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Laboro.AIコラム

IoBが拓く、身体とネットの新結合

2022.1.23公開 2023.4.24更新
株式会社Laboro.AI マーケティング・ディレクター 和田 崇

概 要

2021年頃から急速に注目を集めている戦略的技術の潮流の一つ「IoB」。Internet of Bodies/Behaviorsとして「身体や振る舞いのインターネット化」を意味し、人々の状態や行動をデータとして取得することを目指しています。IoBがどのような概念で、今後どのような活用が見込まれるのか、概要や活用例、今後の進化に触れて解説します。

目 次

IoBとは
 ・「Internet of Bodies」としてのIoB
 ・「Internet of Behaviors」としてのIoB
IoBとIoTの違い
IoBを多くの人が活用する未来はすぐそこまで来ている
 ・センサーのフリクションレス化
 ・製品・サービスのパーソナライズ化
IoBの未来、その二つのタイプ
 ・タイプ1:ウエアラブル
 ・タイプ2:体内内蔵型
IoB(Internet of Bodies)の活用例
 ・ウエアラブルデバイスによる医療向け身体情報の収集
 ・画像データからの認識・検出・識別
IoB(Internet of Behaviors)の活用例
 ・位置情報取得からの感染経路の特定
 ・来店した店舗へのレビュー投稿をリクエスト
 ・振込など信用情報から算出する信用スコア
IoBのリスク
 ・サイバー攻撃・情報漏洩
 ・デバイスの不備・故障
技術と共にビジネス側も進化させる

IoBとは

センシングやモニタリングの技術の進化によって、人流や特定の環境の温度、過密具合、混雑状況など、私たちの身の回りを取り巻く事象がデータとして取得できるようになり、さまざまなサービスに利用されています。

こうした技術と密接な関係を持つIoBは「Internet of Bodies/Behaviors」の略で、前者の「Internet of Bodies」は「身体のインターネット」、後者の「Internet of Behaviors」は「振る舞いのインターネット」という意味を持ちます。人々の身体の状態や振る舞いを何かしらのセンシング技術で感知し、インターネットを通じてデータとして取得・収集すること、あるいはそのための機器を指すということです。

IoBは、IT分野を中心とした調査を行う米国のガートナー社が、2021年の最も注目すべき戦略的技術の一つに挙げるほど注目を集めている技術です。この背景には、RFID(Radio Frequency Identification。電波を用いてICタグの情報を非接触で読み書きする自動認識技術)やウエアラブルセンサーなど、さまざまなセンシング技術の進化がまずあります。加えて、インターネットの通信品質の向上と普及、収集されたデータを解析するために用いられるAI技術の発達など、複数の技術革新が結合した結果として、IoBの実現性・有用性を急速に高めてきたことも挙げられます。

IoBの進化によってまず、デジタルダスト(粒度の小さいデータ)を含めた、これまで取得できなかったような新規性の高い情報をセンサーによって収集できるようになりました。その上で、高速インターネット通信を通じて情報をセンターにほぼリアルタイムに集約し、AIが統合的に分析、そして次に取るべきアクションを予測できます。こうした複数の技術が総合的に進化したことがきっかけとなって近年、新たな製品・サービス、マーケットの創出につながっているのです。

さて、IoBの「B」には、Bodies(身体)とBehaviors(振る舞い)の二つが含まれています。それぞれの意味を説明します。

「Internet of Bodies」としてのIoB

Internet of Bodies、「身体のインターネット化」と言うとSFのような雰囲気も漂ってくるかもしれません。人の身体をインターネットにつなぐことで取得されるデータあるいはその機器の意味で、特に脈拍や心拍、睡眠サイクルなど生理的な情報の活用・取得が対象です。

こうしたデータを取得するための機器としては、体内にマイクロチップを埋め込むといったデバイスもある一方で、身近な分かりやすい例としてはApple Watchに代表されるスマートウォッチを用いた身体データの収集が挙げられます。

