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Laboro.AIコラム

薬局DX。AIは薬剤師業務を変革できるか

2021.3.15

概 要

AI技術を活用したシステムやサービスはさまざまな業界で導入が進められており、業務の効率化や品質向上だけでなく、新たなビジネスモデルの創出にも役立てられています。一方で、サービス内容や業務形態の違いにより、業界によってAIの導入レベルには差があるのが実際です。

調剤薬局、具体的には薬剤師業務は、AIの導入によって大きな変革が期待される分野の一つであり、現段階でも薬剤師の業務支援を目的としたAIが開発・導入され、広がりの兆しを見せています。このコラムでは、調剤薬局における薬剤師業務を、AIがどう支援していけるか考えていきます。

目 次

調剤薬局の現在と今後
薬剤師業務の内容
 ・調剤
 ・服薬指導
 ・薬の販売
薬剤師業務へのAI導入
 ・AIで支援できる業務と、できない業務
 ・調剤へのAI導入
 ・服薬指導へのAI導入
薬局でのAI導入事例
 ・調剤業務の大幅な自動化
 ・服薬指導をAIが支援
AIによる薬局トランスフォーメーション

調剤薬局の現在と今後

人の知能を模した機能をコンピュータに搭載し、より精度の高い処理を行うAI。一見何でもできるかのように思えるAIですが、実は、親和性の高い職種・業界とそうでない分野があります。

例えば、コンピュータが処理しやすい定型的な業務の多いバックオフィスはAIとの親和性が高い一方、薬剤師のような専門的な知識を要する業務は、効率化を目的にするとAIの活用が難しい一面があります。そのため、患者一人ひとりに合わせた対応をしなければならない業種の性質に起因して、AIを始めとしたテクノロジーによる支援はまだ十分に浸透しているとは言えません。

ですが、AIによる業務支援が不可能ということではありません。実際、調剤薬局の業務を支援し、業務効率化やお客様の満足度向上につながるアイデアがすでに登場しており、現場導入される例も生まれてきています。その状況を確かめるため、まずは導入先となる薬剤師の代表的な業務をおさらいしていきます。

薬剤師業務の内容

言うまでもありませんが、薬剤師は大学の薬学部で6年間のカリキュラムを履修し、国家試験に合格することで就くことができる職業です。 就業先としては薬局・医療施設・医薬品関係企業が主で、 その業務内容は専門的な上、広範囲に渡ります。

調剤

医師が出した処方箋の内容に従って薬剤の調剤を行う、これが薬剤師の代表的な業務です。しかし、処方箋のとおりに調剤することを基本としつつも、薬の飲み合わせや患者の様子などから、処方箋の薬で本当に問題がないかの確認や別の提案を担当医師に伝える「疑義照会」も、薬剤師の重要な役割です。

飲み合わせなどの確認を薬剤師が行うのは「医薬分業」の考え方に基づくもので、医師とは切り離された立場から薬剤師がチェックを行い、セカンドオピニオン的な観点をもって処方のミスを防ぐための重要な役割を担っています。

服薬指導

調剤した薬を患者に渡す際に服薬指導を行うことも薬剤師の重要な業務の一つです。薬を飲むタイミングや適切な飲み方、副作用などの注意点、分量などについて指導を行うことで薬を安全に服用してもらい、確実な効果が出るようにサポートします。

なお、窓口で薬を渡しながら服薬指導をするのは調剤を行った薬剤師とは別の薬剤師が担当します。医薬分業だけでなく、調剤薬局の中でも役割を分けることでミスの防止やサービス品質の向上につなげられています。

薬歴管理

患者へ薬を提供するためには、薬剤服用歴管理簿(薬歴)が欠かせません。薬剤師は服薬指導を通して患者の服薬状況や既往歴、副作用歴を聞き取り、薬歴として管理を行います。薬歴は記入するだけでなく、自分以外の薬剤師が見たときにもわかりやすい内容になっていることが大切です。「薬剤服用歴管理指導料」の算定要件でもあるため、薬歴の管理・活用は薬剤師の重要な業務のひとつです。

薬の販売

薬の販売を行うことも薬剤師の業務の一つです。ドラッグストアには薬剤師がいなくても購入できる薬が多く並んでいますが、これらは第2類医薬品、第3類医薬品と呼ばれる薬剤師だけでなく登録販売者も取り扱える薬です。一方、要指導医薬品、第1類医薬品は、薬剤師による書面での情報提供の上でのみ販売が可能とされています。なお、調剤薬局事務員がいない場合は、薬剤師が処方箋の取り扱いから会計まですべてを担当することもあります。

薬剤師業務へのAI導入

上記のような薬剤師業務・薬局業務に対して、AIは全てを代替することができるのでしょうか。

AIで支援できる業務と、できない業務

AIの導入事例が様々なビジネスシーンで見られるようになってきているものの、いまだ「AIによって人間の仕事が奪われるのではないか」というイメージは根強く残っているようです。

たしかにAIによって代替され得る業務・職種は存在し、実際、ごく一部の業務やタスクはAIを始めとした技術によって代替されていることも事実です。ですが、AIはゼロイチで何でも可能にするような技術ではなく、できることはかなり限定的です。あくまで業務支援を行うサポートツールとしてAIを捉え、AIを「どう使うか」という視点に立つことが重要です。

薬剤師業務へのAI導入を考える際も、AIで支援できる業務と、AIでは支援できないを業務を見分けることが重要です。機械に任せられることは機械に任せ、人にしかできない業務は薬剤師の仕事として生かし、それに専念できるような環境構築を目指すことが大切です。

(※画像はイメージです)

