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Laboro.AIコラム

変わる建設、変えるAI。建設DXの今とこれから

2021.4.14公開 2022.11.2更新

概 要

AIは機械学習やディープラーニングの技術進化により、第3次ブームにあるといわれています。AIと親和性が高くて導入が深く進んでいる業種もある一方、まだほとんど浸透していない業種もあるあります。建設業界では現在、大手ゼネコンなど一部企業によるAI投資が進められている段階であり、今後、AIによる業務改善や品質向上など、建設現場へのプラスの効果が期待されています。
本コラムでは、建設業界ならではの課題や今後の動向、実際の活用事例についてご紹介していきます。

目 次

建設業界の現状課題
 ・人手不足
 ・安全優先の現場、作業の非効率化
 ・労働環境
建設業界のAI活用の現状と今後の動向
国土交通省「i-Construction
建設業界でのAI活用7事例
 ・建設物の制振制御【Laboro.AI】
 ・インフラ設備の劣化箇所検出【Laboro.AI】
 ・品質や安全に関する作業リスクをAIで管理
 ・建設現場での意思決定支援
 ・災害事例を分析し、危険予知
 ・建物の外壁タイルの浮きを自動判定
 ・工事進捗・資機材を認識し図面に
変わる建設、変えるAI

建設業界の現状課題

建設業界は大手企業によってAI導入が進んでいます。その背景には建設業界ならではの次のような課題があります。

人手不足

少子高齢化や人材のミスマッチが起きている中、多くの業種で人手不足が叫ばれており、建築業界も例外ではありません。建築業界における従事者の数は減少傾向にあり、ピークだった1997年に比べると2019年の従事者の数は約27%も減少しています。

建築業界は、時代によってインフラ整備の需要が大きく左右される業種のため、従事者が減っていることがすぐさま問題にはなりません。しかし東京オリンピックや東日本大震災の復興という大きな需要がある中でも増加していないことをも考えると、この課題は深刻といえるでしょう。

また、有効求人倍率を見ても建築業界の人手不足が逼迫していることは明白です。例えば、2021年の有効求人倍率は6.01倍となっており、前年を0.12ポイント上回っています。

出典:BUILT「「2021年は建設技術者の需要が五輪前を上回る、2022年はさらに需給が逼迫」建設業界人材動向を独自分析」
  :PR TIMES「【独自分析】 2021年建設業界の人材動向と2022予測 2021年の建設技術者需要、特需に沸いた東京オリンピック前上回る、2022年の人材需給はさらに逼迫と推測」

さらに、従事者の高齢化も問題になっています。20代の従事者が約33.1万人である一方、65歳以上の従事者は40万人を上回っており、若者の定着に課題があることも建設業界の特徴だといえます。

こうした人手に関わる課題の解決策として期待されているのが、AIを含む先端テクノロジーの活用です。効率化を妨げる単純作業をAIが肩代わりする、あるいは整備箇所の判断をAIに行わせることでベテランと新人の差を埋めるといった対策としてその効果が期待されています。

出典:国土交通省『建設業界の現状とこれまでの取組』建設会計ラボ『建設業界の現状~今後の鍵はICT化~』

安全優先の現場、作業の非効率化

危険と隣り合わせの状況が少なくない建設現場では、当然ながら安全が最優先されるため、そのためには効率を犠牲にせざるを得ない側面もあり、作業の効率化がなかなか進められにくいことも特徴として挙げられます。

そこで期待されているのがAIを搭載したロボットの導入です。建築業界では建設用ロボットの導入が積極的に行われていますが、危険な作業のロボットによる肩代わりや、人の作業工程の短縮による全体の効率化などが期待されています。

労働環境

建築労働者においては、前項でも解説した非効率な作業などにより、労働環境が決して良くはないケースが見られます。
労働環境の悪化は人手不足の問題にも直結するもので、国土交通省でも働き方改革は喫緊の課題としています。具体的には、作業内容に応じた適切な歩掛かりによる賃金の上昇、適切な工期を組むことによる週休2日の確保などが挙げられています。

