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Laboro.AIコラム

守れ、農業。AIが描く第一次産業の進化像

公開2021.4.27 更新2023.3.22

概 要

農業は第一次産業の一つであり、他の第一次産業と同様にAIとの相性が良いと言われます。一方、従事者の高齢化や新規就農者の不足などの慢性的な課題もあります。さまざまな分野での活用が進み、新たな市場価値を生み出すテクノロジーとして期待されるAIは、そうした課題を解決できるのでしょうか。農業における課題を見た上で、今まさに進化するAIの農業分野への活用事例を見ていきます。

目 次

農業が抱える課題
 ・農業従事者の平均年齢
 ・新規就農者の不足と低定着率
政府が進めるスマート農業
 ・AIを農業に導入するメリット
 ・作業の大幅な効率化、安全性の向上
 ・品種改良のスピードが大幅に向上
 ・マッチングで新たなビジネスチャンスが生まれる
 ・予測を行えることにより出荷量の調整が可能に
AIを農業に導入する際の課題
AI・IoTが見せる、農業テクノロジーの進化9事例
 ・ドローンを用いた圃場の監視や新人育成
 ・AIライブラリを用いたキュウリの自動選果
 ・AIを活用した水やり技術の習得
 ・トマトの画像物体検出【Laboro.AI事例】
 ・AI搭載 自動収穫ロボット
 ・AI病虫害画像診断システム
 ・稲作でのAI活用
 ・牛の画像解析で病気や発情の予兆を発見
 ・従来難しかった工場でのホウレンソウ量産を実現
人とAIの挑戦は、まだまだ続く

農業が抱える課題

日本の農業では現在、主に以下のような課題があると言われています。根本的な解決には難しい状況ではありますが、AIを活用することにより少しでも改善に近づけるような努力が進められています。

農業従事者の平均年齢

自営の農業従事者の数を表す「農業就業人口」。このうち、農業に従事する割合が特に多い農業者を「基幹的農業従事者」と呼びます。まさに日本の農業を支える中心的な存在ですが、その数は2015年の約175万人から2020年には約136万人という非常に早いペースで減少していることが報告されています。高齢化も言われており、基幹的農業従事者のうち65歳以上が占める割合は、2015年の64.9%から2020年には69.8%に増加しています。

従事者の数が減少しているだけでなく、さらに平均年齢も上がるということは、より若い従事者の減少ペースが深刻であることが見えてきます。

出典:農林水産省『2020年農林業センサス結果の概要(概数値)』

新規就農者の不足と低定着率

農業の若さに直結する新規就農者の数は、2015年には6万5030人でしたが、その後減少傾向をたどっていて、2021年は約5万2290人まで減少しました

一方で、法人運営による農業経営体の数は増加傾向にあります。しかし個人・法人問わず、やはり農業従事者の数は足りておらず、新たな担い手の確保が業界全体の課題となっていることは間違いありません。

さらに課題となっているのが、新規就農者の定着率の低さです。総務省「農業労働力の確保に関する行政評価・監視-新規就農の促進対策を中心として-」によれば、全国にある都道府県農業会議のうち18の団体を対象に調査したところ、農の雇用事業の研修生の離農率が35.4%若い農業従事者を確保することだけでなく、それらの方々が安心して農業を営み、充実した生活を送っていけるよう、国や地方自治体、JA(農業協同組合)をはじめとしたさまざまな団体が各種のサポート体制や経済的施策の整備を進めています。

出典:農林水産省「令和3年新規就農者調査結果
  :総務省「農業労働力の確保に関する行政評価・監視-新規就農の促進対策を中心として-

政府が進めるスマート農業

農林水産省では、ここまでで挙げてきたような課題を解決すべく、先端技術を用いた「スマート農業」を推進しています。

スマート農業とは、AIやあらゆるものがネットにつながるIoT、ロボットなどの先端技術を用いて超省力・高品質生産を目指す農業だとしています。AIなどの技術を活用することで、農作業を効率化し、さらに品質も上げていこうという取り組みです。農林水産省では、スマート農業実証プロジェクトの実施、農業データ連携基盤の構築、スマート農業の支援サービスの普及などに努めています。

