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Laboro.AIコラム

EC需要の裏側に。物流危機を救う、AIのチカラ

2021.4.30

概 要

2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、消費者の購買スタイルは大きく変化しました。ECサイトを使った買い物の割合が増加し、伴って物流業界が担う役割もますます重要になってきています。

ですが、物流業界には人手不足をはじめとした課題が横たわっていることも事実です。そこで、その解決方法として期待されているテクノロジーが、AIです。今回のコラムでは、物流の現状や課題、物流にAIを導入するメリットや導入事例をご紹介していきます。

目 次

物流業界の現状と課題
 ・EC市場の拡大と、物流需要の増加
 ・物流業界の課題
  ・運び手の人材不足
  ・過酷な労働環境
物流対策の今後
 ・物流設備の大型化
 ・物流システムの一元化
 ・AIの活用
AI導入で物流にもたらされるメリット
 ・倉庫管理業務のコスト削減
 ・運送ルートの最適化
物流×AI 活用5事例
 ・物流・倉庫での集品作業の効率化AI
 ・作業編成へのAI導入
 ・不在配送問題の解消に向けたAI活用
 ・荷物の領域推定AI
 ・バーコード以外からの商品情報の読み取り
AIが物流危機を救う

物流業界の現状と課題

近年のモバイル端末の普及や新型コロナウイルスの影響を背景に、とくに一般のコンシューマ市場においては、ECによる買い物割合が急増しており、伴って物流の役割がさらに重要性を増してきています。そこで、まずは電子商取引の割合を表す「EC化率」の推移を確認していきましょう。

EC市場の拡大と、物流需要の増加

スマートフォンをはじめとするモバイル端末の普及率は国民全体の80%を超え、実店舗へ行かずインターネットを経由したECによる買い物の近年急増する傾向にあります。

経済産業省が発表している「電子商取引実態調査」によれば、2019年のBtoC市場での物販系のEC化率は(リアル販売も含めた商取引全体のうちEC取引が占める割合)は6.76%と、実はそれほど大きな割合を占めているわけではありません。しかし、そのEC市場規模は19兆3,609億円、前年比で7.65%もの増加ペースで伸長しており、購買スタイルとして定着が進んでいることが窺い知れます。

一方で、業種別のEC化率を見てみると、生活家電で32.75%、事務用品・文房具で41.75%とEC化率が高い商品カテゴリーもある一方、食品・飲料・酒類が2.89%、化粧品・医薬品は6.00%、衣服・服飾雑貨では13.78%と、とくに試着や試食、品定めなど、実体験に基づく購買が重視されるカテゴリーではEC化率は本来的には高くないなど、商品特性に応じてバラツキがあり、全ての商品でEC化が進んでいると言うわけではなさそうです。

とはいえ、物流在庫として長期保管も可能な家電や文房具といった商品群においては、今後ますますECをベースとした買い物スタイルが一般的になっていくことが予想されます。

出典:総務省「情報通信白書 令和2年版」経済産業省「令和元年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)」

物流業界の課題

こうした背景もあり、物流に対する市場需要が高まる傾向にある一方、物流業界は大きな課題に直面しています。

運び手の人材不足

日本の人口は2008年から減少に転じ、少子高齢化も背景に国内の生産人口は減少の一途をたどっています。どの業種でも人材不足が叫ばれるようになりましたが、物流業界も例外ではなく、その根幹を担うトラックドライバーの不足が課題になっています。

トラックドライバーの高齢化も懸念されており、全産業で見た場合の就業者の平均年齢42.9歳と比較すると、中型・小型トラックのドライバーは45.9歳、大型トラックのドライバーでは48.6歳と、比較的高めであることが報告されています。さらに、担い手不足も深刻化しており、29歳以下の就業者の割合を見てみると、全産業の16.6%に対し、道路貨物運送業では10.2%となっており、若い働き手の確保が難しい現状にあることが見えてきます。

