今、『AI戦略2019』を振り返る。企業のあるべき姿
2020.12.4
概 要
政府が2019年に発表した『AI戦略2019』。今後日本がAI産業で世界をリードしていくことを目的に、AI人材を教育するための教育改革や技術体系を確立するための仕組みが戦略目標として定められました。国を揚げてAIの競争力強化に取り組む中、企業がAIを取り入れる際にはどのような点に注意する必要があるでしょうか。
今回のコラムでは、AI戦略2019の概要、またそれに大きく関わるデジタル庁の概要について現在分かっていることをはじめ、企業がAIを導入する際に押さえたいポイントをご紹介します。
目 次
・AI戦略2019とは
・4つの戦略目標の概要
・戦略目標① 人材の育成
・戦略目標② 産業競争力の強化
・戦略目標③ 技術体系の確立
・戦略目標④ 国際的視点
・AI人材の教育改革
・Society 5.0とは
・AI戦略にも関わる「デジタル庁」
・デジタル庁とは
・デジタル庁の役割
・国と自治体システム統一
・マイナンバーカード
・行政手続きのオンライン化
・医療および教育分野の規制緩和
・AI導入企業が押さえるべきポイント
・社会実装は日本企業の強み
・AI採用に行き詰まる障壁を理解する
・テクノロジーとビジネスをつなぐ
AI戦略2019とは
AI戦略2019は、AIにまつわる教育改革を始め、日本におけるAIの課題を解決し成長していくための基本指針として定められました。中心となる理念として、以下の3つが掲げられています。
・人間の尊厳の尊重(Dignity)
・多様な人々が多様な幸せを追求(Diversity & Inclusion)
・持続可能(Sustainability)
この3つの理念を中心に、AI戦略2019では4つの具体的な戦略目標が設定されています。
出典:首相官邸 イノベーション政策強化推進のための有識者会議「AI戦略」(AI戦略実行会議)
4つの戦略目標の概要
戦略目標① 人材の育成
我が国が、人口比ベースで、世界で最もAI時代に対応した人材の育成を行い、世界から人材を呼び込む国となること。さらに、それを持続的に実現するための仕組みが構築されること
人材育成に関するこの戦略目標では、
・AI研究を行う人材
・AIを産業に応用する人材
・中小事業所で応用を実現する人材
・AIにより新たなビジネス創出を行う人材
などのカテゴリーでAI人材の数を増やしていくため、その育成や海外からの呼び込みに向けた持続的な仕組みの構築が目指されています。
高校や大学・高専はもちろん、小中学校からAIに関するカリキュラムを見直す大規模な改革案が策定され、例えば、すべての高校生が卒業までに数理・データサイエンス・AIの基礎的なリテラシーを習得することが目指されるほか、大学・高専でも文理問わず数理・データサイエンス・AIの初級レベルを履修できるようにカリキュラムを見直すなどが示されています。
社会人の再教育やエキスパートを育成するための高度な教育環境の整備も目標として設定されており、日本全体でAIリテラシーをベースにした環境に移行させようとしていることがわかります。
戦略目標② 産業競争力の強化
我が国が、実世界産業におけるAIの応用でトップ・ランナーとなり、産業競争力の強化が実現されること
SNSや検索サービスなどサイバースペースを舞台とする産業に比べて、医療、農業や物流、製造設備など物理的実世界で価値を提供する産業(実世界産業)には、まだ系統的に取得されていない多くの情報が存在します。
これら分野でAIの活用を進め、産業競争力の向上と、日本の産業が世界のトップランナーとして地位を確立することが目指されています。さらには世界規模でのSDGs達成に貢献することが示されています。
戦略目標③ 技術体系の確立
我が国で、「多様性を内包した持続可能な社会」を実現するための一連の技術体系が確立され、それらを運用するための仕組みが実現されること
「技術体系」は、先の3つの理念を実現するための一連の技術体系を確立・運用していくための仕組みを作っていくことを目指した戦略目標だと言えます。女性や外国人、高齢者など多様な背景を持つ人々が多様なライフスタイルを実現し、一人一人が具体的にメリットを享受できることを目指して、AI関連の技術体系を確立とそのための制度作りを進めていくことが挙げられています。
戦略目標④ 国際的視点
我が国がリーダーシップを取って、AI分野の国際的な研究・教育・社会基盤ネットワークを構築し、 AIの研究開発、人材育成、SDGs の達成などを加速すること
AIの国際的な研究・教育において日本が世界をリードし、社会基盤ネットワークを構築していくことに関する戦略目標です。AI関連の人材育成や産業展開は国内で完結させず、国際的な視点で進めていくということが目指されています。
AI人材の教育改革
AI戦略2019で最も重要な項目の1つが、AI人材を輩出していくための教育改革です。AI戦略2019では、AIやデータサイエンスを理解して各専門分野で活用できる人材を年間約25万人、AIやデータサイエンスを駆使して国際的に活躍できるエキスパート人材を年間約2,000人輩出することなどを目標に定めています。
そのための取り組みは年代別に策定されており、教育改革は小中学校から始まります。例えば、小中学校ではSTEM教育のモデルプランを全国展開するなどして理数分野への興味関心を向上させ、高校ではAIを活用するための確率・統計などの分野やAIの基礎を実習授業で教育していくとしています。
Society 5.0とは
