答えのない、マーケティング×AIの世界への挑戦
2021.10.5公開 2024.3.1更新
株式会社Laboro.AI マーケティング部長 和田 崇
概 要
製品、価格、流通、広告––。「マーケティング」という概念は非常に広い領域を指し、対象範囲は多岐にわたります。顧客の体験価値を高めるために行われるあらゆるマーケティング活動に対して、AIはどのように活用できる可能性を持っているのでしょうか。マーケティング領域におけるAI活用について、マーケティングの基礎知識も交え、その現状と未来を探ります。
目 次
・そもそも「マーケティング」とは
・四つのPからなる「マーケティング・ミックス」
・製品(Product)
・価格(Price)
・流通(Placement)
・プロモーション(Promotion)
・なぜマーケティングにAIが必要なのか
・データ量が膨大に
・よりパーソナライズされた情報が求められている
・マーケティングにおけるAIの活用可能性
・パーソナライズ
・最適化
・新たなマーケット軸の発見
・店舗の動線分析
・需要予測
・AIチャットボットによるカスタマーサポート
・AIが活用されているマーケティング業務
・インターネット広告運用
・SEO対策
・デザイン生成
・AI×マーケティングで期待される効果
・データ分析の効率化
・顧客対応の充実
・インターネット広告・コンテンツの最適化
・マーケティングでのAI活用事例
・<商品×AI> ZOZO「売らない店」でのコーディネート
・<価格×AI>小売店での値付けで在庫回転率が向上
・<流通×AI> リテールAIの「リアイル」
・<プロモーション×AI>パッケージデザインの生成
・<市場調査×AI> マーケットリサーチへの生成AIの活用
・<消費者心理×AI> 未来購買パターン予測にもとづく商品レコメンド
・正解のない消費者心理に挑むということ
そもそも「マーケティング」とは
いまだ「マーケティング=広告」「マーケティング=調査」「マーケティング=デジタル戦略」といった捉え方が少なくありませんが、マーケティング発祥の地であり世界最大のマーケティング学会組織であるアメリカマーケティング協会(AMA)の定義は、マーケティングを次のように定義しています。
マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである。
Marketing is the activity, set of institutions, and processes for creating, communicating, delivering, and exchanging offerings that have value for customers, clients, partners, and society at large.
こちらは2007年のAMAの定義ですが、今現在も大きな変更はされていません。マーケティングとは、広告や調査といった一部分の戦略・機能を指す言葉ではなく、価値ある商品サービスを創造し、消費者をはじめとする社会に伝達・配達し、金銭などとの交換を促すための全ての活動を指します。非常に広い概念なのです。
この広い概念を機能にまで落とし込んだフレームワークが「マーケティング・ミックス」です。マーケティング・ミックスは、上記の活動を最大公約数的に分類したものとも捉えられ、マーケティング活動の軸となる四つの領域を示したものであり、それぞれの頭文字を「P」でそろえていることから「4P」とも呼ばれます。
【四つのPからなるマーケティング・ミックス】
・製品(Product):製品やブランドに関する戦略
・価格(Price):製品の価格に関する戦略
・流通(Placement):製品の流通や店舗立地に関する戦略
・プロモーション(Promotion):広告宣伝やコミュニケーションに関する戦略
四つのPからなる「マーケティング・ミックス」
なおマーケティング・ミックスは、マーケティング界隈ではマーケティング論の神とも崇められるフィリップ・コトラーが提唱したと言われることもあります。しかし実際には、ジェローム・マッカーシーが1960年に提唱し、後にコトラーが展開したことは、あまり知られていません。
マーケティング・ミックスは、50年以上たった今も、マーケティングにおける有用なフレームワークとして用いられ続けています。4Pは、有形の消費財のマーケティング戦略を検討する際のマーケティング・ミックスであり、無形のサービス財の場合はさらに人的要因(Personnel)、業務プロセス(Process)、物的証拠(Physical Evidence)を加えた「7P」を検討すべきことが提唱されています。ここでは、ベースとなる4Pについて、近年の動向とともにもう少し深堀していきます
製品(Product)
