ではなく常時のデータ蓄積が可能となり、より正確な身体状態の計測・予測に寄与するだけでなく、ワイヤレスでインターネットに接続できることからケーブル等をつなぐ必要もないことから、患者をはじめとするデバイス装着者への負担が少ないことも、これまでに比べると大きなメリットだと言えます。

医療におけるAI活用については、以下のコラムでご紹介しています。

参考:Laboroコラム「いのち守るためのAI。医療現場へのAI導入の壁」

出典:ユーピーアール株式会社「ウェアラブルデバイスとは?医療におけるIoTシステムの活用方法」

画像データからの認識・検出・識別

AI技術の展開として当たり前のものにもなってきましたが、画像認識技術もIoBの一つと捉えることができます。カメラで撮影された画像・映像から人の顔を認識・識別して入退室を管理するといった顔認識ソリューションなどは多く見られるようになってきましたが、IoBという文脈においては、コロナ禍でも活用が多く見られた人物画像からの体温の認識、肌の状態からヘモグロビン量判定など、さまざまな身体情報を解析する技術が誕生しています。

画像系AIについては、以下のコラムでご紹介しています。

参考:エンジニアコラム「ディープラーニングによる一般物体認識とビジネス応用<上>画像分類」
   エンジニアコラム「ディープラーニングによる一般物体認識とビジネス応用<下>物体検出」
   Laboroコラム「画像認識AIの世界。その仕組みと活用事例」

出典:東芝レビュー「肌画像からの色素量推定技術」

位置情報取得からの感染経路の特定

IoBの近年での活用例としては、新型コロナウイスの感染経路を特定するための活用が挙げられます。感染者との接触確認アプリとして開発された「COCOA」は、人の行動・振舞いに関わるデータから、濃厚接触があった場合に通知するアプリとして知られています。技術としては、GPSによる位置情報ではなく、BLE(Bluetooth Low Energy)と呼ばれるデバイス同士の距離の測定ができる技術が用いられており、COCOAをインストールしているデバイス同士がお互いに距離を計測できるため、15分以上近くにいた濃厚接触者を特定できるという仕組みになっています。

出典:教育とICT Online「新型コロナの接触確認アプリCOCOAは、どうあるべきだったのか?」

IoBの未来、その2つのタイプ

現段階でもさまざまな分野で活用が見られるIoBですが、そのデバイスには大きく2つのタイプがあります。

タイプ1:ウェアラブル

IoBのタイプ1として捉えられているのがウェアラブルです。現時点でも多くのウェアラブルデバイスがIoBデバイスとして使用されており、代表的なものとしてスマートウォッチが挙げられますが、今後、Googleなどが開発を進めるスマートグラスも実用的なプロダクトが登場することが見込まれるだけでなく、衣服やファッション雑貨もIoB機能を備えたウェアラブルデバイスとして活用されていく可能性が見込まれます。

タイプ2:体内内蔵型

次のタイプとして、体内内蔵型のデバイスが考えられます。SF的な怖さも漂ってきてしまいますが、このタイプのIoBデバイスとしてはペースメーカーが挙げられ、すでに十二分に活用されているデバイスの一つです。

また人間ではないものの、フランスなどではペットの犬や猫に識別番号付きのマイクロチップを埋め込むことが義務化されており、国内でも今年6月に義務化する動きが出ています。さらにスウェーデンでは、すでに数千人の人がマイクロチップを手の甲部分に埋め込んだ上でスマートキーやモバイル決済として活用しています。これらは現段階ではGPSのセンサー機能すらも付いていないチップではありますが、今後、体内情報を感知する付加機能が搭載されることや、データ収集に向けた技術展開や法整備が検討されるであろうことは想像に難くありません。

出典:NHK「犬と猫がペットショップから消える日」
   DG Lab Haus「ワクチン証明書を皮下装着 スウェーデン企業がマイクロチップ技術提供」

IoBのリスク

人に関する新たなデータ取得と活用が期待できるIoBですが、当然ながらそのリスクもこれまでにないものになり得ます。最後にIoBが抱えるリスクについて簡単に触れていきたいと思います。

サイバーアタック・情報漏洩

インターネットに接続する以上は、PCやスマートフォンと同じようにサイバーアタックの標的にされることは避けられません。また、人為的なミスなどによる情報漏洩のリスクも考えられます。IoBの発展や普及に際しては、サイバーセキュリティや情報漏洩対策はもちろん、法整備なども重要な課題になるはずです。

デバイスの不備・故障

どのような機器も絶対に故障しないということはありえず、IoBデバイスもそのご多分に洩れることはありません。心拍数など重要な身体データを収集するIoBデバイスは、不備や故障が重大な問題に発展する可能性もあるため、その予兆を捉えることを目的とした予測AIの開発や、その運用・サポートを万全にすることが求められます。

技術と共にビジネス側も進化させる

これまでビジネスシーンで活用されてきた人に関するデータは、動きや言葉といった意識的に表れ、表面的に把握できる顕在化・明文化された情報がほとんどでした。一方でIoBによって取得されつつあるデータには脈拍や呼吸数など、無意識下で表れる潜在的な情報が含まれており、これまで取得が難しかったデータ収集の道が拓かれつつあります。

ですが、そうした無意識化のデータ取得が新たなチャレンジであることと同じように、そのデータが何を意味する情報なのかについて定義することもまた未開拓の領域です。例えば、あるシーンで脈拍が早いことが容易に把握できるようになったとしても、それが緊張を意味するのか、興奮を意味するのか、心疾患を意味するのか、こうした判断は一律にできることではありません。

IoBの核を構成する技術としては、上述の通り、センサー、インターネット、AIが挙げられます。データ取得を行うセンサー技術が進化し、それを送り届けるインターネット品質も向上、データを分析・予測するAI技術が高度化しつつありますが、その情報をどう解釈し、どうビジネスで活用するかについては、私たちはまだまだ未検討の段階にいる状況で、技術やデータを保有するだけではやはり宝の持ち腐れです。今後、IoBによって新たに取得されるであろうデータを、うまくビジネス成果へとつなげていくための検討を始めることが必要な時期に差し掛かっています。

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