さらに、身体の中でも脳に着目したInternet of BrainsというIoBの捉え方もあります。ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)技術を活用して脳をインターネットにつなげ、サイバー空間とリアル空間が融合したサイバーフィジカル空間でのアバターを自在に操作したり、他者やAIと直接コミュニケーションしたりすることのできる技術や状態のことです。

身体状態や生体認証に関する情報を取得するBodiesとしてのIoBは、スマートウォッチのようなウエアラブルデバイスをはじめ、新たなセンシング技術の登場によって近年開拓されてきたマーケットであり、これまで取得が難しかった新規性の高い身体データの活用を目指す取り組みが次々と登場しています。

出典:itrex “What is the Internet of Bodies (IoB), and why should you care?”
  :国立研究開発法人科学技術振興ムーンショット型研究開発事業Internet of Brains「IoBとは

「Internet of Behaviors」としてのIoB

一方、Internet of Behaviorsはかなり広い概念です。人々の行動や振る舞いをデータとして取得することを意味します。上にも挙げたスマートウォッチのようなウエアラブルデバイスを活用する場合には、GPS(全地球測位システム)から位置情報や移動速度などの活用可能性が考えられ、その他にも施設内に設置された監視カメラを用いた人流・動線データの収集なども挙げられます。

こうした新しいセンサーやデータ取得技術の活用はもちろんですが、実は、現在でもビジネス活用が盛んなウェブサイトの閲覧履歴や行動履歴も、Behaviorsという意味ではIoBに含まれます。既に普及しているパソコンもまた、データ収集・通信・分析機能が備わったセンサーと捉えられます。IoBは決して新しい技術活用のみを指す言葉ではないのです。

また、あらゆるモノがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)がデータ収集と通信機能を備えた機器技術を意味することに対して、Behaviorsの意味としてのIoBは、IoT技術によって取得された行動データを活用することから、IoTを包含する概念としても捉えることができます。

このように、二つのIoBは、人間に関するデータを収集する点では同じですが、用いられる技術や目的、概念が大きく異なることには注意が必要でしょう。

出典:TECH FUNNEL “What Is the Internet of Behaviors? – A Guide”

IoBとIoTの違い

上でも少し触れましたが、IoBと似たような言葉としてIoTがあります。IoTの例としては、自動運転車や、中に入っている食品の量などを把握した上でレシピを提案する冷蔵庫などだけでなく、パソコンやスマートフォンなど、私たちが毎日使うような機器もIoTに含まれます。

IoTとIoBの違いは、データの取得・活用対象がモノであるか、人であるかという点にあります。しかし上記の通り、モノから取得されたデータを用いて人の行動を把握するというケースもあることから、「IoTはIoBの要素の一つ」という包含関係にあるとも捉えられます。

こうした包含関係がより明確になってきた背景には、ディープラーニングやニューラルネットワークなど、データ分析・予測技術としてのAI・機械学習の進化が挙げられます。IoTデバイスを通じて取得された位置情報や購買データ、機器の使用状況などは、そのままであれば「モノの状態」を認識したデータでしかありません。しかしこれらデータの時系列関係や相関などを解析することで一定の特徴や法則を見つけ出せます。そこから将来予測ができるAIモデルやAIアルゴリズムの実用化が進むにつれて「人の状態」としてデータが再補足され、その活用の可能性が見いだされたことが近年のIoBの隆盛につながっていると考えられます。

IoBを多くの人が活用する未来はすぐそこまで来ている

NTTデータはセンサーの未来トレンドを調査の上、IoT・IoB技術が進展することによる未来トレンドを二つ予想しています。

センサーのフリクションレス化

生活者が機器に触れることなく、活用を意識することもなくデータが自然に取得されるようになるかもしれません。例えば睡眠、トイレ、運動といった日常生活において今まで取得できなかったデータ(表情心拍数、血圧や脳波など)が取得できるようになります。これにより、今までは気づけなかった健康状態を把握できるようになる、「スマートシューズ」や「スマートウエア」を着用することで、デバイスがなくても運動に関するデータが取得できるようになるなどが挙げられます。

製品・サービスのパーソナライズ化

複数のデータの掛け合わせることで高度な分析ができるようになります。例えば顔の微細な表情の変化から感情を分析することで、人間の動作と心との関係性の可視化や、行動データを基に集団行動の行動原理を解析することが可能になると考えられます。

