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Laboro.AIコラム

自動運転だけじゃない。自動車×AIの最先端

2021.4.14公開 2023.2.3更新

概 要

さまざまな業界でAIの活用が進められている中、消費者の生活に密接に関わり、最も期待を集めている活用分野が自動車です。AIシステムを搭載した自動車はすでに市場に登場し、高レベルでの自動運転の実現に向けて各国・各社が開発にしのぎを削っています。しかし自動車業界で見てみると、AIの活用範囲は自動運転だけに留まりません。さまざまに活用される自動車業界でのAI活用の今を、今回はご紹介していきます。

目 次

自動車業界での代表的なAI活用
 ・自動運転での活用
  ・AIによる映像解析
  ・AIによる運転判断
 ・設計・検査フェーズでの活用
  ・ボンネット設計でのAI活用
  ・検査フェーズへのAI活用
 ・自動車販売へのAI活用
AIの基礎知識
 ・AI(人工知能)とは
  ・機械学習(マシンラーニング)
  ・深層学習(ディープラーニング)
・自動運転車は人間が運転するより安全なのか?
・完全自動運転がまだ実現できていない理由
 ・技術面:AIの画像認識技術や判断能力が未熟
 ・法整備面:条約、法律の改正
・自動運転がもたらす良い影響
 ・交通渋滞の軽減
 ・ドライバーの負担の軽減
 ・運送業の人件費削減
自動車×AI、実例8選
 ・潜在ニーズの分析を通じた目的地のAIレコメンド【Laboro.AI】
 ・トヨタの自動運転開発
 ・テスラの自動運転車開発
 ・ナンバープレートの読み取り
 ・車載カメラを使った距離推定
 ・プレス工程での検査効率化
 ・タクシーの需要予測
 ・乗合バスの最適ルート判断
進む、自動車業界でのAI活用

自動車業界での代表的なAI活用

まずは自動車業界での代表的なAI活用例をいくつか紹介します。

自動運転での活用

自動車とAIの活用で真っ先に思いつくのが、この自動運転技術です。自動車の運転をドライバーではなくシステムが行う自動運転は、完全な自動化を目指して、各国・各社がしのぎを削って開発を進めています。

自動運転は、ドライバーとシステムのどちらに運転の負担がかかっているかで、0~5の6段階のレベルに分けられています。

レベル0:
 なんの自動化もなく、ドライバーがすべての操作を担うレベル
レベル1〜2:
 システムがアクセル・ブレーキ・ハンドル操作に介入
レベル3:
 限定的な条件下ですべての運転をシステムが担う
レベル4:
 ドライバーが運転に復帰する体勢を常に取っておく必要性から開放
レベル5:
 ドライバーを必要としない完全な自動運転

現段階でレベル5の自動運転は、技術的にも法整備的にも実現段階にはなく、レベル3と4の実用化が進んでいます。最近では2021年3月にホンダが世界初のレベル3の市販車「レジェンド」を発売したことが話題になりました。レベル4も一部実用化されていて、米アリゾナ州で2018年12月、セーフティドライバーを同乗するかたちで有償の自動運転タクシーサービスが始まり、2019年にはセーフティドライバーが乗車しない完全無人化を達成し、名実ともにレベル4を達成しています。完全な自動運転の実現に向け、確実に進化の道を歩んでいることが伺えます。

出典:東洋経済オンライン「世界初「自動運転レベル3」に見るホンダの本音」
  :自動運転ラボ「自動運転はどこまで進んでいる?(2023年最新版)」

自動運転を実現するためには、以下のような分野のAIが活用されています。

AIによる映像解析

自動運転において重要な要素の一つが、カメラから取得した映像の解析です。ドライバーが道路や標識、信号を見て運転をするのと同様に、AIも映像を認識して運転に反映する技術が用いられます。

映像は、カメラを通して得られた段階では、AIはそこに映っている人やモノを認識しません。輪郭や色を分析し、それぞれの名前をラベリングして映っているものと名前の対応付けをすることで初めて、AIが映像の中に映っているものを認識できるようになります。

AIによる運転判断

映像などからクルマの周囲の状況(環境と言います)を把握できれば、次はどんな運転をするかの判断を行います。AIがすることは基本的にドライバーと同じであり、信号の色や通行人の有無といった環境に合わせて発信や停車、ウインカーを出して右折・左折するなど、適切な運転をします。

