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Laboro.AIコラム

需要予測AIよ、需要は予測するものでなく作るものだ。

2022.3.6
株式会社Laboro.AI マーケティング・ディレクター 和田 崇

概 要

大量データを分析を得意とするAI。そのホットな活用分野として注目されるのが需要予測です。人間には難しいビッグデータの解析も、AIであれば高速に処理し、企業の利益に結びつくような予測もたしかに可能になるかもしれません。ですが、そもそも“需要”というものは予測できるものなのでしょうか。このコラムでは、AIによる需要予測のメリットや導入事例などについてご紹介のほか、「需要とは何か」について考えを巡らせていきたいと思います。

目 次

完璧な需要予測は、人にもAIにも難しい
需要予測AIを用いることのメリット
 ・勘を信じて生まれる、業務効率化
 ・信頼が生まれれば、強い根拠になる
需要予測AIを確かなものにするポイント
 ・やはりデータを揃える
 ・現場とともに作って行く
需要予測AIの導入事例
 ・小売業界での需要予測AI
 ・食品業界での需要予測AI
 ・サービス業(タクシー配車)での需要予測AI
需要予測AIの活用とは、文化の浸透だ

完璧な需要予測は、人にもAIにも難しい

営業シーンなどでもよく用いられるキーワード、需要予測。経験や勘だけとは言わないもでも、一般的にはこれまでの傾向値や季節性などを加味して確からしい予測値をなんとか捻り出す、この作業の積み重ねこそが需要予測の実際だったように思います。一方、近年「需要予測AI」を謳うプロダクトやソリューションが多数登場し、“AIが人間以上の精度でマーケット需要を予測してくれる”といった期待感の高まりも感じられるところです。

ですが、残念ながらAI需要予測ソリューションを導入したからといって完璧な予測が実現することはそう簡単ではありません。AIは言ってみれば、入力されたデータやプログラムに基づいて計算を施すソフトウェアでしかなく、需要の根拠となるデータが無ければやはり正確な需要を算出することは難しいことだからです。

さらに、ここで言う「需要の根拠となるデータ」とは何かが重要な点です。私たちは一般的に「需要」≒「売上」と考えることが多いように思いますが、売上は純度100%で市場ニーズを表す数値ではありません。売上という金額は、欠品のために機会損失してしまった金額、営業努力でなんとか押し込んだ金額、顧客の都合により来月に購入を引き延ばさざるを得なかった金額など、様々な影響が足し引きされた結果として生まれたものです。つまり、そもそも市場ニーズを正確に算出できないことと同じように、需要というもの自体に正解がないのです。

答えのわからない将来予測にも関わらず、なぜAIによる需要予測に注目が集まっているのでしょうか。

需要予測AIを用いることのメリット

勘を信じて生まれる、業務効率化

ありきたりにはなってしまいますが、AI需要予測を用いることの一番のメリットは、これまで人が頭を捻らせていた予測値の算出作業をコンピュータにさせることによる業務の効率化です。たとえその予測精度・予測内容が完璧でなかったとしても毎月のデータ集約や分析作業が少しでも楽になれば、人的リソースを他業務に割り振ることができるというわけです。

ただここで分かれ目となるのは、「AIの勘を信じられるか」ということです。これまで自分自身の経験や勘を信じてやっていた業務だからこそ、私たちは機械が出してきた予測結果を信じることに難しさを覚えるのが普通です。「3時間かかっていた分析作業を、AIが3分で算出してきた」、こうした響きだけ聞くと怪しげな現実を受け止められるかどうか、そして怪しいからと言ってまた3時間かけて検証作業をするなどの非効率化に陥らないよう、AIというパートナーを心から信頼することが実は需要予測AI活用の大きなポイントになります。

信頼が生まれれば、強い根拠になる

AIに対する信頼が個人の中にも、会社の中にも根付いた状態まで持って行くことさえできれば、今度はその裏返しとして「AIがこう予測している」という強い根拠としてそのアウトプットを活用できるようになるはずです。

とはいえ、AIあるいは機械学習という技術は、良くも悪くも入力されたデータに正直なものです。仮に生産数や発注量を決定するとして、過去の売上、気象情報、POSデータ、来店数を変数とした場合には、それに応じた予測結果が導き出されます。ここに含まれていない競合企業の販売施策、店舗近隣でのイベント情報、販売奨励金の変動による売上変化などは当然ながら加味されません。

AIが弾き出した予測結果の裏で根拠として含まれている情報、逆に加味されていない情報を正確に理解し、そこに不足する部分を人の経験と勘でどう補うかが重要になってきます。つまり、需要予測にAIを導入することで私たちは、新たな経験と勘を携えて行く必要も生まれてくるということです。

需要予測AIを確かなものにするポイント

「需要というものが捉え所がないからこそAIによる予測も完璧にはなり得ない」この前提を受け止めることができれば、需要予測AIの活用範囲にも幅が生まれてきます。需要予測AIをより確かなものとしてビジネスに生かすためのポイントを考えてみます。