製品(Product)は、製品の特徴やデザインだけでなく、品質、パッケージ、ブランド、保証まで含め、企業が販売する製品に関わるすべての領域が含まれます。商品のパッケージが良ければ確かに売り上げにはつながるかもしれませんが、内容がイマイチであればその後のリピートにつながらないだけでなく、ブランド価値も低迷させ、顧客満足度は下がります。近年LTV(顧客生涯価値)やカスタマージャーニー、カスタマーサクセスという考え方も注目されていますが、一人の顧客がその企業に対して継続的にエンゲージメントを高めていくためには、製品(Product)領域が中心を担っている領域だと言えます。
価格(Price)
製品ととともに重要な検討領域が、価格(Price)です。製品の価格は、コストベースに決定する方法もあれば、競合他社の製品の価格をベースに決定する方法、あるいは利益ベースで決定する方法などがあります。単なる数字と考えて終わらせることもできますが、薄利多売で価格を低めに設定しすぎるとブランド価値を損なうなど、価格表示は顧客心理に強く紐付いています。他にも、セール価格を「○円引き」と表示するか「○%OFF」と書くかで売れ行きに違いが出るという報告もあり、「単なる数字」では終わらせられない奥の深い領域が、この価格(Price)です。
流通(Placement)
製品・サービスの流通方法や販売・提供場所を検討するのが、三つ目の流通(Placement)です。時間や経費などを含めたコストを最大限効率化するための流通経路を策定する、あるいは商圏として規模が大きい地域への出店を検討する、また小売店舗内の回遊率を上げるための導線を構築するなど、製品を消費者に送り届けるために必要な検討を行うのがこの領域です。
近年では、オムニチャネル、O2O(Online to Offline)、D2C(Direct to Consumer)などのキーワードも注目され、オンラインとオフラインを組み合わせた流通チャネルの工夫も見られるようになってきました。その他、「自社で販売ルートを構築するのか」「販売代理店制を敷くのか」「販売代理店のリベートをどう設けるのか」など、この流通(Placement)では、コストにも直結する配送・流通チャネルについてさまざまな検討が行われます。
プロモーション(Promotion)
製品の存在を消費者に知ってもらうため欠かせないのが、プロモーション(Promotion)です。テレビや雑誌、新聞等を活用した4マス広告、OOH(交通広告や屋外広告など生活者が家庭以外の場所で接する広告)、インターネットやSNS広告などのデジタルマーケティング、コンテンツマーケティングなどの他、店頭の販売スタッフも重要なプロモーション施策の一つとして位置付けられます。
消費者の広告に対する行動をモデル化した有名なフレームワークとしてAIDMA(注意→関心→欲求→記憶→行動)がよく知られています。近年では、SNSの普及を背景に、AISAS(注意→関心→検索→行動→共有)やSIPS(共感→確認→参加→共有)など、さまざまな広告に対する顧客行動モデルが生み出されています。
なぜマーケティングにAIが必要なのか
マーケティングにおいてAIがどのように活用されているかをご紹介する前に、そもそもなぜAIが必要とされているかについて解説します。
データ量が膨大に
マーケティングにおいてAIが必要とされている理由の一つは、世界中で生成されるデータ量が増加を続けているためです。
米国の調査会社IDCとHDD(ハードディスクドライブ)メーカーのSeagateによる2018年の調査よれば、2011年に初めて1ゼタバイト(ゼタは10の21乗、1兆ギガバイト)を突破し、2018年に33ゼタバイト、2025年に175ゼタバイト、さらに成長が続けば2030年代にヨタバイト(ヨタは10の24乗)に達する見通しを出しています。
マーケティングに利用するためのデータも、分析して知見を見いだすには人力を超えるほど膨大になっており、AIを活用しないとより深い知見を得ることは難しくなっています。
出典:Seagate “IDC White paper sponsored by Seagate, Data Age 2025”
日本経済新聞「太陽は「2000クエタグラム」 単位の新接頭語31年ぶり」
よりパーソナライズされた情報が求められている
大量に消費される画一的な製品・サービスよりも、一人ひとりに合った製品・サービス、あるいは情報が求められる時代になっています。
顧客やユーザー一人ひとりに合った情報を提示するには、膨大なデータを分析する必要もあり、人力では限界があります。AIの処理能力を活用することで、細分化しているニーズに応え、一人ひとりに合ったマーケティングを行えることが期待できます。
マーケティングにおけるAIの活用可能性
いったん4Pを前提とした場合、AI技術はマーケティング・ミックスに応じてさまざまな活用可能性が考えられ、実際にも多数の活用事例が生まれています。一覧にすると、以下のような活用が代表的です。
マーケティングそのものがカバーする領域が広いだけに、さまざまな活用可能性が検討できるわけですが、総じてマーケティングにおけるAI活用はどのようなメリットをもたらすのでしょうか。