環境の中には、交通状況を鑑みた予測も含まれます。ドライバーは常に交通状況を見て一定の予測をしています。例えば、路上駐車をしている車両によって死角があれば、歩行者が飛び出してくるかもしれないと注意します。こうした予測も、特にレベル5の自動運転においてはAIが担うことになります。
人間のドライバーと同じ、あるいはそれを超える判断をするために、瞬時に正確な判断ができるAIの開発が続けられています。

設計・検査フェーズでの活用

「自動車×AI」をテーマにすると自動運転だけが脚光を浴びがちですが、自動車業界におけるAI活用はそれだけではありません。設計や検査でもAI技術が活躍しはじめています。

ボンネット設計でのAI活用

AIは自動車の設計段階でも活用されています。例えば、本田技術研究所では、歩行者の安全を確保するためのボンネットデザインの設計にAIを役立てています。

現状、交通事故による死亡事故は歩行者が被害になるケースが多く、頭をボンネットに強打することが少なくない割合で原因になっています。歩行者への衝撃を最小限にするためにはボンネットを柔らかくすることも考えられますが、一方でボンネットはエンジンを保護する役割も持っています。また、ボンネットに改良を施すということは、緻密な最適化計算に基づいて設計された自動車全体のデザインやスタイル、構造から再設計することになり一筋縄ではいきません。

そこで同社では、全体の構造を勘案した上で最適な形状を予測することを目指したAI、ディープラーニング技術の活用に取り組んでいます。

出典:株式会社IDAJ

検査フェーズへのAI活用

AIの中でも機械学習、ディープラーニングが得意とするジャンルの一つが画像認識です。画像認識技術の進化により、製造業ではAIによる検査システムが次々と開発・導入されています。

自動車の製造においても、良品の画像や不良箇所の画像を学習させることでAIに良品と不良品の判別をさせ、品質検査にかかる時間を短縮し、かつ人の目視確認以上の高い精度で検査作業を行うといった活用例が生まれています。

自動車販売へのAI活用

自動運転や設計・検査だけではなく、自動車販売店でもAIが活用されています。

電通と電通デジタルは、日本語AIの自然対話サービス「Kiku-Hana(キクハナ)」とナビタイムジャパンのカーナビアプリを組み合わせた独自システムを開発。これまで営業スタッフが同乗して行っていた試乗ルート案内や車のセールスポイント紹介などの試乗中の会話を、車載スマホに実装したAIに行わせる取り組みを進めています。

このシステムにより、営業スタッフの省略化はもちろん、試乗に対して抱く心理的ハードルを下げることにつながり、気楽に試乗を楽しめるという効果が見込まれています。また、試乗に関するAIからの質問に対する利用者の回答をデータ化することで、営業スタッフがその後の商談などでその内容を活用するといったシステム構築も目指しています。

(出典:株式会社電通 『電通と電通デジタル、自動車販売店での試乗をより楽しく、自動化・効率化するAI試乗ソリューションを提供開始』

AIの基礎知識

さて、ここでいったん、AIと呼ばれる技術がどのような技術なのかを振り返ってみます。

AI(人工知能)とは

そもそもAIとは、人工知能と訳されることからわかるように、人間の知能を機械に真似させることを目指した技術の総称です。ただしSFの世界のように人間に取って代わるようなAIは空想に近く、現実的には特定の部分的な課題に対して効力を発揮する解決手段としてAIは用いられています。このように特定の目的に合わせて開発されたAIは「弱いAI」や「特化型AI」と呼ばれ、一方、実現されてはいないものの、人間のすべてを置き換えるような万能なAIは「強いAI」「汎用型AI」と呼ばれます。

強いAI、弱いAIについてはこちらもご覧ください。

「強いAI」と「弱いAI」。AIが人間を超えるかが分かる分類

機械学習(マシンラーニング)

AI技術の中でも特に進化が著しい技術領域が、コンピュータ自身が学習を行い、認識・識別・推論などを行う機械学習と呼ばれる分野です。

機械学習は、マシンラーニングという名の通り、これまで人間が細かくパターンを指定しなければ実行できなかったタスクであっても、コンピューターに膨大なデータを学習させ、そのデータの傾向を分析・把握させることで、機械自身にタスクを自動化させることを目指した技術です。

機械学習が特に力を発揮している分野の一つとして、画像認識が挙げられます。例えば、赤リンゴと青リンゴを自動で判別して振り分けるといったタスクから、不良部分を学習して振り分けるといった実用的なタスクなど、さまざまな活用事例が誕生しています。自動運転技術においては、車体に搭載したカメラを通して歩行者や障害物の検知や走行環境の認識などにも、画像認識の技術が用いられています。

深層学習(ディープラーニング)

ディープラーニングは、機械学習に含まれる一技術です。人間の脳にあるニューロンの構造をヒントにつくられたシステムで、機械学習では通常必要となる「特徴量の指定」を人間がしなくとも学習ができる点に特徴があります。

自動車生産現場では、例えば運転者に共通する行動と機器障害との関係性を見つけ出すなど、熟練のエンジニアや設計者でも見いだせないような傾向を発見するといった活用が期待されます。

自動運転車は人間が運転するより安全なのか?

