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Laboro.AIコラム

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答えのない、マーケティング×AIの世界への挑戦

2021.10.5
マーケティング・ディレクター 和田 崇

概 要

製品、価格、流通、広告。「マーケティング」という概念は非常に広い領域を指し、その対象範囲は多岐にわたります。顧客の体験価値を高めるために行われるあらゆるマーケティング活動に対して、AIはどのように活用できる可能性を持っているのでしょうか。今回のコラムでは、マーケティング領域におけるAI活用について、マーケティングの基礎知識も交えながら、その現状と未来を探っていきたいと思います。

目 次

そもそも「マーケティング」とは
4つのPからなる「マーケティング・ミックス」
 ・製品(Product)
 ・価格(Price)
 ・流通(Placement)
 ・プロモーション(Promotion)
マーケティングにおけるAIの活用可能性
 ・パーソナライズ化
 ・最適化
 ・新たなマーケット軸の発見
マーケティングでのAI活用事例
 ・<商品×AI> 三越伊勢丹×Yahooのアパレル商品戦略
 ・<価格×AI> プロ野球でのダイナミック・プライシング
 ・<流通×AI> リテールAIの「リアイル」
 ・<プロモーション×AI>パッケージデザインの生成
 ・<市場調査×AI> 流行キーワード提案
 ・<消費者心理×AI> 未来購買パターン予測にもとづく商品レコメンド
正解のない消費者心理に挑むということ

そもそも「マーケティング」とは

未だ「マーケティング=広告」「マーケティング=調査」「マーケティング=デジタル戦略」といった捉え方が少なくありませんが、マーケティング発祥の地であり世界最大のマーケティング学会組織であるアメリカマーケティング協会(AMA)の定義は、マーケティングを次のように定義しています。

マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである。

Marketing is the activity, set of institutions, and processes for creating, communicating, delivering, and exchanging offerings that have value for customers, clients, partners, and society at large.

こちらは2007年のAMAの定義ですが、今現在も大きな変更はなされていません。マーケティングとは、広告や調査といった一部分の戦略・機能を指す言葉ではなく、価値ある商品サービスを創造し、消費者をはじめとする社会に伝達・配達し、金銭などとの交換を促すための全ての活動を指す、非常に広い概念であることがわかります。

そして、こうした広い概念であるマーケティングを機能にまで落とし込んだフレームワークが「マーケティング・ミックス」です。マーケティング・ミックスは、上記の活動を最大公約数的に分類したものとも捉えられ、マーケティング活動の軸となる4つの領域を示したものであり、それぞれの頭文字を「P」で揃えていることから「4P」とも呼ばれます。

【4つのPからなるマーケティング・ミックス】
 ・製品(Product):製品やブランドに関する戦略
 ・価格(Price):製品の価格に関する戦略
 ・流通(Placement):製品の流通や店舗立地に関する戦略
 ・プロモーション(Promotion):広告宣伝やコミュニケーションに関する戦略

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4つのPからなる「マーケティング・ミックス」

余談ではありますが、このマーケティング・ミックスは、マーケティング界隈ではマーケティング論の神フィリップ・コトラー氏が提唱されたものと言われることもありますが、実際にはジェローム・マッカーシー氏が1960年に提唱し、後にコトラーが展開したものだということはあまり知られていません。

出所はともかく、このマーケティング・ミックスは、マーケティングにおける有用なフレームワークとして50年以上たった今も引き続き用いられています。ちなみに4Pは、有形の消費財のマーケティング戦略を検討する際のマーケティング・ミックスであり、無形のサービス財の場合にはこれに人的要因(Personnel)、業務プロセス(Process)、物的証拠(Physical Evidence)を加えた「7P」を検討すべきことが提唱されています。ここでは、ベースとなる4Pについて、近年の動向とともにもう少し深堀していきます。

製品(Product)

製品(Product)は、製品の特徴やデザインだけでなく、品質、パッケージ、ブランド、保証まで含め、企業が販売する製品に関わる全ての領域が含まれます。商品のパッケージが良ければ確かに売上にはつながるかもしれませんが、内容がイマイチであればその後のリピートにつながらないだけでなく、ブランド価値も低迷させ、顧客満足度は低いものになります。近年LTV(顧客生涯価値)やカスタマージャーニー、カスタマーサクセスという考え方も注目されていますが、一人の顧客がその企業に対して継続的にエンゲージメントを高めていくため、製品(Product)領域は中心を担う領域だと言えます。