パーソナライズ
「おすすめ商品」で知られるレコメンデーションシステムやダイナミックプライシング、広告配信の最適化など、マーケティング領域におけるAI技術活用の最も大きなメリットは、顧客やユーザーの嗜好に合わせて最適なコンテンツを予測・表示できるパーソナライズです。AI技術、特に現在その中心を占める機械学習技術を活用することにより、これまで以上に高度なデータ分析と予測が可能になってきています。さらに通信環境やコンピュータ処理技術の高度化も背景に、ユーザーごとに個別のコンテンツを配信し、次のアクションへとつながりやすい施策実施が可能になってきています。
一方で、「AIを活用すれば必ずパーソナライズが可能」という早合点は禁物で、リアルタイムにパーソナライズするということは、それなりに高速で高精度なシステム環境が必要にもなります。また、AIが勝手にユーザーの好みを抽出してくれるということは技術的にも非現実的な話です。実際には「嗜好」や「好み」が具体的にどのような指標で数値的に把握できるのかをマーケターが厳密に定義する必要があるなど、パーソナライズに向けたハードルは決して低いものではないことを認識しておくことが肝要です。
パーソナライズについてはこちらもご覧ください。
最適化
パーソナライズもその一つではありますが、AI技術を活用することによって、多くのマーケティング施策が目指す成果やターゲットに最適化されることも期待されるメリットの一つです。
近年、GANというアルゴリズムが提唱されて以降、画像を自動生成する取り組みがマーケティング領域では多く見られるようになりました。広告バナーや商品パッケージデザインを過去の顧客データに基づいて、ユーザーごとに最適化するような試みが今後も増えていくものと考えられます。例えば配送トラックやタクシーなどの流通・配送ルートの最適化も注目を集める分野で、最短ルート・最小コストで効率的な車両配備パターンをリアルタイムで算出するようなプロジェクトも数多く見られるようになっています。
ですが、この最適化問題も非常に解決が難しい分野です。配送ルートの場合、時間、燃費、人件費、交通状況など、複雑に絡み合うさまざまな事情をどのような優先度で、どれくらいの割合で加味をするかなど、開発段階において設計すべき要因が多く存在します。最終的に何をもって最適化したと言えるのか、達成すべきKPIの設定が重要になってくる分野です。
新たなマーケット軸の発見
機械学習技術の中でも特に注目を集め、進化が著しいのが、ディープラーニングです。ディープラーニングは、大量のデータを学習することを通して、人間では気づかなかったようなデータ間に潜む規則性や特徴の抽出が得意と言われています。マーケティング戦略の立案においては、その第一ステップとしてSTP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)戦略が重要と言われます。例えば新たな市場セグメンテーション軸や、これまでにないポジショニング領域の発見なども期待されるところです。
しかしながら、こうした新たな軸や領域の発見は、良質かつ大量のデータを保有して初めて実現することでもあります。例えば、一部地域や世代の顧客データのみが極端に多い場合には、AIの予測もそうした属性に引っ張られてしまいます。データに偏りやバイアスがある場合には、当然ながらAIの出力も偏って導き出されてしまうため、求める答えに適したデータを収集し、利用することが重要になります。
店舗の動線分析
実店舗のマーケティングにおいて期待されているのが、AIによる動線分析です。例えば、店舗内の人流を分析することで棚のレイアウトや商品の配置を改善し、利用客の買い回りを改善できる可能性があります。うまく活用すれば、店舗に必要な店員の数を減らして他の仕事に当たってもらえたり、デジタルサイネージの位置や広告を流すタイミングなどを最適化したりといった活用も期待できるでしょう。
需要予測
マーケティングにおいては、過去のデータから需要を予測し、商品の発注を行ったりキャンペーンを打ち出したりします。AIによって過去の傾向を分析できれば、より適切なタイミングでの発注や効果の高いタイミングでのキャンペーンに結び付き、過剰な在庫を抱えるのを避けたり、経営リソースをより効果的に配分できたりする可能性があります。
需要予測についてはこちらもご覧ください。
需要予測AIよ、需要は予測するものでなく作るものだ。
AIチャットボットによるカスタマーサポート
ウェブサイトにおけるAI活用としてよく見られるようになったのが、質問を受け付けて自動で回答したり問題の振り分けをしたりするAIチャットボットです。チャットボットはAIを活用して、よくある質問には無人で答えられるようカスタマイズ可能で、顧客が欲しいと思ったタイミングで欲しい情報を提供できる面で、マーケティングに貢献しています。
AIが活用されているマーケティング業務