Society 5.0は、日本が標榜する科学技術基本計画です。AI戦略2019は、Society 5.0を実現することを目的の1つとしています。
Society 5.0は、現実空間(フィジカル空間)と仮想空間(サイバー空間)を高度に融合させるシステムにより経済発展と社会的課題の解決を目指すもので、AIを始めとしたテクノロジーと人間や自然が共存しながら持続していく社会を指し他概念です。
現在のSociety 4.0が抱える多様な課題を、最新技術を活用することで克服し、社会の変革を通じて日本が目指すべき未来社会の姿として掲げられました。
解決が期待されている具体的な課題としては、
・持続可能な産業化の促進、人手不足
・食料の増産やロス
・温室効果ガス
・高齢化に伴う社会コスト
・地域間の格差
などが挙げられています。
AI戦略にも関わる「デジタル庁」
AI戦略2019にも大きく関わる最近のトピックとして、菅内閣が設立を目指す「デジタル庁」があります。
デジタル庁とは
デジタル庁は、各省庁の業務や手続きをデジタル化していくための司令塔として機能する予定の新しい庁です。当初は2022年発足と発表されていましたが、新型コロナウイルスの対策でデジタル化が進んでいないことによる対応や手続きの遅れもあり、菅政権発足後、優先的に設立準備が進められているとされています。
デジタル庁の役割
各省庁のデジタル化を推進していくことがデジタル庁の大きな役割ですが、行政手続きをスムーズにし、国民の生活を改善するために行政手続き全般のデジタル化なども推進していくことが大きな役割です。具体的には、以下の案件を推進していくとされています。
国と自治体システム統一
現時点では各省庁のデジタル化の度合いはバラバラであり、導入されているシステムもバラバラです。デジタル庁の役目としてはこれらを統一し、自治体のシステムも一括管理できるよう調整していくとされています。
マイナンバーカード
政府が普及を目指しているマイナンバーカードについても、デジタル庁によるデジタル化が進められるとされています。具体的には、保険証や運転免許証をマイナンバーカードに統合することを目指しています。予定では、2021年3月からマイナンバーカードを保険証として使用できるようになり、2022年にマイナンバーカードの機能をスマートフォンに搭載し、2026年に運転免許証とマイナンバーカードを一体化するとされています。
行政手続きのオンライン化
行政手続きの多くは所定の窓口へ行き、書類を作成して提出する必要があります。こういった行政手続きをオンライン化し、利便性を高めていくこともデジタル庁の役割とされています。
医療および教育分野の規制緩和
さまざまな分野でAIを始めとする技術が活用されていますが、医療や教育の分野では規制が強い面もあり、利便性の高いサービスが開発されにくい現状があります。新型コロナウイルスの感染拡大により、3密を避けて診療を受けられるオンライン診療なども話題になりましたが、デジタル庁ではこのような規制を緩和していくことも目指されています。
AI導入企業が押さえるべきポイント
AI戦略2019により今後、国内でAI人材の育成やAI産業の活用が進んでいくと考えられる中で、企業がAIを導入したいと考えたとき、どのようなポイントを押さえておくべきでしょうか。
社会実装は日本企業の強み
AI戦略2019にも書かれていることですが、モノづくり大国とも呼ばれる日本では、とりわけ実世界産業の領域が世界的にみても存在感が大きいことが特徴にあります。そのため、AI技術の応用(AI for Real World)とインクルージョン(AI for Inclusion)の実現では、世界に比べても優位性を発揮することが期待されています。
学術研究や研究開発分野ではアメリカや中国に少なから後塵を拝している部分がありますが、実世界産業への応用、つまり社会実装でどれだけ力を発揮できるかが、日本企業にとっては重要な点だと言えます。
AI採用に行き詰まる障壁を理解する
この際に課題となるのが、戦略目標にも掲げられているAI人材の壁です。
それを表すように、ガートナーが行った調査によると、2019年から2020年の間にAIを導入済みの企業の数は増えているものの、2019年には「1年以内に導入する」としていた企業の多くが導入に至っていない現状があり、従業員のスキル不足やAIによるメリットの理解が不十分であることが障壁になっていると分析されています。
企業、とくに経営層にとっては、AI人材の育成、採用、海外からの呼び込みといった取り組みにより、社内のAIリテラシーを向上させることが今後の成否を握るはずです。この際、AI技術そのものの知識にも増して、それ以上にビジネス実装に関するノウハウがより重要になってくることには注意が必要です。
テクノロジーとビジネスをつなぐ
AI戦略2019が本当に実現されていくかは、私たち日本企業の今後の努力にかかっていると言えます。AIが社会システムの多くのシーンで用いられていくことは間違いありません。AIを活用した業務改善やビジネス創出、DXの推進に挑んでいくことは、全ての企業にとっての重要取り組み事項と言えるでしょう。
とは言え、上述の通り、自社のリソースのみでAIを導入することには限界があるケースがほとんどです。現在では、一社単独ではなくAIベンダーと共に課題解決を目指すことがスタンダードになってきています。単なる“AI開発”ではなく、ちゃんと“AIというテクノロジーと、ビジネスをつなぐ”ことを目指す場合には、Laboro.AIにご相談いただけましたら幸いです。