
「Web3.0」じゃないWeb3と、AIの関係性
2022.12.13
株式会社Laboro.AI リードマーケター 熊谷勇一
概 要
先日公開したコラム「AI導入企業の初の過半数越え。高品質AIモデルを支えるデータセントリックとは」では、文字通り-centric(〜を中心とする)を話題にしましたが、今回はその反対のdecentric、「非中心の、非中央集権の」の話題を取り上げます。実は、Web3でdecentricがキーワードになっているのです。ここを押さえることにより、Web3にAIがどう関わり、どのような相乗効果を生んでいき、AIの重要性がさらに増すことが分かります。
目 次
・インターネットの歴史と発展
・Web1.0
・Web2.0
・そして、Web3とは
・Web3のメリット
・個人情報を自由に管理できる
・国を超えたアクセスが自由にできる
・仲介組織を通す必要がなくなる
・セキュリティレベルが向上する
・Web3にはAI活用が欠かせない
・ブロックチェーン技術内の活用
・メタバースにおける活用
・Web3とAIと社会は高まり合う
インターネットの歴史と発展
そもそもインターネットは、どのように発展してきたのでしょうか。
次に訪れるとされているWeb3という概念があるということは、その前に2と1があったということです。
Web1.0
インターネットが登場し、家庭でも使われるようになったのは1990年代後半のことであり、それからの時代をWeb1.0と呼びます。マイクロソフトによるOS(基本ソフト)「Windows 95」がその名の通り1995年に発売されたことなどがきっかけとなり、家庭用のパソコンとインターネットが急速に広がり始めました。
Web1.0の特徴は一言で言えば「一方通行」です。インターネット上に公開されたウェブサイトの利用方法のほとんどは「読むだけ」でした。メールや掲示板などの例外を除き、作成者が公開してユーザーが読むだけの時代だと言えます。

Web2.0
2000年ごろからスタートしたとされているのが、「リード・ライト型」とも言われるWeb2.0です。Web2.0ではインタラクティブ(双方向的)に情報がやり取りされるようになります。
具体例としてはまずブログが挙げられます。ユーザーはプログラミングの知見を必要とせずに気軽にブログを開設でき、情報を発信できるようになりました。その後、各種SNS(交流サイト)やYouTubeなどの動画配信サイトも普及しました。クラウドコンピューティングも生まれ、ファイルの共有や共同編集が容易になったのも大きな特徴です。今や、誰もが大容量・高品質の情報やコンテンツを発信し、それを基にコミュニケーションができる環境が整っています。
一方で、無料で使えるこのような便利なサービスはGAFAMを始めとする管理者が情報を収集することで成り立っています。管理者であるGoogleやFacebook(Meta)は、巨額の広告収入で経営が成り立っています。近年はこのような中央集権型のインターネットに反発する雰囲気も生まれ、人々は自信の情報やコンテンツを自らコントロールしたいと思うようになっています。
そこで登場しようとしているのがWeb3です。「Web3.0」と表記しないのは、Web3.0はもともと1990年代後半に「セマンティックウェブに基づくインターネット」の意味で使われており、現在言われているWeb3とは意味が異なるからです。ちなみにセマンティックウェブとは、ウェブページに記載してある文字列以上の意味を持たせることで、効率良く情報にアクセスできる在り方のことです。
Web3が発展することで、既存の仕組みは分散型の新たなサービスに移行するシナリオがあります。

出典:大植択真『Web3時代のAI戦略』
そして、Web3とは
Web3とは一言で言えば、分散型のインターネットであり、中央に管理者はおらず、ユーザーは自分のデータを自分で管理し、ブロックチェーンが重要な役割を果たす在り方のことです。10月3日の岸田文雄首相による所信表明演説でも触れられ、いや応なく進展していくことになりそうです。Web3の具体的なサービスに共通している特徴がdecentric、「非中心の、非央集権の」なのです。
Web1.0、Web2.0という現在までのインターネットは中央集権型と捉えられています。GAFAM(Google、Amazon、Facebook (Meta)、Apple、Microsoft)をはじめとした大手IT(情報技術)企業が管理者として存在し、ユーザーはそのサービスを利用しているかたちです。別の言い方をすれば、ユーザーは個人情報やアクセスログが大手 IT企業にどのように使われているか把握することは難しく、不正利用されていないことを信じてサービスを利用することになります。
一方、Web3は、GAFAMのような管理者がおらず、情報はユーザ一人ひとりによって管理される在り方です。この実現の鍵となるのが、ブロックチェーンの技術です。ブロックチェーンは情報取引における記録技術のことを指し、取引情報は暗号化され、ユーザー間で分散するかたちで保存されます。ですから、ブロックチェーンでは中央集権的な管理者を必要としません。
参考:phemex「Web 3.0: 未来の分散型インターネット」
リテールガイド「Web3.0とは?Web1.0、2.0との違いやメリット、サービス・技術の事例などを紹介」
coindesk JAPAN「「ウェブ3」を10分で理解する【基礎知識】」
SELECK「【最新事例も】「Web3(Web3.0)」とは何か? ブロックチェーンが実現する「次世代インターネット」徹底解説」
Web3のメリット
インターネットがWeb3へ発展すると、以下のようなメリットが得られると言われています。
個人情報をより適切に管理できる
Web3ではブロックチェーンにより情報が分散して保存され、原則として保有者以外が手を加えることができません。そのため各人が個人情報を思う通りに管理でき、どの企業・サービスに使ってもらうかをコントロールできるようになります。
例えば、個人情報を提供することで対価として報酬やサービスを受け取るなど、自由な取引が実現されるサービスが出てくる可能性があります。
国を超えたアクセスが自由にできる
インターネット上のコンテンツは、世界中からアクセスできるというイメージがあるのではないでしょうか。しかし実際には国ごとの法律や規制などがあり、どこにいても同じページやサービスを利用できるというわけではありません。グローバルに展開しているサービスでも、国や言語によって内容を変えているケースは珍しくありません。
Web3ではサーバーが存在しないため、このような国ごとの制限や違いも取り払われ、どこからでも同じサービスを享受できるようになります。
仲介組織を通す必要がなくなる
Web3では、現在「管理者」として存在しているGAFAMのような大手テック企業に限らず、あらゆる仲介組織が必要なくなり、サービス提供者と受給者が1対1で直接取り引きをします。これにより、仲介手数料がなくなったり、仲介組織の誘導の影響を受けずにより主体的に製品やサービスを選択できるようになったりするなどのメリットが生まれるかもしれません。
セキュリティーレベルが向上する
セキュリティーレベルの大幅な向上も期待されます。ブロックチェーンの技術では情報が暗号化され、さらに分散して保存されるため、理論上は情報の改ざんが不可能と言われています。サイバー攻撃を仕掛けて改ざんしようとしても、分散された情報が生きているため、すぐに照合され攻撃されたことが分かるという仕組みです。
中央集権型のWeb2.0では、サーバーに情報が蓄積される仕組み上、サーバーが攻撃者の標的となります。現状、情報漏洩のニュースは珍しいものではなく、セキュリティーは完全なものだとは言えません。Web3に移行することで、現状起きているような大規模な情報漏洩などは起きない可能性が見いだされています。

