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Laboro.AIコラム

線路は続く、未来へと。鉄道業界のAI活用

2021.9.5

概 要

一見、IT技術やデジタル技術との関わりが薄いと思われがちな鉄道業界ですが、実は、人々の行動履歴をはじめとしたデータの宝庫であることが言われてます。近年、鉄道利用者の安全性・利便性の向上やマーケティング利用、抜本的なコスト削減など、膨大なビッグデータをベースとしたAI活用がさまざまな形で進められています。今回のコラムでは、鉄道業界におけるAI活用方法や事例をご紹介していきます。

目 次

鉄道業界はデータ&AI活用のパラダイス
AIは鉄道業界の課題をどう解決するか
 ・運用最適化によるコスト削減
 ・快適性・乗車体験の向上
鉄道業界でのAI活用方法
 ・故障予知・予兆検知
 ・指令業務オペレーション支援
 ・ホーム転落事故防止
 ・駅構内でのチャットボット活用
 ・強化学習AIによる制振制御
鉄道AIのイノベーションは、生活者の未来へと続く

鉄道業界はデータ&AI活用のパラダイス

一般乗客の目に見える形で実現している鉄道×AIの技術というとまだ思いつくものは少ないかもしれませんが、鉄道にはAIの活用に欠かせないビッグデータが多く存在しています。鉄道ダイヤや時刻表、運行・運転パターン、人流、混雑状況、駅チカ・駅ナカでのショッピング情報、SUICA(JR東日本)といった鉄道系ICカードの利用情報などなど、もちろんそれらをいかにして取得・解析していくかという壁が大きいものではありますが、こうした多種多様なデータが“鉄道”あるいは“駅”という一つの空間に集約されており、こうした「データパラダイス」は決して多いものではありません。

次の項目から詳しく解説しますが、AIは鉄道業界にあるさまざまな課題を解決できると期待されており、すでに大きな成果を見せている事例もあります。また、AIを活用することでこれまでなかったような輸送サービスを開発することも期待されるほか、AI技術が発達することで近い将来、鉄道の風景が大きく変わることもあるかもしれません。

出典:NISSENデジタルハブ「AI化した鉄道は、より安全に、より速くなる」

AIは鉄道業界の課題をどう解決するか

AIは、鉄道業界のどのような課題を、どのように解決していくのでしょうか。

運用最適化によるコスト削減

インバウンド需要などにより、鉄道業界の市場規模は2011年以降、増加傾向にあると言われています。一方で、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大の影響や国内の人口減少を背景に、輸送するそもそもの人数が減ることによる市場規模の縮小が懸念されており、結果として、現在稼働している運行・車両に関わるコストが鉄道経営を圧迫することも予想されます。

JR九州で模索されているのが、AIや量子コンピュータなどの先進技術を用いて各種運用の最適化を推進し、最低限の維持コストで鉄道を運行しようという取り組みです。従来、ダイヤの作成や車両編成などの業務は、車両組み換えのタイミング、清掃やメンテナンスの手間、路線や車両ごとに異なる場所の条件などを踏まえ、ベテランの経験と勘によって行われていました。この作業をAIなどの技術で代替することにより、車両の保有台数を減らす、あるいは将来の設備投資を抑えるなど、抜本的なコスト削減が目指されています。

出典:業界動向SEARCH.COM「鉄道業界」
出典:LIGARE「JR九州、量子コンピュータ・AI活用で鉄道車両の運用最適化を検証」

快適性・乗車体験の向上

これまでも車両内の快適性を追求するため、多くの新車両の開発が行われてきましたが、通勤時間の混雑具合や夏の蒸し暑さなど、快適に過ごせるとは言えない状況が完全には無くなったとは言えません。

JR東海が2021年より順次従来車両から置き換えていくと発表している新型通勤型電車315系は、「優しく安心感のある快適な移動空間」をコンセプトに、高い天井などによる開放感のあるインテリア、全編成に導入される車椅子対応トイレ、1両ごとに5台ずつ設置された防犯カメラなど、さまざまな革新が図られた新型車両です。さらに、AIを活用した画期的機能が、自動学習・制御最適化による冷房システムです。315系では、サーバー上にあるAIとの通信を行い、車両内の状況に合わせた冷房制御をAIに任せることで、現行車両の1つである211系と比べると、3倍以上の冷房性能アップにつながるとしています。

出典:レスポンス「電車の冷房はAIが制御…JR東海の新通勤型315系 優しさと安心感のインテリア」

鉄道業界でのAI活用方法

ここからは、鉄道業界での具体的なAI活用方法を事例を交えて見ていきます。

故障予知・予兆検知

「故障予知」「故障予測」「予兆検知」など、さまざまな言われ方がされますが、事前に故障を予測し、その予兆を検知することを目的としたAI活用は、人命を預かる鉄道業界では最も期待が集まるところです。