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価格(Price)

製品と合わせて重要な検討領域が、価格(Price)です。製品の価格は、コストベースに決定する方法もあれば、競合他社をベースに決定する方法、あるいは利益ベースで決定する方法などがあります。単なる数字と考えて終わらせることもできますが、薄利多売で価格を低めに設定しすぎるとブランド価値を損なうなど、価格表示は顧客心理に強く紐付いています。他にも、セール価格を「○円引き」と表示するか「○%OFF」と書くかで売れ行きに違いが出るという報告もあり、「単なる数字」では終わらせられない奥の深い領域が、この価格(Price)です。

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流通(Placement)

製品・サービスの流通方法や販売・提供場所を検討するのが、3つ目の流通(Placement)です。時間や経費などを含めたコストを最大限効率化するための流通経路を策定する、あるいは商圏として規模が大きい地域への出店を検討する、また小売店舗内の回遊率を上げるための導線を構築するなど、製品を消費者に送り届けるために必要な検討を行うのがこの領域です。

近年では、オムニチャネル、O2O(Online to Offline)、D2C(Direct to Consumer)などのキーワードも注目され、オンラインとオフラインを組み合わせた流通チャネルの工夫も見られるようにになってきました。その他、自社で販売ルートを構築するのか、販売代理店制を敷くのか、その場合はリベートをどう設けるのかなど、この流通(Placement)では、コストにも直結する配送・流通チャネルについてさまざまな検討が行われます。

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プロモーション(Promotion)

製品の存在を消費者に知ってもらうため欠かせないのが、プロモーション(Promotion)です。テレビや雑誌、新聞等を活用した4マス広告、交通広告(OOH)、インターネットやSNS広告等のデジタルマーケティング、コンテンツマーケティングなどの他、店頭の販売スタッフも重要なプロモーション施策の一つとして位置付けられます。

消費者の広告に対する行動をモデル化した有名なフレームワークとしてAIDMA(注意→関心→欲求→記憶→行動)がよく知られていますが、近年では、SNSの普及を背景に、AISAS(注意→関心→検索→行動→共有)やSIPS(共感→確認→参加→共有)など、さまざまな広告に対する顧客行動モデルが生み出されています。

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マーケティングにおけるAIの活用可能性

一旦4Pを前提とした場合、AI技術はマーケティング・ミックスに応じてさまざまな活用可能性が考えられ、実際にも多数の活用事例が生まれています。一覧にすると、以下のような活用が代表的です。

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マーケティングそのものがカバーする領域が広いだけに、様々な活用可能性が検討できるわけですが、総じてマーケティングにおけるAI活用はどのようなメリットをもたらすのでしょうか。

パーソナライズ化

「おすすめ商品」で知られるレコメンデーションシステムやダイナミックプライシング、広告配信の最適化など、マーケティング領域におけるAI技術活用の最も大きなメリットは、顧客やユーザーの嗜好に合わせて最適なコンテンツを予測・表示できるパーソナライズ化です。AI技術、とくに現在その中心を占める機械学習技術を活用することにより、これまで以上に高度なデータ分析と予測が可能になってきているだけでなく、通信環境やコンピュータ処理技術の高度化も背景に、ユーザーごとに個別のコンテンツを配信し、次のアクションへとつながりやすい施策実施が可能になってきています。

一方で、「AI=パーソナライズが可能」という早合点は禁物で、リアルタイムにパーソナライズ化するということは、それなりに高速で高精度なシステム環境が必要にもなります。また、AIが勝手にユーザーの好みを抽出してくれるということは技術的にも非現実的な話であり、実際には「嗜好」や「好み」が具体的にどのような指標で数値的に把握できるのかをマーケターが厳密に定義する必要があるなど、そのパーソナライズ化に向けたハードルは決して低いものではないことを認識しておくことが肝要です。

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最適化

パーソナライズもその一つではありますが、AI技術を活用することによって、多くのマーケティング施策が目指す成果やターゲットに最適化されることも期待されるメリットの一つです。

近年、GANというアルゴリズムが提唱されて以降、画像を自動生成する取り組みがマーケティング領域では多く見られるようになりました。広告バナーや商品パッケージデザインを過去の顧客データに基づいて、ユーザーごとに最適化するような試みが今後も増えていくものと考えられます。また配送トラックやタクシーなどの流通・配送ルートの最適化も注目を集める分野で、最短ルート・最小コストで効率的な車両配備パターンをリアルタイムで算出するようなプロジェクトも数多く見られるようになっています。