参考:リテールガイド「Web3.0とは?Web1.0、2.0との違いやメリット、サービス・技術の事例などを紹介」
Web3にはAI活用が欠かせない
Web3ではこれまでになかったようなサービスが多数登場し、より一人ひとりにカスタマイズされたサービスも生まれていくと考えられています。そうした中で欠かせないのが、AIの技術です。
ブロックチェーン技術内の活用
Web3の根幹となるブロックチェーンは、AIを活用することで新たな価値がもたらされると考えられます。
例えば健康の分野では、大量のデータを集めることでAIを学習させ、診療や生活習慣指導の質を高めることが期待できます。しかし患者や情報提供者のプライバシーの問題が付きまとうのが現実です。ブロックチェーンでは個人情報は個人によって管理されるため、プライバシーを保護した上で質の高いデータを集め、治療法などを発展させていくことが可能になると期待できるでしょう。
その上、AIの高度な応用においては、企業や国をまたいだ無数のソースからのビッグデータを用いることもあります。しかしそのようなデータの使用には、ノイズやバイアス、誤ったデータや改ざんされたデータに汚染されるリスクがあります。ブロックチェーンは、AIが学習で使うためのデータを管理し、トレーサビリティーを担保することで、データの信頼性を確保することができます。ブロックチェーンではさらに、ネットワーク上の管理された学習データに誰もがアクセスできるようにもなります。
加えてプライバシーや「非中央集権」と関連した新しい機械学習の在り方として、連合学習(Federated Learning)も出てきています。これは、個々のデバイスやサーバーのデータを共有することなく、それらデバイスやサーバにまたがってモデルを学習していく機械学習の手法です。
連合学習は従来の機械学習と違ってデータを共有しない性質を持つので、データプライバシー、データセキュリティ、データアクセス権、異種データの活用など、企業や社会が考慮すべき重要な問題に対処しつつ、機械学習・深層学習の恩恵をもたらすことができます。
出典:デロイトトーマツ「AIとブロックチェーンのシナジーで、安全と信頼を生み出す」
森正弥「Federated Learning (連合学習):エッジコンピューティングを支え、またブロックチェーンとシナジーする、分散型機械学習」
メタバースにおける活用
Web3ではメタバースがより発展し、身近になっていくと予想されます。
メタバースとは、インターネット上に作られた仮想空間のことです。人々は自由に選択したアバターを使用し、現実と同じように交流や生活、仕事をします。
企業の従業員は同じオフィスに集まる必要がなくなり、メタバース上でコミュニケーションやプロジェクトの推進を行うことが可能です。また、日常的な買い物もメタバース上で行えるようになっていくでしょう。
このようなメタバースにおいても、AIは重要な技術となります。例えば、メタバースが人々の生活で重要性を増すためには24時間365日の絶え間ない管理が必要となります。そこでAIによる自動管理が実現の鍵になるでしょう。
また、メタバースひいてはWeb3において、より一人ひとりに合ったサービスが求められるようになり、そこでもAIが活用されるでしょう。メタバース上の行動は、基本的にすべてデータで表現・取得できると言えるからです。例えば、現在も行われている商取引の実績のデータだけではなく、消費者がなぜ買ったか、もしくはなぜ買わなかったかが、その前後の行動データと結び付けて分析できるようになるでしょう。

参考:IBM「ブロックチェーンと人工知能(AI)」
モリカトロンAIラボ「Web3.0を担うメタバースにおけるAIの役割とは?」
Web3とAIと社会は高まり合う
Web3によって、人々の行動がさらにデジタルデータで表現・取得できるようになり、それを学習データとしてAIがさらに進化し、より良いサービスが生まれ、利用者が増え、さらに取得できるデータが増え…という具合に、Web3とAI、そして私たちの社会は正の連鎖を生み出せる可能性があります。あらゆる産業でのWeb3とAIの活用も見込めます。自社が置かれている産業でのAI活用のコンサルティングや、自社事業のためにカスタムメイドしたAIである「カスタムAI」を強みとするLaboro.AIにぜひご相談ください。
Web3の前提の一つとなるAIとIoTについてはこちらをご覧ください。
AIとIoT、その密接な関係を知る