自動運転にまつわるニュースは珍しくなくなりましたが、「自動運転車は人間が運転するクルマより本当に安全なのか」と気になる方は少なくないのではないでしょうか。

世の中全体では、自動運転の技術が発展することで人間のドライバーよりも安全な運転が可能になると考えられています。自動運転技術は、クルマから360度の視界を持ち、休みない稼働が可能、状況の変化に対する反応は一瞬で、さらに車両間でデータをやり取りすることでより高度な安全確保を実現できる可能性を持っています。一方、人間のドライバーには死角があり、疲労などにより注意力が低下することがあり、ヒューマンエラーを完全になくすことはできません。

完全自動運転がまだ実現できていない理由

現在、レベル5のドライバーを必要としない自動運転は部分的には実現できている面もありますが、実用化にはまだまだで、近い将来に実現するという有力な予測も見当たりません。実現には、技術面と法整備面の二つの課題があると言われています。

技術面:AIの画像認識技術や判断能力が未熟

前述の通り、自動運転はレベル4の実用化やレベル5の一部実現が進んでいますが、レベル5の完全な実現は、現在の技術水準では困難と見られているのが一般的です。そのため、レベル5開発を公言する企業は、イーロン・マスク率いるテスラなどに限られています。さらなる技術の発展が期待されています。

法整備面:条約、法律の改正

道路に関するルールは法律、ひいては条約によっても定められているため、自動運転を実現するためには法整備も欠かせません。現状、国際条約のジュネーブ条約では道路の運転においてドライバーの乗車が義務付けられており、日本の法律においても同様です。さらに、運転の主体がドライバーからAIに移るにつれ、事故が起きた際の責任をどうするかという面での法改正も必要となってきます。

先を見据えた法改正をすれば、技術が法規制に阻まれて伸び悩むことを防げるかもしれません。

なお、自動運転技術が発達するにはAI以外にもさまざまなテクノロジーの発展が必要で、そのうちの一つが5G通信の活用です。以下のコラムでは、5Gと自動運転を含め、5Gの普及による影響をご紹介しています。

5Gの普及は、AIに何をもたらすのか

自動運転がもたらす良い影響

自動運転技術が発展し、市場に浸透していくにつれ、道路の安全以外にどのような恩恵が得られるでしょうか。

交通渋滞の軽減

AIによる自動運転が発展することで、交通渋滞が軽減されることが期待されています。まず、交通状況をリアルタイムに取得することで最適なルートを選択できる点が挙げられます。他にも、自動運転で車間距離を一定に保つことで、高速道路の合流や坂道・トンネルにおける走行が安定し、車列が渋滞なく流れることが期待されています。

ドライバーの負担の軽減

レベル4までの自動運転ではドライバーの乗車が必要となりますが、技術が発展するに従いドライバーが担う役割は減っていきます。これにより負担が軽減され、身体障がいなどのハンディキャップがある人でもクルマを利用しやすくなります。一方、配車サービスが充実することでクルマを持たずとも移動が容易になることも期待されています。

運送業の人件費削減

自動運転の技術は、一般のドライバーより先に運送業から浸透していくと見込まれています。自動運転技術が発達すれば、長距離ドライバーの負担の軽減や人件費削減、人口の少ない地域への自動運転路線バスの展開などが期待できます。

自動車×AI、実例8選

最後に当社事例も含めて、実際のAI活用事例をご紹介します。

潜在ニーズの分析を通じた目的地のAIレコメンド【Laboro.AI】

自動車でどこかへ遊びに出掛けるとき、自分で目的地を検索することが必要です。しかし「なんとなくドライブをしたい」と思い立ったときのように行き先がはっきりしない場合、そのニーズを言語化することは難しく、結果として検索することにも限界があります。

Laboro.AIでは、大手自動車メーカーとの研究開発で、AIとの対話を通してユーザーの潜在的なニーズを分析し、その内容から目的地を提案するAIレコメンデーションシステムの開発に取り組みました。観光スポットに関するウェブ上の口コミなどのビッグデータと地図情報などもデータとして活用し、対話のフィードバックを踏まえたレコメンドをします。ユーザー自身も言語化が難しい、潜在ニーズに合わせて目的地の提案をする新たな仕組みを開発中です。