また、生活で取得されたデータを業界や企業が横断的に共有することで、さまざまな活用が期待できます。例えば医療機関において事前に収集した生活者の体調状態に関するデータを取得することで、来院時に問診の工程を減らせたり、生活者の健康状態に合わせた最適な商品のレコメンドや健康状態に配慮した旅行先の選定などができたりするかもしれません。

出典:DATA INSIGHT 技術ブログ「IoTセンサーの未来トレンド~IoTからIoBへ~

IoBの未来、その二つのタイプ

IoB活用のための具体的な機器としては、大きく二つのタイプが挙げられます。

タイプ1:ウエアラブル

現時点でも多くのウエアラブルデバイスがIoBデバイスとして使用されており、代表的なものとしてスマートウォッチが挙げられます。他にはGoogleのスマートグラスはいったん販売終了となりましたが、今後実用的な製品が登場することが期待されるだけでなく、衣服やファッション雑貨もIoB機能を備えたウエアラブルデバイスとして活用されていくかもしれません。

タイプ2:体内内蔵型

体内内蔵型はSF的な怖さが想起される可もしれませんが、既に普及しているIoBデバイスとしてペースメーカーが挙げられ、十二分に活用されています。

また人間ではないものの、フランスなどではペットの犬や猫に識別番号付きのマイクロチップを埋め込むことが義務化されており、国内でも2022年6月から義務化されています。さらにスウェーデンでは、すでに数千人の人がマイクロチップを手の甲部分に埋め込んだ上でスマートキーやモバイル決済として活用しています。これらは現段階ではGPSのセンサー機能すらも付いていないチップではありますが、今後、体内情報を感知する付加機能が搭載されることや、データ収集に向けた技術展開や法整備が検討されるであろうことは想像に難くありません。

出典:NHK「犬と猫がペットショップから消える日

IoB(Internet of Bodies)の活用例

ウエアラブルデバイスによる医療向け身体情報の収集

IoBでは、人々の状態や振る舞いのデータを的確に収集するためにウエアラブルデバイスが使用されるケースが多くあります。中でも高い成果が期待されているのが医療分野でのウェアラブルデバイスの活用で、脈拍数、呼吸数、血中酸素飽和度、血圧など、さまざまな身体情報を計測する製品が登場しています。定点的なデータ取得ではなく常時のデータ蓄積が可能となり、より正確な身体状態の計測・予測に寄与しています。さらにワイヤレスでインターネットに接続できることからケーブルなどをつなぐ必要もないことから、患者をはじめとするデバイス装着者への負担が少ないことも、これまでに比べると大きなメリットだと言えます。

出典:ユーピーアール株式会社「ウェアラブルデバイスとは?医療におけるIoTシステムの活用方法

医療におけるAI活用については、以下のコラムで取り上げています。

Laboroコラム「いのち守るためのAI。医療現場へのAI導入の壁

画像データからの認識・検出・識別

画像認識はAIの展開として当たり前の技術になってきましたが、IoBの一つと捉えることができます。カメラで撮影された画像・映像から人の顔を認識・識別して入退室を管理するといった顔認識ソリューションなどは多く見られるようになってきました。IoBという文脈においては、コロナ禍でも活用が多く見られた人物画像からの体温の認識、肌の状態からヘモグロビン量判定など、さまざまな身体情報を解析する技術が誕生しています。

出典:東芝レビュー「肌画像からの色素量推定技術

画像系AIについては、以下のコラムで取り上げています。

エンジニアコラム「ディープラーニングによる一般物体認識とビジネス応用<上>画像分類
エンジニアコラム「ディープラーニングによる一般物体認識とビジネス応用<下>物体検出
Laboroコラム「画像認識AIの世界。その仕組みと活用事例

IoB(Internet of Behaviors)の活用例

位置情報取得からの感染経路の特定

新型コロナウイスの感染経路を特定するための活用も例として挙げられます。感染者との接触確認アプリとして開発され現在は運用を終えている「COCOA」は、人の行動・振る舞いに関わるデータから、濃厚接触があった場合に通知するアプリでした。GPSによる位置情報ではなく、BLE(Bluetooth Low Energy)と呼ばれるデバイス同士の距離の測定ができる技術が用いられており、COCOAをインストールしているデバイス同士がお互いに距離を計測できるため、15分以上近くにいた濃厚接触者を特定できるという仕組みを採用していました。

出典:教育とICT Online「新型コロナの接触確認アプリCOCOAは、どうあるべきだったのか?