やはりデータを揃える

根拠となるデータの存在は、AIの活用にはやはり重要なポイントです。単に量が多いということだけではなく、種類の多さにも気を配る必要があります。売上、類似・競合商品の売れ行き、気温・天候、広告出稿に関する情報など、挙げればキリがありませんが、これらデータもあれば良いというわけではなく、予測したい結果に対してどのように関連する値であって、どう影響を及ぼすのかをしっかりと踏まえた上で用いなければ持ち腐れになってしまうことは言うまでもありません。また、データのフォーマットについても気を配る必要があります。例えば、手書きの営業日報が数万枚あっただけではほぼ何もない状態に近く、AIにデータをインプットするためには、AIが読み込みやすいフォーマットにデータを整形することも大切な準備の一つです。

現場とともに作って行く

上でも触れましたが、AIという機械が算出した需要予測の結果を用いるためには、AIというツールを信頼しなければ話が進むことはありません。とくに経営企画部門が営業部門に需要予測AIを導入する際、現場から強い抵抗が得られることが少なくありません。営業部門に取ってみれば需要とは「予測するもの」ではなく、営業努力によって「作り出すもの」だからです。こうした心持ちの営業現場の従業員に対して「AIが予測したから」という説明は通用するはずもありません。もはやAIに関係のない話になってしまいますが、こうした事態の発生は、日頃からの部門間コミュニケーションの濃度に左右されます。企画段階から現場部門とともに話を進めて行くことが需要予測AIの導入・活用の最重要ポイントとも言えるかもしれません。

需要予測AIの導入事例

かなりリアルで正直、そして地道なプロセスを踏む需要予測AIですが、それも用い方次第、近年では以下のような活用事例が生まれています。

小売業界での需要予測AI

需要予測がビジネスの成否を握ると言っても過言ではない小売業界では、顧客データに加えて多様なデータを用いたAIによる需要予測が試みられています。インテリア雑貨を取扱う企業では、いわゆるO2O(Online to Offline)あるいはオムニチャネルでの施策を展開、オンラインショップでのユーザーデータを活用して、どの地域に住んでいる顧客がどういった商品を購買する可能性が高いかを可視化し、店舗の品揃えや発注量を最適化することで実店舗の売上を大きく伸ばすことに成功しています。

出典:BUSINESS INSIDER「AIは小売業に何をもたらすのか。マイクロソフトの事例から見えてきたもの
参考:Laboro.AIコラム「POSからの脱却。小売AIの進化と可能性

食品業界での需要予測AI

ほぼ全ての商品で賞味期限が設けられる食品業界も、正確な需要予測の恩恵を受けやすい業界の一つです。ある豆腐メーカーでは日本気象協会が発表する「豆腐指数」という過去の販売数や気候、SNSの投稿分析などを踏まえた指数を参考にすることで、豆腐の作りすぎ量を0.06%に抑えられたとことで話題になりました。

出典:NHK「食品の需要予測はAIで」
参考:Laboro.AIコラム「新・食体験に挑む。食品AIの可能性

サービス業(タクシー配車)での需要予測AI

過去のデータから未来を予測する技術の活用は、タクシーの乗車予測でも行われています。ある実証実験では過去のデータを元に利用客の多い乗車ポイントをAIで予測、新人ドライバーに活用させることで1人あたりの1日の売上が1,400円以上も向上したことが報告されています。

出典:NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル Vol. 26 No. 2 「AIタクシー ─交通運行の最適化をめざしたタクシーの乗車需要予測技術― 」
参考:Laboro.AIコラム「事例から知る。機械学習の基礎と活用5ジャンル

需要予測AIの活用とは、文化の浸透だ

今回は需要予測AIをテーマに色々と考えを巡らせてみました。これまでの通り「需要予測AI」というキーワードの盛り上がりや期待感とは裏腹に、そもそも需要という正解も実態もないものを予測しようということに難しさが潜んでいることを押さえておく必要があります。まるで神様の手の上で転がされるように右に左に変動する需要というものは、まさに私たち消費者の虚げな購買心理そのものです。「完璧な予測は不可能である」という前提に立って、どのような予測をAIにさせ、どのように文化としてその活用を社内に浸透させて行くか、こうした地道な一つ一つの活動が需要予測AIをビジネスで活用することの成否を握っています。

Laboro.AIが「カスタムAI」というオーダーメイド型のAI開発にこだわるのはこうした背景から、つまり、企業によって業務内容や目的、環境、社風が異なるとすれば、汎用的なAIプロダクトやAIソリューションは力を発揮しにくいという前提に立っているためです。それぞれの文化や目的に合わせてAIを導入するのであれば、AIもそれぞれに適した形にデザインする必要があります。そして単なるツールとして「AI導入」を達成することを目指すのではなく、社内の文化としてAIの活用を浸透させることも重要なデザイン範囲の一部です。Laboro.AIでは、このAIとビジネス両面のデザインプロセスを「ソリューションデザイン」と呼んでいます。

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