ですがこの最適化問題も非常に解決が難しい分野です。例えば、配送ルートの場合、時間、燃費、人件費、交通状況など、複雑に絡み合う様々な事情をどのような優先度で、どれくらいの割合で加味をするかなど、開発段階において設計すべき要因が多く存在します。最終的に何をもって最適化したと言えるのか、達成すべきKPIの設定が重要になってくる分野です。

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新たなマーケット軸の発見

機械学習技術のなかでもとくに注目を集め、進化が著しいのがディープラーニングです。ディープラーニングは、大量のデータを学習することを通して、人では気づかなかったようなデータ間に潜む規則性や特徴を抽出することを得意とすると言われています。マーケティング戦略の立案においては、その第一ステップとしてSTP戦略(セグメンテーション、ポジショニング、ターゲティング)が重要と言われますが、例えば、新たな市場セグメンテーション軸や、これまでにないポジショニング領域の発見なども期待されるところです。

しかしながら、こうした新たなマーケット軸の発見は、良質かつ大量のデータを保有して初めて実現することでもあります。例えば、一部地域や世代の顧客データのみが極端に多い場合にはAIの予測もそれに引っ張られてしまいます。データに偏りやバイアスがある場合には、当然ながらAIの出力も偏った答えを導き出すことになるため、求める答えに適したデータを収集し、利用することが重要になります。

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マーケティングでのAI活用事例

では具体的にここ数年でのマーケティングにおけるAI活用事例を、マーケティング・ミックスにも基づきながら、いくつかご紹介していきたいと思います。

<商品×AI> 三越伊勢丹×Yahooのアパレル商品戦略

こちらは三越伊勢丹とYahooによる、AIを用いた商品開発の事例で、子育て中の女性のニーズを分析、デザインしたロングスカートを三越伊勢丹のファッションブランド「arm in arm」で発売したというものです。この事例では、Yahoo!が持つYahoo!検索結果やYahoo!知恵袋などの膨大なビッグデータを活用して、子育て中の女性の悩みやファッションのニーズを抽出。これら情報と合わせて、子育て中の女性との座談会などで得られた情報も参考に商品開発が行われています。

出典:ダイヤモンド・チェーンストアオンライン「ヤフーと三越伊勢丹、AIを使って商品開発、9月からECサイトで販売」

<価格×AI> プロ野球でのダイナミック・プライシング

AIを用いてチケットの販売価格を柔軟に変動させようと取り組みを進めたのが、国内プロ野球によるダイナミックプライシングの試みです。プロ野球では、需給の状況に合わせて席ごとの料金を変動させる「フレックスプライス制度」という価格設定が2008年から始まっていましたが、AIを導入しての本格的なダイナミックプライシングは2016年からスタートしています。ダイナミックプライシングは、試合日程や座席、対戦カードなど、過去の試合データを大量に学習したAIが席ごとに需要予測を行い価格を設定するというもので、良い席を高く売るというよりは、売れ残ってしまう席をいかに安くして球場を埋めるかという視点で導入されています。

このケースでは、ダイナミックプライシング導入の結果、2019年のある実証実験でチケットの平均単価が2%下がったにも関わらず、販売数量が17%伸び、収入が14%増になったとのことです。

出典:東洋経済ONLINE「人気沸騰のプロ野球チケット販売に起きる進化」

<流通×AI> リテールAIの「リアイル」

小売・卸・流通・メーカーなどの各プレイヤーが密に連携し、AIなどの技術を用いて流通業界の構造改革を進めているのが、トライアルグループのRetail AIが発表したAIプラットフォームプロジェクト「リアイル」です。Retail AIでは、AIカメラによる欠品防止や、スマートレジカートなどの活用を進めた小売店舗「TRIAL」の展開を進めていますが、このリアイルでは部分最適ではなく全体最適を重視し、小売や流通など一部を改善するのではなく、全体が協力することでさまざまな改革を起こすことが目指されています。

例えば、AI技術を用いて各社が連携することで目指すのは「欲しいものが欲しいときにすぐ手に入る」という買い物体験です。また、小売・流通業界で約3割ほど発生していると言われている「ムダ・ムラ・ムリ」を減らしてコストを削減していくことなどが志向されています。