来店した店舗へのレビュー投稿をリクエスト

位置情報の活用としては、Googleマップが来店した店舗のレビュー投稿をリクエストする例が挙げられます。例えばレストランを訪れた後、Googleマップから「レビューを投稿しませんか」というリクエストを受け取ったことがある方もいると思います。これはGoogle マップが収集している位置情報からタイミングを見計らって送信されているからです。Googleはマップにレビューをたくさん載せて情報を豊富にしたいと考えていると思われ、人々が持ち歩いているスマートフォンをIoBとしてこのようなリクエストを送っていると考えられます。

振込など信用情報から算出する信用スコア

スマートフォンをIoBデバイスとして情報を収集して活用する例としては、特に中国で活用が盛んな「信用スコア」が挙げられます。これは主に金融サービスを利用する際にその人にどのくらいの信用があるかをスコア化したものです。現在中国で運用されているものはこれまでの取引内容や年収・資産だけでなく、年齢やSNSにおける振る舞い、行動履歴、性格なども含めて総合的に算出されていると言われています。

信用スコアを運用することで、その人の信用度合いが分かりやすいスコアで判断できるようになる一方で、情報の収集・管理が過剰だという指摘もあります。

出典:Digital Shift Times「中国で普及している信用スコアとは?導入のメリットデメリットを解説

IoBのリスク

人に関する新たなデータ取得と活用が期待できるIoBですが、当然ながらそのリスクは従来の想像を超え得ます。最後にIoBが抱えるリスクについて説明します。。

サイバー攻撃・情報漏洩

インターネットに接続する以上は、PCやスマートフォンと同じようにサイバー攻撃の標的にされることは避けられません。また人為的なミスなどによる情報漏洩のリスクも考えられます。IoBの発展や普及に際しては、サイバーセキュリティーや情報漏洩対策はもちろん、法整備なども重要な課題になるはずです。

デバイスの不備・故障

どのような機器も絶対に故障しないということはありえず、IoBデバイスも例外ではありません。心拍数など重要な身体データを収集するIoBデバイスは、不備や故障が重大な問題に発展する可能性もあるため、その予兆を捉えることを目的とした予測AIの開発や、その運用・サポートを万全にすることが求められます。

技術と共にビジネス側も進化させる

これまでビジネスシーンで活用されてきた人に関するデータは、動きや言葉といった意識的に表れ、表面的に把握できる顕在化・明文化された情報がほとんどでした。一方でIoBによって取得されつつあるデータには脈拍や呼吸数など、無意識下で表れる潜在的な情報が含まれており、これまで取得が難しかったデータ収集の道が開かれつつあります。

しかし、そうした無意識化のデータ取得が新たなチャレンジであることと同じように、そのデータが何を意味する情報なのかについて定義することもまた未開拓の領域です。例えば、ある状況で脈拍が早いことが容易に把握できるようになったとしても、それが緊張を意味するのか、興奮を意味するのか、心疾患を意味するのかといった判断は簡単にできることではありません。

IoBの核を構成する技術としては、上述の通り、センシング、インターネット、AIが挙げられます。データ取得を行うセンシング技術が進化し、それを送り届けるインターネット品質も向上、データを分析・予測するAI技術が高度化しつつあります。しかしその情報をどう解釈し、どうビジネスで活用するかについては、私たちはまだまだ未検討の段階にいる状況で、技術やデータを保有するだけではやはり宝の持ち腐れです。今後、IoBによって新たに取得されるであろうデータを、うまくビジネス成果へとつなげていくための検討を始めることが必要な時期に差し掛かっています。

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