参考:プロジェクト事例 『潜在ニーズ探索によるAIレコメンド』

トヨタの自動運転開発

トヨタ自動車は「自動車をつくる会社からモビリティ・カンパニーにモデルチェンジする」ことを標榜しており、MaaS(Mobility as a Service、移動のサービス化)のプラットフォームをつくることも目標に掲げています。このプラットフォームで自動運転技術を生かしたモデルとして、多目的EV自動運転車であるe-Palette(イーパレット)の開発を進めています。現段階ではレベル4相当の無人走行が可能で、巡回型の自動運転コンビニとしての活用も見込まれています。

出典:自動運転ラボ「トヨタのe-Palette(イーパレット)とは?自動運転EV、東京五輪で事故」

テスラの自動運転車開発

米電気自動車(EV)大手テスラは、自動運転でも想起される企業の一つになりました。2022年12月に、有料オプションサービスであるFSD(Full Self-Driving、和訳すれば「完全自動運転」)のパッケージ販売が北米で累計28万5000台に到達したことを明らかにしました。FSDは「完全」の意味を持ちますが、現時点では人間による監視が必要で、運転支援レベルに留まっています。同社は、自動運転向けのマップデータを使わずに、カメラだけで環境を捉えることで完全な自動運転の実現を目指しています。

出典:自動運転ラボ「テスラの完全自動運転ソフト、売上は累計3,000億円規模か」

ナンバープレートの読み取り

車両のナンバープレートの読み取りにAI技術を活用した事例もあります。ナンバープレート部分を撮影し画像処理を施した上で、文字認識に関する学習をさせたAIに読み取らせ、ナンバー情報を自動的に蓄積します。車両管理の他、違反車両の取り締まりなどへの活用が期待されています。

出典:AICam『画像処理を用いた自動車のナンバープレート(自動車登録番号表)の解析』

車載カメラを使った距離推定

自動運転技術や運転支援システムの実現のためには、周囲との距離測定を行うことが必要になります。二つのカメラを二次元的に組み合わせて距離を推定できることに加え、一つのカメラのみでも距離を推定できるシステムが開発されています。

出典:Car Watch『アルベルト、単眼カメラでも利用できるディープラーニング活用の深度推定(距離推定)エンジン「GTC Japan 2017」で発表』

プレス工程での検査効率化

自動車メーカーのアウディでは、機械学習技術を活用し、プレス加工を行う際に発生する金属板の割れ目や傷などを自動で認識させるなど、工場内の量産体制を整える試みを進めています。プレス工場で加工される部品のすべてをその場で検査できるようにしており、大幅な業務効率化を実現しています。

出典:日経XTECH ACTIVE 『アウディ、プレス工程の品質検査にAIを活用』

タクシーの需要予測

タクシーの需要予測にもAIが活用されています。ベテランドライバーであれば乗客が集まりやすいエリアや時間帯は経験と勘である程度分かるかもしれませんが、新人ドライバーには難しいでしょう。時間帯や天候も考慮し、乗客が集まりやすいエリアを予測し、ドライバーにレコメンドするといった活用例が出てきています。

出典:AIsmily『自動車業界におけるAIの活用事例』

乗合バスの最適ルート判断

大阪メトロと大阪シティバスでは、AIを用いて乗合バスの運行ルートの最適化を行う社会実験を開始しています。ユーザーが利用したい時間と目的地を伝えて予約し、希望が似た利用者を集約、AIを使って最適な運行ルートを算出するというものです。時間や運行ルートが決まっている路線バスと異なり、需要に応じて時間を設定し、目的地まで最短距離で向かう必要がある乗合バスならではの活用例と言えます。実験では、計10台の小型バス(8人乗り)の運転手がAIの指示に従って巡回することとされており、駅や病院、スーパーなどとの行き来での利用が見込まれています。

出典:産経新聞THE SANKEI NEWS『AIが最適ルート判断、乗り合いバス 大阪で社会実験スタート』

進む、自動車業界でのAI活用

自動車業界でのAI技術の活用は自動運転だけでなく、さまざまな分野で進んでおり、その技術も日々進歩しています。私たち生活者にも身近な分野であるからこそ、より現実的なレベルでAIの恩恵が受けられる日もそう遠くはなさそうです。

当社Laboro.AIでは、「すべての産業の新しい姿をつくる」をミッションに掲げ、各産業ごとの課題に合わせたカスタムAIの開発・導入を支援しています。AI導入をご検討の方は、ぜひご相談ください。

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