過酷な労働環境

人材不足、担い手確保の難しさの背景として考えられるのが、労働環境の過酷さで、トラックドライバーの年間労働時間は、中小型・大型トラックともに2,600時間にもなることが報告されています。この数字は、全産業の平均2,124時間と比較すると、2割以上も多くの時間に業務に従事していることになります。その反面、年間所得額は全産業の1割ほど低い金額だとされています。今後、多くの需要が見込まれる物流業界ではありますが、実際の運び手の方々のこうした厳しい状況を改善しなければ、現場をさらに苦しい状況へと追い込んでしまうことにもつながり兼ねません。

出典:総務省「情報通信白書 令和2年版」
出典:トラック運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト「統計からみるトラック運転者の仕事」

物流対策の今後

制度問題なども関わる人材不足のような慢性的な業界課題を短期的に解決することはそう簡単ではありませんが、業界全体としては次のような改善策が考えられます。

物流設備の大型化

商品在庫を保管しておくための倉庫や一時預かりのための管理センターなどを含む物流設備は、近年、ますます大型化してきています。集荷箇所をできるだけ一極化させることで、流通の効率化はもちろんのこと、ドライバーの運行距離が短くなり、労働時間の短縮へとつながることが期待されます。

物流システムの一元化

同様に、主に輸送、保管、荷役、包装、流通加工という5つの工程で構成される物流システムを一元化することも重要な対策の一つです。それぞれが独立して管理されることによって発生する無駄をなくし、例えば倉庫管理、配送ルートの最適化、荷物のトラッキングなどがさらに進めば、トラックドライバーの負担軽減にもつながっていくはずです。

AIの活用

IT技術がデジタルとの相性が良いとされる一方で、物流業界のような物理現場との相性が良いとされている技術が、AIです。これまでテクノロジーが入りにくかった物理現場で、画像認識、自然言語処理、音声認識といったさまざまなAI技術の活用が期待されています。

AI導入で物流にもたらされるメリット

現時点のAI技術用いて、物流業界にもたらされるメリットは大きく2つ考えられます。

倉庫管理業務のコスト削減

物流全体のコストはドライバーの収入にも当然影響するため、コスト削減は重要な取組みの一つです。とくに物流でコストがかかる領域の一つが、倉庫管理です。入庫時点で運ばれてくる荷物を目視で確認し、貼付されたラベルをリーダーで読み取り、倉庫管理システムに入力していくという作業は、人による膨大な工数がかかるだけでなく、ヒューマンエラーの問題も懸念されます。

そこで近年導入が進んでいるのが、AIの画像認識技術を活用した入庫管理です。一定のルールに応じた分類タスクはAIが得意とする領域であるため、入庫商品を自動識別し、所定の保管先に分類するといったシステム構築も取り組まれています。

運送ルートの最適化

トラックドライバーの長労働時間の要因の一つが、荷待ち時間や載積効率だと言われています。時間指定配達サービスが普及する一方で、いまだ不在配送(再配達)は全体の2割程度に上ります。また、1台のトラックに積まれる荷物は荷台の4割程度、6割の積載量は使い切れていないといった報告もあります。

こうした運送効率化の対策の一つとして、運送ルートの算出をAIで行う取り組みが進められています。大量のデータから最適解を見つけ出すことを得意とする機械学習技術を活用し、荷物の配送先の割り当て、配送の順番、配送先と次の配送先までの経路、配送先の在宅時間・営業時間、ドライバーの人数・工数などを考慮した最適なルートを提案するといった試みです。

物流×AI 導入5事例

物流業界で実際にAIを導入し、一定の効果を発揮している事例を最後にご紹介します。

物流・倉庫での集品作業の効率化AI

日立物流では、倉庫管理の中でも多くのコストを必要とする集品作業を効率化するためAIを活用し、作業時間を平均8%削減させることに成功しています。

このケースでは、膨大な過去の集品作業の結果を入力データとし、作業効率を落としている要因を抽出、その分析を行った上で、効率の良い作業指示書を作成します。現場はその作業指示書に従って集品作業を行い、さらにフィードバックを返して、翌日にはその内容を踏まえたさらに効率化された作業指示書が作成されるというプロセスが繰り返される仕組みになっています。