出典:MD NEXT「トライアルが放つ、リテールAI プラットフォームプロジェクト「リアイル」の戦略とは」

<プロモーション×AI>パッケージデザインの生成

製品戦略にも関わる分野ですが、プラグが提供を開始したのが、最適な商品パッケージを提案するサービス「パッケージデザインAI」です。このシステムでは、920万人にも及ぶ消費者調査データをもとに学習をしており、画像素材をアップロードすることで好感度の高いであろうデザインを自動生成するというものです。

このケースでは、最終的に1,000案からトップ100のデザインを表示、「おいしそう」「かわいい」などイメージワードに合わせたランキング表示もでき、目指す商品コンセプトに合わせたデザイン生成が目指されています。

出典:CNET「プラグ、商品パッケージの「デザイン」をAIが自動生成–1000案の中からトップ100を表示」

<市場調査×AI> 流行キーワード提案

マーケティング・ミックスの検討にも増して重要になるのが、その前段で実施される市場調査です。少し古い事例のため現在も活用が進んでいるか不明ではありますが、市場調査にAIを活用した事例として挙げられるのが、ビッグデータ解析を通して次に流行するキーワードを予測する、電通の「TREND SENSOR(β版)」です。TREND SENSORが分析するのは、流行の発信源であるSNSとマスメディアの情報で、この2つのデータと解析結果を組み合わせることで、カテゴリー別に流行キーワードの予測を行うとのことです。

通常、市場調査は消費者のその時点の姿、その時点の声を収集し、レポートとしてまとめられますが、このケースではデータ解析を通して次の流行という未来予測をも行うという点で、新たな市場調査の形を提案する革新的な取り組みだと考えられます。

出典:MarkeZine「電通、AIが流行キーワードを予測するシステム「TREND SENSOR(β版)」を開発」

<消費者心理×AI> 未来購買パターン予測にもとづく商品レコメンド

こちらは当社が大手アパレルECサイト様向けに手がけた事例です。レコメンデーションシステムは、今やECサイトでは当たりの機能になりつつありますが、通常、閲覧履歴や購買履歴に基づいて商品をレコメンドする方法が主流です。一方で、「見た ⇄ 見ていない」「買った ⇄ 買っていない」という2軸の評価では、ユーザーの興味関心度を把握するには十分ではなく、季節外れの商品をおすすめしてしまったり、すでに購入した商品を提案するなど、的外れなレコメンデーションが起こることも実際です。

Laboro.AIが開発・提供したこのカスタムAIでは、LSTMという時系列情報を加味することに長けたアルゴリズムを用いて、どの順番で商品を見たか、どのタイミングで見たかなど、時間軸に沿った情報も分析した上で商品をレコメンドする仕組みを構築しました。この事例について詳しくは、以下のページをご覧ください。

Laboro.AI プロジェクト事例:未来購買パターン予測にもとづく商品レコメンド

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正解のない消費者心理に挑むということ

「AIが消費者の好みを抽出してくれる」「AIが売れるデザインを生成してくれる」「AIがクリック率を上げる広告配信をしてくれる」、AIの普及・浸透と共に、AIに対する過大な期待も少なからず生まれています。過去のデータをもとに学習し、次の可能性を予測する機械学習という技術は、実はことマーケティングとはあまり相性がいいものではありません。というのも、その時々で意思決定が変わってしまう、移ろいやすい消費者心理は捉え難く、過去のデータから傾向はわかっても、“必ず売れる”正解を示してくれるものではないからです。

これはAI技術の限界ということではなく、そもそも消費者の購買パターンや購買心理に定まったものがないということに起因します。AI導入・AI活用を検討するマーケターにとっては、学習させるデータを精緻に整えることが重要になります。つまり、自社がターゲットとする「消費者」とはどういう属性で表される人なのか、「興味がある」という状態は具体的にどのような指標によって計測される状態なのか、消費者に望むアクションは把握可能な基準においてどのようなフローを踏むことなのかなど、消費者の行動・心理の解像度をできるだけ上げて捉えていくことが、AI技術の活用では鍵となります。

AI技術を活用して、正解のない消費者心理に挑むということは、曖昧で不明瞭な消費者心理をデータ化することとも言えます。より丁寧に、精緻に消費者心理を捉えることが、AI技術をうまく活用することにつながっていくはずです。

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