調剤へのAI導入

調剤業務のある程度の部分は定型的な作業となるため、オートメーション化に向いていると考えられます。一方で、処方箋は患者の体調や体重、薬の飲み合わせなどを見て薬の分量などが調整されており、一人ひとりに合わせた対応が必要となります。近年では、こうした微妙な量の調整も入力されたデータに基づいて自動で行い、調剤業務をオートメーション化するようなソリューションも登場しています。

具体的にAIは、チェック部分での活用が期待されています。例えば、分包した薬が種類・数ともにきちんと合っているかの判定を画像認識技術を用いたAIで行うなどが考えられます。

(※画像はイメージです)

服薬指導へのAI導入

服薬指導は、患者一人ひとりに合わせた対応が必要なため、機械ではなく薬剤師が行うべき業務ではありますが、その業務支援のためにAIを用いることも一つの方法です。

例えば、経験を積んだベテランの薬剤師は、患者が他に服用している薬や服用歴、その日の体調、医師の処方箋内容などから総合的に判断し、その人に合わせた的確な服薬指導を行うことができますが、一方、薬剤師の資格を取ったばかりの新人は机上で勉強したとおりの指導に留まってしまうこともあり、このノウハウの差は大きな課題だと言えます。

こうしたベテランと新人の差は、AI技術を活用することで埋められる可能性があります。後の事例パートでご紹介しますが、ノウハウを蓄積したシステムからその患者に合わせたデータを素早く参照することで、経験の少ない薬剤師でも患者に合わせた服薬指導が行えるようなシステムも登場しています。

(※画像はイメージです)

薬局でのAI導入事例

最後に、実際に進んでいる薬局へのAI導入事例を2つ見ていきましょう。

調剤業務の大幅な自動化

調剤併設ドラッグストア『トモズ』は、一部の店舗で大規模なオートメーション設備を導入し、散剤(粉薬)の調剤、水剤の定量分注、錠剤の分包など以下のバックヤード業務の自動化に成功しています。

・ピッキング → 軟膏や張り薬を除く9割の薬のピッキングを機械が行う
・散剤の調剤 → 処方データを流すだけで散薬調剤ロボットが調剤
・水剤の調剤 → 投薬ボトルをセットし、スタートボタンを押すと水剤定量分注機が調剤
・錠剤一包化 → 全自動錠剤分包機が行う
・錠剤一包化の監査 → カメラ付きの錠剤一包化鑑査装置が撮影しながら行う

このケースでは、AI技術は錠剤一包化の監査装置に取り入れられています。毎日複数種類の薬を飲む患者にとっては、複数の錠剤を1つの袋にまとめる錠剤一包化は非常に嬉しいものですが、一方で、薬剤師による人手作業と目視によるチェックが必要で、その負担は決して小さいものではありません。

この一連のオートメーション化の例では、一包化の作業を自動化しつつ、内包チェックを画像認識AIを用いて実施しています。具体的には、一包化した袋を撮影し、そこにどんな薬が入っているのかをAIが判定、指示どおりの薬が入っていなかったり、撮影時に重なり合っていて判定が難しかったりするとアラートを出し薬剤師が確認できるようにすることで、一包化のチェックを大幅に効率化することに成功しています。

出典:MD NEXT『トモズ、調剤オペレーション自動化の実証実験を開始』

服薬指導をAIが支援

『さくら薬局』では、膨大な調剤データや患者のデータを活用し、AIが服薬指導を支援できるシステムを導入しています。

服薬指導は、上でも書いた通り、薬剤師ごとの経験の差が課題になります。さくら薬局では、薬に関する知識や服薬指導に関する知見などを全国の店舗から集めてデータベース化し、薬剤師が服薬指導をする際、AIによる提案(レコメンド)を閲覧できるシステムを構築しています。

さらに、ベテランの薬剤師にとっては過剰な情報は逆にノイズとなることから、薬剤師のスキルに合わせてレコメンドする情報の内容量を変えられるといった工夫もなされています。

窓口業務の平準化を図れるだけでなく、膨大なデータを処理するAIだからこそ気付ける患者の「いつもとは違う変化」にも対応できるようになるなど、サポート品質の向上にもつながっています。

出典:IBM THINK『“調剤業務”から“対人業務”へ——AIで実現するさくら薬局のデジタル変革』

一包化監査支援システム

富士フイルムは、写真・医療分野で培ってきた光学設計技術・画像処理技術を活かし、薬剤を一錠ずつ瞬時に判定し、処方箋と自動照合するシステムを実現しました。具体的には、錠剤やカプセル剤を高画質撮影し、独自の画像認識技術で一つ一つの錠剤の刻印や文字、カプセル剤の色や形などを高速・高精度に読み取るというものです。

一包化監査支援システムの導入により、薬剤師の一包化監査業務の時間を短縮するだけでなく、正確性の向上にも寄与しています。

出典:富士フィルム『一包化監査支援システム PROOFIT 1D』

AIによる薬局トランスフォーメーション

薬剤師は高度に専門的な知識を要する職業でありながら、精査してみるとAIが自動化できる業務も含まれています。定型的な業務をAIに代替させ、患者ごとの服薬指導などパーソナライズな対応が必要な対人業務に薬剤師のリソースを割り当てることで、薬剤師の価値をより一層高めていくことができるはずです。

薬剤業務におけるAI活用はまだ始まってばかりで、今後、新たな先進的な導入事例の誕生が見込まれます。Laboro.AIでは、薬局・薬剤・製薬業界はもちろん、すべての産業でイノベーションを志す方々をお客様としてお迎えし、カスタムAIの開発を行なっています。AIの活用・導入・開発について課題をお抱えの方は、ぜひご相談ください。

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