出典:日立製作所「【導入事例】物流:事例:Hitachi AI Technology/業務改革サービス」

作業編成へのAI導入

倉庫からピッキングを行うための作業バッチの編成を作業員ではなくAIが行うことにより、ピッキング業務の効率化を実現したのがNECです。

作業バッチの編成は出荷のオーダーによって編成方法が変わってくるため、属人化しやすい作業だと言われています。しかし、AIによってベテランの編成方法を学習することで、ベテランと同等の作業バッチの編成が行えるようになったといいます。作業の属人化を防ぎ、さらにはピッキング効率を上げることが実現されています。

出典:NEC「物流におけるAI・IoT活用」

(*画像はイメージであり、実際の写真ではありません。)

不在配送問題の解消に向けたAI活用

上でもご紹介の通り、個人向け配送における不在配送は全宅配件数のおよそ2割を占め、走行距離の25%が再配送のために費やされています。これは年間9万人の労働力に相当、約1.8億時間が1年間の不在配送に費やされているという資産もあります。

佐川急便株式会社と株式会社日本データサイエンス研究所などは、この不在配送の減少をAI活用により解消する研究を進めています。具体的には、個人宅の電力データの稼働を専用のスマートメーターで受信して在宅か不在かを予測し、そのデータをもとにAIが効率的な配送ルートを示すというシステムの運用です。

不在配送問題の解消は、ドライバー不足や労働者の負担軽減に加え、CO2排出量の減少など、多くの問題の解決につながる重要な取組みの一つです。

出典:国土交通省「宅配の再配達の発生による社会的損失の試算について」LNEWS「佐川急便/電力データで在宅予測、不在配達率20%改善に成功」

荷物の領域推定AI

TOSHIBAは、不規則に積み重なった荷物を通常のカメラで撮影した画像から、個々の荷物の領域を高精度に推定できるAIを開発。この領域推定AIを、自動荷下ろしロボットなどの物流ロボットに搭載することで、荷下ろしやピッキング作業を正確かつ効率的に行うことに成功してます。

荷下ろしやピッキング作業の自動化を考える場合、従来、荷物の領域特定に3次元センサーを使用する手法がありましたが、センサー導入自体のコストと事前学習用のデータ収集の負担が高いという課題がありました。通常のカメラ画像をもちいるこのアプローチであれば、大幅なコスト削減につながります。

2020年に行われた実証実験では、推定精度を従来方式から45%改善するという、世界トップレベルの性能を達成しています。

出典:TOSHIBA 「通常のカメラの画像から個々の荷物の領域を世界最高精度で推定するAIを開発」

(*画像はイメージであり、実際の写真ではありません。)

バーコード以外からの商品情報の読み取り

荷物の商品ラベルに記載されている文字情報とバーコードを同時に読み取れるAI技術を開発したというのが、こちらの例です。その読み取り精度は、活字の場合95%以上で、読み取った情報をそのままデータベースなどに登録することも可能になっています。

商品の入出庫時の在庫登録業務や検品業務など、これまで目視確認に頼っていた情報のチェックを自動化し、管理・登録業務を大幅に削減することが見込まれます。

出典:ECのミカタ「Automagiがスマホで撮影してバーコードと文字情報を一括登録できる新技術を開発」

AIが物流危機から救い出す

その需要が伸びる一方、物流業界は運び手に関わる大きな課題を抱えています。物流現場をより快適な環境へと変革させ、ドライバーの負担を軽減する、あるいは新たな担い手の確保へとつなげていくことが急務になっています。今回は、物流業務に直接関係する部分のAI活用を中心にご紹介してきましたが、自動運転をはじめ、あらゆる周辺領域がこのAIという可能性あるテクノロジーを活用し、業界構造の新しい姿をつくって行かなければなりません。

「すべての産業の新たな姿をつくる」、これをミッションに掲げるLaboro.AIでは、まさにこうした業界全体に関わる課題の解決を、AI技術を用いてご支援させていただいています。

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