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Laboro.AIコラム

AI×センサーで見通せ。「故障予知」から始まる未来

2022.6.7

概 要

製造業では、製造される製品に表れる異常を発見することだけでなく、それらを製造している機械そのものの故障を未然に防ぎ、ダウンタイムを削減することが重要な課題の一つになります。故障を予防するために定期的なメンテナンスを行うことはもちろん大切ですが、近年、AIを用いて適切なタイミングで故障予知を行うことを目指した取組みが増えてきています。今回のコラムでは、AIによる「故障予知」についてご紹介していきます。

目 次

製造現場での保全の種類
 ・予知保全
 ・予防保全
 ・事後保全
AIを用いた故障予知のアプローチ
 ・「教師あり学習」アプローチの故障予知
 ・「教師なし学習」アプローチの故障予知
故障予知の事例
 ・太陽光発電での故障予知
 ・機器の異常検知と原因判定
 ・ドローン×センサーによる故障予知
 ・故障時のトラブル対処
 ・故障予知、それは次の世界への第一歩

製造現場での保全の種類

製造現場での重要取組事項としては、製造ラインの保全、つまり機械・設備を“保護して安全を守ること”を通して、生産計画を滞りなく達成することですが、一言で「保全」と言ってもそのタイミングによって複数の種類が存在します。

予知保全

製造装置などが故障する前に、その予兆を検知し、適した保全を行うことを「予知保全」と言います。本コラムのテーマであるAIによる故障予知はこの予知保全の一種で、各種センサーで収集された画像データや時系列データなどをAIで分析することで行われます。予知保全が万全になるにつれて、故障によるダウンタイムを回避したり、部品を適切な時期に交換できたり、作業員の危険をあらかじめ除去したりといった対応が可能になってきます。

予防保全

製造ラインを常時監視する予知保全に対し、決められた時期に点検・メンテナンスを行うのが「予防保全」です。文字面は似ていますが、保全を行うタイミングが大きく異なり、予防保全は一般的には決められた時期に点検を行い、製造ラインの寿命を伸ばし、重大事故を予防することが目指されます。スケジューリングしやすく効率良く保全を行えるという点が予防保全の特徴です。

事後保全

予知保全や予防保全と違い、故障が起きた後に保全を行うものが「事後保全」です。どれだけ素早く故障を検知できるか、そして復帰までの時間をどれだけ短くできるかがポイントとなります。近年では、製造装置の何かしらのトラブルによって比較的短い時間ラインが停止してしまう、いわゆる「チョコ停」を早期発見するための監視AIの活用も多くも見られるようになってきました。

AIを用いた故障予知のアプローチ

ここからは、話を故障予知に絞り、AIの学習手法の違いから2つのアプローチをご紹介していきます。

「教師あり学習」アプローチの故障予知

例えば製造機械の故障を予知する場合、故障の前兆として現れる現象が一定であれば、基準値を設定して、その閾値を超えた際にアラートを発するといった基準値ベースの検知が可能かもしれません。ですが、実際の製造現場では、必ずしもその前兆が一定ではなく、ベテランの匠の目でしか判断できないようなケースも存在します。

現在のAI技術で主として用いられる機械学習という技術は、AIに大量のデータを入力させることでその特徴パターンを認識させ、次に与えられる未知のデータが学習したパターンとどの程度類似しているのか(していないのか)を推論することを得意とします。そのため、基準値を数値で示すことが難しいケースや、“なんとなく”の見た目や聞いた感じでしかわからない直感的な判断が求められるケースでAIは効果を発揮しやすいとも言われています。

そして、AIにデータのパターンを認識・予測させるための学習手法は、大きく「教師あり学習」と「教師なし学習」に分けられます。教師あり学習は、正解となるタグ(ラベル)を付与したデータを学習させ、その特徴やパターンを習得させる手法です。撮像の環境が一定であることなどの条件が伴いますが、大量かつ整理されたデータがあるほど、正常と異常の境界をより正確に判断できる可能性が高っていきます。

「教師なし学習」アプローチの故障予知

正解ラベルが付与されていないデータを用いる、あるいは正解となるデータを十分に集めることが難しい場合に用いられる学習手法の一つが、教師なし学習です。あらかじめ正解をラベル付けして学習を施す教師あり学習と違い、教師なし学習は、ある一定の特徴や基準に基づいてデータ群を分類・クラスタリングすることを目的に用いられる学習手法です。

近年、故障予知の領域においても教師なし学習を用いたアプローチが増えてきており、と言うのも国内製造業が世界最高峰の品質の高さを誇る裏返しとして、「異常」「故障」に関するサンプルが少なく、正解データの収集が難しいということが背景にあります。そのため、正解データを保有していることが前提となる教師あり学習アプローチが進められないケースが少なくないことから、正常値からどれくらい離れているかを分析することで異常度を判定するための手法として、教師なし学習によるアプローチが期待されているというわけです。