出典:農林水産省「スマート農業

AIを農業に導入するメリット

AIなどのテクノロジーを農業に導入し、スマート農業を実現することで、どのようなメリットが得られるでしょうか。

作業の大幅な効率化、安全性の向上

スマート農業の実際の例として、ドローン(小型無人機)を用いた農薬散布が挙げられます。AIによって必要な農薬の量などを分析することで、農薬散布を過不足なく効率良く行えるようになると期待できます。農薬は人間に必要な作物を効率良く安定的に栽培するために有用なものですが、農薬そのものは医薬用外毒物または医薬用害劇物、危険物でもあり、取り扱いに注意を要します。AIによって取り扱いの効率化ができれば、作業の安全性が増すことも見込めます。

出典:福井県農林水産部地域農業課「農場の一般衛生管理ガイド 農薬安全使用ガイド

品種改良のスピードが大幅に向上

作物の品種改良は、交配と選抜を繰り返したのち、実際の圃場で栽培試験を重ねるという工程を経て成されます。そのため新品種に至るまでには、10年程度の時間と労力と、作物によっては試験のための広い圃場が必要とされてきました。ここにAIを活用すれば、時間を大幅に短縮できる可能性があります。

例えばイネでは、ゲノム情報(個体の性質や形を決定づける遺伝子の総体)を用いた品種改良が取り組まれてきましたが、データが膨大かつ複雑で実現には限界がありました。そこで、蓄積してきたイネの性質や形に関するデータを整理・デジタル化し、新たに解析・取得したゲノムデータを追加してデータベース化し、ゲノムデータだけでイネの収量や品質を高い精度で予測できる「ゲノム選抜AI」が構築されました。

出典:食品産業新聞社ニュースWEB「イネの「ゲノム選抜AI」を構築、品種改良の加速化に期待/農研機構

マッチングで新たなビジネスチャンスが生まれる

農業に関わる事業者のマッチングをAIがうまく実施できれば、さまざまな効率化や新たなビジネスチャンスが生まれるかもしれません。例えば、日本の農業関連の物流では、各農家が自ら農産物を集荷場や卸売市場に持ち込んだり、農業法人各社が大消費地への輸送を個別に手配したりしているなど、効率が良いとは言えず、改善の余地があります。

住友商事が実証実験をしたCLOWは、農家や農業法人と物流会社のマッチングサービスで、農作物の出荷や輸送をしたい農家および農業法人と、輸送スペースを有効活用したい物流会社をマッチングしました。出荷者と物流会社の情報はクラウドで一括集約・管理し、AIが最適ルートを選定する仕組みです。自家用トラックで運ばざるをえなかった農家には物流の新たな外注手段、個別に物流を手配していた農業法人には共同配送による安価な物流システム、そして物流会社にはそれらが新たなビジネスチャンスになる可能性があります。

出典:LIGARE「農家と物流会社をAIでマッチング 住友商事がサービス実証開始

予測を行えることにより出荷量の調整が可能に

AIは大量のデータの中からパターンを見いだし、そのパターンごとの最適解を出すことも得意です。例えば、過去の出荷量や天候、相場などのデータを分析することにより、需要予測を立てた上で、今最適と思われる出荷量を提案することができます。人力では膨大な時間がかかったり、難易度が高すぎたりする予測を任せることで、出荷計画を立てられたり、予測に使っていた人的リソースを他に割り当てたりもできる可能性があります。

AIを農業に導入する際の課題

AIなどを活用したスマート農業には大きな有用性が期待できますが、一方で導入・普及には多くの課題があります。

一つは、導入コストが多大なことにあります。スマート農業はまだ普及しているとは言えず、農家が新たにシステムを導入するにはコストがかかりすぎる現状があります。農林水産省が推進しているドローンや自動走行農機などの先端技術を搭載した機械のシェアリングやリースなどの増加が、普及の鍵となるかもしれません。

また、最新の技術を扱える農家が少ないという現状もあります。うまく導入することで効率化ができるとしても、それまでに必要な時間的・精神的なコストが大きく、人材の育成が急務だと言われています。

AI・IoTが見せる、農業テクノロジーの進化9事例

残念ながら、産業全体の人口が減るといったこうした大きな課題には、どれだけ新しく優れたテクノロジーであっても、それを導入するだけで根本的な解決につながることはありません。しかしながら、AIやIoT技術を保有するさまざまなプレイヤーが国の一次産業である農業を支援するために一役買おうと、多くのソリューションの開発を進めています。