出典:国土交通省「AIを活用した建設生産システムの高度化に関する研究

建設業界のAI活用の現状と今後の動向

建築業界では、大手ゼネコンをはじめとする大手企業によるAIの開発・導入が中心に進められています。現時点では研究開発段階のものも多く、実用レベルで現場活用されているAIはまだまだ少ないのが現状ですが、今後はAIによる業務効率化や品質向上に大きな期待がかけられています。

AIが得意とするタスクには、膨大なデータの処理や単純作業の高速化の他、大量のデータを学習することによる予測とより良い結果を導き出すための推論が挙げられます。こうしたAIの得意領域は、経験則に裏付けされたベテランの知見が重要になる業種との親和性が高いと言われています。建設業界も深いノウハウと多様な経験を持ったベテランの判断が多く求められる業種であり、AIによる効果が発揮されやすい分野だと考えられます。

国土交通省「i-Construction」

国土交通省は2017年、「第4期国土交通省技術基本計画」を発表し、人を主役として、あらゆるモノがネットにつながるIoT、AI、ビッグデータを活用していくことを打ち出しています。これら三つのテクノロジーは、互いに連携することで大きな効果を発揮するものであり、国のバックアップをベースにしたこれら技術の活用に注目が集まっています。

さらに、国土交通省では「i-Construction」と称し、建設現場の生産性を2025年までに20%増加させることを目標として掲げています。これは、測量・設計・施工・検査・維持管理といった建設におけるすべての業務フローにおいてICT技術を導入し工程全体の生産性向上を目指すものですが、ここで言及されているICT技術には、IoT、AI、ビッグデータの活用が含まれているものと捉えることができます。

建設業界でのAI活用7事例

最後に当社事例も含めて、建設業界でのAI活用事例を七つ紹介します。

建設物の制振制御【Laboro.AI】

Laboro.AIでは、大林組との研究開発プロジェクトとして、建設物の制振制御を行うカスタムAIを開発しました。

制振技術とは、建物を揺れから保護するための手法の一つで、建物内に設置したマスダンパーなどの機構を建物が受けた振動状態に合わせて動かすことにより、揺れを相殺する技術です。制振技術の中でも、振動を電子的に検知し、マスダンパーをコンピューター制御によって能動的に動かすAMD(アクティブ制振)という技術にAIを活用したのが今回の事例です。

このカスタムAIには、コンピュータが試行錯誤を経てより良い制御則を探索していく強化学習という手法が用いられ、従来の手法よりも効果的に揺れを抑えることに成功しています。このAIによる制振制御は、建設物の揺れの制御だけでなく、自動車や公共交通機関の揺れの軽減、精密機械の製造時の揺れの軽減などにも応用されることを当社では見込んでいます。

参考:プロジェクト事例『 建設物の制振制御』

インフラ設備の劣化箇所検出【Laboro.AI】

AIの画像認識技術を用いた劣化・損傷箇所の検出は、今ではそれほど珍しくなくなってはきましたが、当社でも取り組みを行なっています。

ある大手インフラ企業では、それまでインフラ設備の劣化箇所の検出を目視で行い、保守へつなげるかどうかの判断も人手によって行われていました。そこで、ディープラーニングによる画像認識技術を用い、画像内から劣化箇所とその内容の判定をコンピュータが行えるようなカスタムAIの開発を実施しています。

参考:プロジェクト事例『インフラ設備の劣化箇所検出』

品質や安全に関する作業リスクをAIで管理

図面製作(CAD)ソフトやAIの開発・販売をするオートデスク社は、建設現場における品質や安全を管理できるAIシステム「Construction IQ」を提供しています。Construction IQは、建設現場の担当者が作業内容を入力することで、遅延が発生しやすい作業や事故・ミスの起きやすい作業、安全性や品質を確保するための項目をAIが表示するシステムです。これにより事故の発生や手戻りなどを防ぐだけでなく、作業後の報告によりAIがさらに学習を重ねられる仕組みになっています。