AIがマーケティング業務においてどのように活用されているか、具体的に見ていきます。
インターネット広告運用
ウェブマーケティングにおいて広告を利用する際、マーケターの知見だけに頼らずに、簡単に広告を出稿できるようになったことには、AIの恩恵もあります。例えば、インターネット広告の出稿先の一つであるGoogleのリスティング広告では、簡単な設定を行うことで、キーワードの最適化や入札などをAIが分析、代行してくれます。
SEO対策
ウェブマーケティングにおいて、自社サイトをGoogleの検索順位で上位を目指す「SEO(Search Engine Optimization)」が欠かせません。SEOでは、サイト内部のコンテンツを改善する内部施策と、サイト外部との関わり方を改善する外部施策に分かれますが、どちらでもAIを活用できます。例えば、内部施策では検索順位の24時間監視・取得、SEOに有利とされるテキストやコードの生成、外部施策では競合サイトの分析、被リンクの自動生成などがあります。
デザイン生成
例えば、ウェブ制作会社にサイト制作を依頼するのが難しい小規模ビジネスでも、AIを活用したウェブサイト制作サービスを利用することで、デザインが簡単にできる仕組みも用意されています。
また、インターネット広告に使用するバナー(画像)をAIに生成させたり、ABテストを行わせたりするサービスも登場しています。
従来ABテストを行う際は、デザイナーなどが複数のクリエイティブを制作した上でその効果を比較するため、その分制作の時間・労力・コストがかかるため、売り上げが期待できる注力商品でしか実践しにくい面がありました。しかしAI、特に生成AIを活用することで、大量にクリエイティブの制作ができるため、売れ筋ではない商品でもテストしやすくなリます。
出典:日本経済新聞「24年のEC動向 「生成AI」と「ライブコマース」が来る」
AI×マーケティングで期待される効果
マーケティングにAIを活用することで、どのような効果が期待できるでしょうか。
データ分析の効率化
AIは大量のデータを分析することに長けています。良質なビッグデータを用意し、目的に合わせたアルゴリズムのAIシステムを導入できれば、これまで使っていたシステムよりも分析を効率化できる可能性が高まります。
顧客対応の充実
チャットボットのように、AIを活用することで人力では難しかった領域でも顧客対応が可能になります。例えば問い合わせ対応業務では、チャットボットがシナリオ分岐のように質問と回答を続けて問題を特定した上で解決方法を提示、もしくは担当者を対応させられることができます。これにより、従来人間が対応していた作業をAIが代行し、人間は人間にしかできない顧客対応により多くのリソースを割けるようになります。
インターネット広告・コンテンツの最適化
前述のように、AIはウェブマーケティングにおいてすでにさまざまな領域で活用されています。こうしたサービスを上手く活用することで、インターネット広告を効率良く出稿し、コンテンツがユーザーへ届くために最適化できるようになります。
マーケティングでのAI活用事例
では具体的にここ数年でのマーケティングにおけるAI活用事例を、マーケティング・ミックスにも基づいて紹介します。
<商品×AI> ZOZO「売らない店」でのコーディネート
ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」などを運営するZOZOは、2022年12に初の実店舗「niaulab by ZOZO(ニアウラボ)」を東京・表参道に開店しました。売ることを目的としない、いわゆる「売らない店」で、プロのスタイリストとヘアメークアーティストによるパーソナルスタイリングサービスを受けられます。
スタイリングに当たっては、同社が開発した「niaulab AI」が活用されています。このAIは、同社が展開するコーディネート投稿サービス「WEAR」が持つ約1300万件のコーディネートデータを基に、顧客ごとに似合うコーディネートを提案します。LINEで事前にヒアリングした情報はniaulab AIに送ると、体験者の好みやなりたいイメージに合いそうなコーディネート3パターンがAIによって提案されます。
出典:日経クロストレンド「ZOZO「売らない店」体験ルポ 3日で2万件応募の実力は」
<価格×AI> 小売店での値付けで在庫回転率が向上
小売のドン・キホーテは、2020年から各店にAI価格システムを導入し、価格を見直すべき商品に優先順位をつけるなどの改良を加えています。同システムは在庫回転率の改善につながっているとのことです。実際、在庫を効率的に捌いてどれだけの売り上げを稼いでいるのかを示す指標「棚卸し資産(在庫)回転率」を見ると、2022年6月期は8.9回で、前年同期から0.2回の改善、10年前の6回と比べるとほぼ1.5倍になっています。
出典:日経MJ「AIvs店員 どっちが値付けで上手い? ドンキやユニー」
<流通×AI> リテールAIの「リアイル」