ドローンを用いた圃場の監視や新人育成

ベンチャー企業と米農家とが組んで進められたスマート米栽培の取組みでは、人間の目の代わりとしてドローンを活用する試みが進められています。ドローンが圃場上空を飛び、農作物の状態を監視することで、これまで人の経験や勘に頼らざるを得なかった作業を機械に代替させるプロジェクトです。

この取り組みで今後の成果が特に期待されているのが、農薬散布の場所やタイミングに関わる領域です。米の栽培には害虫駆除のための農薬散布が欠かせませんが、田んぼが広くなればなるほど、人の目で害虫の発生を監視することが難しくなります。一斉に農薬散布を行えば作業的には簡単ではあるものの、環境保全や衛生面の観点から懸念があります。そこでドローンを活用し、圃場を俯瞰的に監視、害虫が発生した際に素早く発見して農薬を散布するべき場所を特定することが可能になります。人の目による監視の手間が大きく省けるだけでなく、農薬の散布量も最小限で済み、害虫の被害も抑える効果が期待されています。

ドローンの活用は、新規就農者の育成にもその効果が期待されています。ベテランの農業従事者であれば豊富な経験により効率良く農作業を進めることができますが、それを新規就農者にノウハウとして伝えるには難しい面があります。一方、客観的なデータに基づいて動作するドローンであれば、新規就農者にも理由が分かりやすく、視覚的・客観的にそのノウハウを伝授することが可能になってきます。

出典:SMART AGRI『「スマート米栽培」を初めて実施した農家に聞くAI×ドローンのメリット』

※画像はイメージであり、実際の写真ではありません。

AIライブラリを用いたキュウリの自動選果

農業のあらゆる作業の中でも、多くの時間を要しベテランの知見が必要となるのが収穫や選果です。その難易度は農作物にもよりますが、収穫・選果は、高齢の農業従事者にとっては負担が大きく、また新規就農者にとっては難しく、技術伝承や人材確保を妨げる要因の一つだとも考えられます。

選果の難しい農作物の一つがキュウリです。キュウリは品質や傷の具合などで九つの等級に選別する必要があり、この作業をAIで行おうという試みが進められています。この農家では、元システムエンジニアとして持っているスキルを生かし、Googleが公開しているAIライブラリ「Tensor Flow」を用いて選別機を開発しています。等級ごとのキュウリの画像を計1万枚、ディープラーニングで学習させ、機械によるキュウリの選別をベテランの域にまで引き上げることが目指されています。

出典:SMART AGRI『農家がグーグルのAIエンジン「Tensor Flow」でキュウリの自動選果を実現』

※画像はイメージであり、実際の写真ではありません。

AIを活用した水やり技術の習得

トマトは、水やりが難しい農作物の一つです。水を少なくして過酷な環境に置くことで甘く美味しくなる一方、少なすぎると枯れてしまうため、給液(水やり)の量とタイミングはまさにベテランの技と言えます。

AIとIoTを組み合わせたシステムで給液のタイミングを学習しようというこの取り組みでは、トマト農家のベテラン農業者が葉のしおれ具合を見て給液のタイミングを判断しているところに着目。葉の状態を撮影し、ディープラーニング技術を活用してしおれ具合を特定するための技術を開発しています。

出典:科学技術振興機構『多様な環境に自律順応できる水分ストレス高精度予測基盤技術の確立』

トマトの画像物体検出【Laboro.AI事例】

Laboro.AIも微力ながら、AIを用いた農業分野での取り組みを支援させていただくべく、トマトの画像検出用データセット「Laboro Tomato」を作成・公開しています。

Laboro Tomatoは、トマトそのものの検出に加え、成熟度判定に利用できる画像データセットです。インスタンスセグメンテーションと呼ばれる高度なAI物体検出技術での利用を想定しており、成熟度を元にした収穫予測、自動収穫、劣化したトマトの間引き、特定の成熟期のトマト群への農薬散布、成熟具合に応じた温度調整、収穫したトマトの品質管理などのシステムへの利用を見込んでいます。