出典:日経クロステック『「違反常習者」を見逃すな!施工ミスや作業遅れをAIで防ぐ』

建設現場での意思決定支援

竹中工務店では、単純作業を高速化し、浮いた工数を創造的な業務に当ててワークライフバランスをも改善するための三つのAIとして、「リサーチAI」「構造計画AI」「部材設計AI」を開発しています。

このうちリサーチAIは、過去の膨大な設計データを整理し、必要なときに必要なデータを取り出せるようにしたAIです。現在進行中の建設現場で参考にできる事例や設計データなどを簡単に引き出すことができるため、経験の少ない設計者でも有用な情報にすぐさまアクセスできるように構成されています。また、残り二つのAIも人と協働し、人の仕事をより高めるためのシステムとして開発されており、これまでは実現できなかった構造設計フローの実現が目指されています。

出典:日経クロステック『あの超⾼層を⼿掛けた構造設計のエースが開発中、⽵中⼯務店の「使えるAI」』

災害事例を分析し、危険予知

鹿島建設では、建築工事における危険予知を支援するシステムとして「鹿島セーフナビ(K-SAFE)™」を開発しています。これは鹿島建設や厚生労働省が保有する災害事例をAIが学習し、内容や時期に合わせて素早く検索できるようにしたものです。
その日の作業で起こり得る危険を事前に予測し対策する「危険予知活動」は、既に建設現場で行われています。しかし、自由記述された過去事例を担当者がすべて読み込んで予測に反映するのは難しいという課題がありました。
AIの導入により、災害を「起きてしまった」で終わらせず、次の災害によるリスクの低減に活用できるようになっています。

出典:鹿島建設「建設工事の危険予知活動にAIを導入」

建物の外壁タイルの浮きを自動判定

人の手で行うには危険が多く精度にも限界がある作業として、建築物における外壁調査があります。竹中工務店では、これにドローンを活用し、赤外線画像から外壁タイルの浮きを判定する「スマートタイルセイバー」を開発・実用化したとしています。
ドローンが外壁調査の撮影を行うことで、危険な高所での作業がなくなり、仮設足場を組むコストも削減可能。さらに、ドローンで撮影した赤外線画像によりタイル浮きを判定することで、高精度かつ高品質な調査や期間の短縮が実現できるとしています。

出典:竹中工務店「ドローン撮影の赤外線画像から、AIが建物の外壁タイルの浮きを自動判定するシステム「スマートタイルセイバー」を開発し実用化」

工事進捗・資機材を認識し図面に

建築現場の施工管理で大きなコストとなるのが、工事進捗や資機材の所在を図面として記録する作業です。大成建設では、人力で行う作業を360度カメラとAIで代行するシステムを開発したとしています。
このシステムでは、360度カメラで撮影した動画をAIが分析し、工事進捗や資機材の所在を図面に自動で描き起こします。これにより施工管理が大きく効率化され、特に高層ビルなどの大規模な現場では大きな効力を発揮するとしています。

出典:大成建設「工事進捗や資機材の保管状況を図面表示するシステムを開発」

変わる建設、変えるAI

建設業界では、大手建設会社や建築メーカーを中心にAIの研究・開発・運用が次々と進められ、建設DX時代に突入しています。今後、単純作業の高速化や安全性の確保、複雑な構造設計における意思決定支援など、より多くの現場タスクに対するAIの活用が進むにつれ、人材不足をはじめとする業界特有の課題解決に寄与することが期待されます。

Laboro.AIでは、上記事例をはじめ、これまで多くの建設系企業とのプロジェクトを推進しています。AI導入、ビジネス課題解決をご検討の際は、ぜひご相談ください。

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