小売、卸、流通、メーカーなどの各プレイヤーが密に連携し、AIなどの技術を用いて流通業界の構造改革を進めているのが、トライアルグループのRetail AIが発表したAIプラットフォームプロジェクト「リアイル」です。Retail AIでは、AIカメラを活用した欠品防止や、スマートレジカートなどの活用を進めた小売店舗「TRIAL」の展開を進めています。部分最適ではなく全体最適を重視し、小売や流通など一部を改善するのではなく、全体が協力することでさまざまな改革を起こすことが目指されています。
例えば、AI技術を用いて各社が連携することで目指すのは「欲しいものが欲しいときにすぐ手に入る」という買い物体験です。また、小売・流通業界で3割ほど発生していると言われている「ムダ・ムラ・ムリ」を減らしてコストを削減していくことなどが志向されています。
出典:MD NEXT「トライアルが放つ、リテールAI プラットフォームプロジェクト「リアイル」の戦略とは」
<プロモーション×AI>パッケージデザインの生成
製品戦略にも関わる分野ですが、プラグが提供を開始したのが、最適な商品パッケージを提案するサービス「パッケージデザインAI」です。このシステムでは、920万人にも及ぶ消費者調査データを基に学習をしており、画像素材をアップロードすることで好感度の高いであろうデザインを自動生成するものです。
最終的に1000案から上位100点のデザインを表示する上、「おいしそう」「かわいい」などイメージワードに合わせたランキング表示もでき、目指す商品コンセプトに合わせたデザイン生成が目指されています。
出典:CNET「プラグ、商品パッケージの「デザイン」をAIが自動生成–1000案の中からトップ100を表示」
<市場調査×AI> マーケットリサーチへの生成AIの活用
生活者動向の変化の速さに伴う市場調査・分析の時間短縮が求められていることなどを背景に、生成AIを活用してマーケティングリサーチ業務の利便性向上を図る検証も進められています。NTTデータ先端技術がインテージに対して支援をしている取り組みで、ウェブアンケートの生成や構造化データや非構造化データの集計・分類といった定性分析の業務において、生成AIの活用の有効性を検証し、活用方法の確立を目指すとしています。
出典:NTTデータ先端技術「マーケティングリサーチ業務への生成AI活用検証を開始」
<消費者心理×AI> 未来購買パターン予測にもとづく商品レコメンド
こちらは当社が大手アパレルECサイト様向けに手がけた事例です。レコメンデーションシステムは、今やECサイトでは当たりの機能になりつつありますが、通常、閲覧履歴や購買履歴に基づいて商品をレコメンドする方法が主流です。一方で、「見た ⇄ 見ていない」「買った ⇄ 買っていない」という2軸の評価では、ユーザーの興味関心度を把握するには十分ではなく、季節外れの商品をおすすめしてしまったり、すでに購入した商品を提案したりするなど、的外れなレコメンデーションが起こることも実際です。
Laboro.AIが開発・提供したこのカスタムAIでは、LSTMという時系列情報を加味することに長けたアルゴリズムを用いて、どの順番で商品を見たか、どのタイミングで見たかなど、時間軸に沿った情報も分析した上で商品をレコメンドする仕組みを構築しました。この事例について詳しくは、以下のページをご覧ください。
Laboro.AI プロジェクト事例:未来購買パターン予測にもとづく商品レコメンド
正解のない消費者心理に挑むということ
「AIが消費者の好みを抽出してくれる」「AIが売れるデザインを生成してくれる」「AIがクリック率を上げる広告配信をしてくれる」、AIの普及・浸透と共に、AIに対する過大な期待も少なからず生まれています。過去のデータを基に学習し、次の可能性を予測する機械学習という技術は、実はマーケティングとはあまり相性が良いものではありません。というのも、その時々で意思決定が変わってしまう、移ろいやすい消費者心理は捉え難く、過去のデータから傾向は分かっても、「必ず売れる」正解を示してくれるわけではないからです。
これはAI技術の限界ということではなく、そもそも消費者の購買パターンや購買心理に定まったものがないということに起因します。AI導入・活用を検討するマーケターにとっては、学習させるデータを精緻に整えることが重要になります。つまり、自社がターゲットとする「消費者」とはどういう属性で表される人なのか、「興味がある」という状態は具体的にどのような指標によって計測される状態なのか、消費者に望むアクションは把握可能な基準においてどのようなフローを踏むことなのかなど、消費者の行動・心理の解像度をできるだけ上げて捉えていくことが、AI技術の活用では鍵となります。
AI技術を活用して、正解のない消費者心理に挑むということは、曖昧で不明瞭な消費者心理をデータ化することとも言えます。より丁寧に、精緻に消費者心理を捉えることが、AI技術をうまく活用することにつながっていくはずです。