参考:トマト画像物体検出データセット『Laboro Tomato』を公開

AI搭載 自動収穫ロボット

移動、探索、収穫という一連の収穫作業を自動で行うことができるロボット「ihano」は、画像認識技術を用いて作物の選定を自動で行い、医療用ロボットアームをカスタマイズした手を用いて収穫作業を行います。1回2時間の充電で最大10時間連続駆動ができ、アプリによる遠隔操作も可能なため、収穫作業の負担を大きく減少させることが期待されています。

出典:ロボスタ『自動野菜収穫ロボットが日本の農業の課題を解決!inahoが3種の実証事業・補助金プロジェクトに採択』

AI病虫害画像診断システム

農作物の病気や害虫の予防は、農作業の中でも重要な対策ポイントですが、高齢化による熟練者の減少や高度な専門性を必要とする側面があり、知識や技術の継承が難しいとされていました。

農業・食品産業技術総合研究機構と法政大学、ノーザンシステムサービスが共同して開発した「AI病虫害画像判別WAGRI-API」は、農業関係のデータが蓄積されたプラットフォーム「WAGRI」を基盤としており、ユーザーが送った現場の病害画像を、大量の病害画像を学習させた画像AIが自動診断するというシステムです。

経験の浅い新規就農者の育成はもちろん、これまで病害が発生していなかった地域でありながら、温暖化などの環境変化によって初めて病害虫が発生した際の対策を迅速にできるようにすることが期待されています。

出典:SMART AGRI『高精度のAI病虫害画像診断システムが「WAGRI」で提供開始』

※画像はイメージであり、実際の写真ではありません。

稲作でのAI活用

稲作でもAIの活用が進んでおり、効率化や品質向上、人員不足対策に貢献しています。田植え作業の機械化はすでに実現していますが、従来の耕作機は人が押して歩いたり、機械に乗ったりして操作する必要がありました。「無人田植え機GO安曇野」は、衛星利用測位システム(GPS)を使用しており、水田の位置や広さを登録するとAIが苗の間隔や量などを自動計算し、田植えを行います。

そのほか、スマートフォンなどのカメラで撮影した田んぼの画像をAIが自動で判断し、肥料を与える適切な時期を提案「水稲AI生育診断ソリューション」なども登場しています。

出典:中日新聞『AIが自動計算、無人田植え機GO 安曇野、若手農家ら実演』株式会社NTTデータCSS『ソリューション&プロダクト 水稲AI画像解析ソリューション』

牛の画像解析で病気や発情の予兆を発見

NTTコミュニケーションズは北海道各地でドローンや地域限定の高速通信規格「ローカル5G」などを駆使し、スマート農業の可能性を探っています。

2021年から訓子府(くんねっぷ)町でホクレン農業協同組合連合会(札幌市)などと組み、高精細カメラで牛1頭ごとの健康を管理する取り組みを23年3月末までの予定で続けています。牛舎内に設置した4Kや3Dカメラで撮った画像をAIが解析し、牛のひづめに生じる病気や発情の予兆を早期発見します。

出典:日本経済新聞「NTTコミュニケーションズ、北海道で磨くスマート農業

従来難しかった工場でのホウレンソウ量産を実現

菱電商事などは、静岡県沼津市でAIを活用してホウレンソウを製造する植物工場を本格稼働させました。工場内の環境をAIで常時制御するシステムを導入し、工場生産が進むレタスに比べ生産が難しいホウレンソウの量産を可能にしています。
具体的には、工場の内部に温度や湿度を測るセンサーを大量に組み込み、環境の違いによる生育状況の変化をリアルタイムで観測しています。集めたデータをAIが分析し、最適な栽培条件を自動生成します。

出典: 日本経済新聞「ホウレンソウ工場、静岡で新興など AI使って環境制御

人とAIの挑戦は、まだまだ続く

前述のような産業全体の課題を、わずか一つのテクノロジーが解決するようなことは現実的ではありません。AIが効果をもたらす領域は部分的であり、その市場もまだまだ小さく、現段階で広く農業者に使ってもらえるようなパッケージ商品も出回っていないのが現状です。

ですが、部分的ではあるものの、AIを搭載したさまざまなソリューションやサービスが確かに開発され、少しずつ人を補うようなケースが生まれてきています。農業従事者の目線に立ち、いかにAIというテクノロジーを用い、農業という産業を守っていくか、人とAIの挑戦はこれからも続いていきます。

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