なお、故障予知や異常検知の領域で用いられる教師なし学習の代表的なアルゴリズムとしては、正常データの分布に対して入力されたデータがどれだけ乖離しているかを算出・判定する「Hotteling’s T-square法」や「混合ガウス分布モデル」、異常な状態のデータが少なくても比較的機能しやすい1クラス分類を目的とした「SVDD(Support Vector Data Description)」、データ群に見られる主成分を分析することで正常・異常を判断する「PCA(Principal Component Analysis:主成分分析)」、通常のPCAよりも外れ値の影響を受けにくい「Robust PCA(ロバスト主成分分析)」、いわゆるクラスタリングとして用いられる「k-means法」、ニューラルネットワークの一つ「RNN(Recurrent Neural Network:再帰型ニューラルネットワーク)」と次元圧縮を組み合わせた「再帰型オートエンコーダ」など、データの特性や目標とする精度や処理スピードに応じて様々な方法が用いられています。

参考:Laboro.AIコラム「『教師あり学習』『教師なし学習』とは。文系ビジネスマンのための機械学習

出典:日本機械学会論文集「再帰型オートエンコーダを用いた振動データによる工場設備の故障予測手法の提案」

故障予知の事例

最後に、故障予知AIの活用事例をご紹介します。

太陽光発電での故障予知

金沢市で太陽光発電所を運営するRYOKI ENERGYが開発したのが、太陽光発電所の主要設備であるパワーコンディショナーの故障を予知するシステムです。このシステムではパワーコンディショナーを構成する主要機材に振動や温度などを感知するセンサーを設置した上で、取得されるデータに異常があった場合に通知が届く仕組みなっています。

出典:日本経済新聞「太陽光発電パワコン、AIで故障予知 金沢の菱機工業」

機器の異常検知と原因判定

東芝が開発し、2023年度の実用化が目指されているのが、インフラ機器などに設置されたセンサーから取得されるデータを活用して温度上昇などを検知し、さらにその要因までも提示するという仕組みです。「いつもと違う」という判断だけでなく「なぜ違うか」という判定までも可能にする技術として、今後の実用化が期待されます。

出典:ZDnet「東芝、機器の異常検知と原因判定が可能なAI技術を発表」

ドローン×センサーによる故障予知

太平洋セメントが2022年から本格運用を始めているのが、工場設備の故障予測システムで、ドローンによる設備表面の異常検知に加え、センサーで取得された時系列データを解析することで、故障の予兆をより精度高く見極める仕組みです。セメント製造のプロセスでは、1,400度もの超高温での焼成が伴う非常に設備負荷が大きい工程が含まれていることから、このシステムではドローンによる表面部分のヒビや摩耗の検知に加えて、さらには振動系や温度計などのセンサーを用いることで、より早い段階での故障予知が実現されています。

出典:日経クロステック「セメント製造の心臓部をドローンで監視、最大手の太平洋セメントが故障予測DX」

故障時のトラブル対処

故障そのものを予知・検知するということだけでなく、故障時の対処にAIを活用する取組みも生まれています。有機顔料などを製造販売するDICは、熟練者同等の故障対応を可能にすることを目指した「Prism」というAIシステムを開発しています。Prismは、トラブル発生時に作業員がその事象に関連する文章や単語をタブレットに入力すると、データベースから類似度の高い過去のトラブルや対処方法を提示するというもので、熟練者のトラブル対応ノウハウを若手に継承していくことが目指されています。

出典:日経クロステック「熟練者のようなトラブル対処をAIで実現 類似度順に結果を表示」

故障予知、それは次の世界への第一歩

機械・設備の故障を事前に把握する「故障予知」ですが、実は鍵を握っているのはAIという技術にも増して、センサーあるいはセンシング技術であるということが、上の事例からも見えてきます。AIという技術そのものは入力されたデータを分析する役割に留まるため、とくに製造業や建設業をはじめとする物理的なオフライン環境を伴う業種・業界においては、いかに機械の状態を正確に把握し、それをデータとして取得・変換できるかが、故障の予兆を捉えられるかどうかに直接的に関わってきます。つまり、故障予知という保全分野は、AIだけで実るものでは決してなく、センサーとの共同進化によって発展していく領域だといえます。

近年、「デジタルツイン」や「メタバース」という言葉がよく聞かれるようになってきましたが、現実のリアル空間とサイバー空間が連動するこうした新たな世界の接点となるのが、まさにリアル情報をデジタル情報へと変換するセンシング技術であり、またそれを分析・解析・予測するAIという技術です。単に“故障予知”と聞くと一つの機器や設備に閉じた世界に感じられてしまいますが、この故障予知からはじまるセンサー×AIによる取組みは、実は現実世界をサイバー世界へと転換することへとつながる、大きな始まりの一歩になっているのです。

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