例えば鉄道では、車両や信号設備の故障が重大な事故につながるため、事故が起きた際の検知ではなく、その予兆を検知することが重要になります。NECが考える「故障予兆検知ソリューション」は、AIを用いて故障の予兆を検知するシステムであり、鉄道業界向けに実用化が目指されています。一般的に、AIの学習に必要なデータを収集しようとする際、事故や故障が発生することは稀で、教師データを収集することに難しさ伴うことが少なくありません。NECの研究報告では、正常運転の状態をAIに学習させ、それ以外のパターンを異常として検知する「インバリアント分析」を活用したシステム開発が想定されています。

出典:NEC Value Chain Innovation特集「AI・IoTを活用した鉄道業務変革(鉄道DX)」

指令業務オペレーション支援

鉄道の指令業務でもAIの活用が進められています。上と同じくNECが構想しているものが、輸送障害が発生した際に行われるダイヤの引き直し等のオペレーションを、AIに行わせるようにするシステムです。

輸送障害時のオペレーションはさまざまな要因を考慮してベテランが指示するため、同じ運用がされることは基本的になく、機械学習を主としたAIに学習させることは難しいとされていました。NECではシミュレータを使って輸送障害のさまざまなケースを擬似データとして作成し、これらを学習データとして用いることでAIに最適なダイヤ提案ができるよう研究開発を進めています。

出典:NEC Value Chain Innovation特集「AI・IoTを活用した鉄道業務変革(鉄道DX)」

ホーム転落事故防止

JR九州で実運用されているのが、AIによるホーム転落事故防止システムです。JR九州では駅員によるホームの監視ができない無人駅にカメラを設置し、画像系AIシステムによりホームに落ちそうになった人の動きが検知されるとアラームを駅構内に鳴らし警告する仕組みを導入しています。
このシステムでは、例えばホームに向かってフラフラと歩くといった転落者に特有の動きのみを学習することで、単にホームの端へ近づこうとしただけの人との違いも区別できるとのことです。

出典:NISSENデジタルハブ「AI化した鉄道は、より安全に、より速くなる」

駅構内でのチャットボット活用

AIによる簡単な受け答えや質問への回答ができるチャットボットはWebサイトでの導入が活発ですが、鉄道業界では駅構内に導入している事例が多く見られるようになっておきました。

一部の主要駅に導入されているAIを搭載したデジタルサイネージでは、駅員の代わりに利用客からの質問を受け、切符の買い方や乗換案内、駅構内の案内などを利用客に伝えるといったことが可能になっています。こうしたAIチャットボットシステムの活用により、質問対応に追われる駅員の負担軽減になる他、必要に応じて画像なども用いた視覚的な案内ができる、さらには、学習に用いるコーパス(言語データセット)に限界はあるものの、多国語にも対応できるというメリットも考えられます。

出典:COGNIGY「鉄道×AI – 駅構内の案内や鉄道でのAIチャットボット活用」

強化学習AIによる制振制御

こちらは当社が大林組様と行ったプロジェクト事例です。建物を地震から守るシステムにはさまざまなタイプがありますが、その一つとして建物の揺れを抑えるための機構であるマスダンパーの動きをコンピュータ制御する「AMD(アクティブ制振)」という手法があります。Laboro.AIでは、揺れの発生・抑制を計るためのシミュレータを構築した上、強化学習というAIの学習手法を用いて、このAMDの動きをより賢く動くよう制御することに成功しました。

このプロジェクトは基本的には建設物を想定し進められたものですが、この技術を鉄道にも応用することで、列車走行時の揺れをAIが制御し、快適性を向上するといった発展も考えられます。

こちらの事例について詳しくは、以下のページをご覧ください。
Laboro.AI プロジェクト事例:建設物の制振制御

鉄道AIのイノベーションは、生活者の未来へと続く

今回はご紹介していませんが、上記以外にもRFIDセンサーを活用した列車内の密度や混雑状況の感知、画像技術を用いた駅構内の人流の解析、鉄道系ICカードに記録された移動履歴の分析など、私たちのさまざまな行動データを活かす取り組みが鉄道業界では模索されています。

日々の通勤・通学など移動時間を支える鉄道は、私たちの生活にとって非常に密接な存在です。まだ生活を大きく変えるような爆発的なイノベーションは登場していないかもしれませんが、AIを軸とした多種多様なデータ活用に基づく先進的な研究開発が数多く進められており、「鉄道」あるいは「駅」、さらには「移動」という概念そのものが大きく変わる未来も遠くはないのかもしれません。

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