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Laboro.AIコラム

M-1などの「笑ビジネス」もAI活用。他産業への応用の可能性

2022.12.19
株式会社Laboro.AI リードマーケター 熊谷勇一

概 要

2022年はウエストランドが決勝ファーストラウンド3位から逆転優勝を果たしたM-1グランプリ。M-1に代表されるお笑いは今やエンタテイメント業界で大きな分野に成長し、興行や放送、コンテンツビジネスだけでなく、笑うという行為はウェルビーイング(心身の健康や幸福)の観点からも重視されています。その笑いに関連して活用されているAIもあり、その根本にある手法は他の産業でも使われているものばかりです。

目 次

笑いとビジネス、生活の関係は多様
笑いへのAI活用:測定・評価
 ・お笑いを測定・評価
 ・笑いを生み出すボケの生成
 ・ネタの評価
笑いでも他の産業でも、特徴量設定・カスタマイズが重要

笑いとビジネス、生活の関係は多様

笑いへのAI活用の例を見ていく前に、笑いとビジネスの現状を確認しましょう。吉本興業事業概要資料によると、まず挙げられているのがタレントマネジメントです。舞台だけあっても、お笑い芸人などタレントがいなければ興行は成り立ちません。

次に劇場経営で、同社は現在全国で11の劇場を経営し、日々笑いに関する興行が打たれています。同社がそもそも落語などの興行小屋である寄席(よせ)の経営から始まったのを知っている人も少なくないでしょう。2017年下期のNHK「連続テレビ小説」の「わろてんか」はそれをモデルにしていました。

タレントと劇場があれば興行が打てます。最近では「(お笑い)ライブ」と言われることがほとんどです。もちろん、劇場は自前で保有していなくても、他のオーナーが経営する劇場を借りてライブを開催することもできますし、近年ではオンラインだけで開催するライブも出てきています。

最後に、映像(音声)コンテンツ制作があります。ライブとは違い、収録・編集をして作り込んでいきます。伝統的にはラジオやテレビ番組として放送されるかたちだけでしたが、近年ではNETFLIXやAMAZONプライムビデオ、そしてYouTubeといったオンラインのプラットフォームで配信するコンテンツも隆盛しています。さらに、コメディーに分類される映画や漫画などの作品も、広い意味で笑いに関するビジネスと言えます。

参考:経済産業省 大阪・関西万博具体化検討会「吉本興業事業概要資料

笑いはさらに、健康、ひいてはウェルビーイングの面でも注目されています。沢井製薬が運営するウェブサイト「サワイ健康推進課」のページ「“笑い”がもたらす 健康効果」によれば、まず、がん細胞を攻撃するナチュラルキラー細胞が笑いを発端に活性化することが取り上げられています。さらに「脳の働きが活性化」「血行促進」「自律神経のバランスが整う」「筋力アップ」「幸福感と鎮痛作用」という効果も挙げられています。これらによって健康維持・増進だけでなく、それを基にしたウェルビーイングも実現できるかもしれません。

笑いへのAI活用:測定・評価

笑いとビジネス、生活の関係を確認したところで、具体的なAIサービス・活用例を見ていきましょう。

お笑いを測定・評価

お笑い審査支援AI「UKETA(ウケタ)」は、お笑いの場の音声を収録して、通常では分離困難な芸人の話し声と観客の爆笑を高精度に判別し、「爆笑の時間」「爆笑の時間割合」「爆笑・大爆笑の数」「爆笑グラフ」といったお笑い審査に有用な審査指標を提示できるとしています。近年は毎年M-1グランプリ決勝の評価を独自に実施しており、特にアルゴリズムを改良した2020年以降は、実際の審査員による評価の順位との合致率が上がっています。

採用している特徴量は「笑い・拍手の音量」以外は公開されていませんが、笑い声らしい声の高さ(周波数)や拍手のタイミング(例えば登場・退場時の拍手はウケていると言えるとは限らないので除外する)なども採用されているかもしれません。 さらに、特にM-1グランプリを意識すれば、漫才の新奇性も評価されていることが端々で言われていることから、例えばAIに過去の漫才映像を機械学習させると、従来にないレベルの活発な動きや発話量の多さ・少なさ、間の長短といった特徴も客観的に見いだされ、新奇性の評価に役立てられるかもしれません。

参考:笑い採点AI UKETA(ウケタ)

AIで観客の笑い声と拍手を計測するだけでなく、実際に審査までして、しかも人間の審査員はなしで実施しているのが、ABEMA配信の「笑ラウドネスGP」です。2021年の第1回は一つのAIで計測・評価していましたが、2022年の第2回からは笑い声と拍手にそれぞれAIを一つずつ「担当」として付け、それぞれの特徴を集中的に解析する仕組みに変更しました。さらに、「M-1グランプリ」「キングオブコント」「THE W」といったお笑いコンテストでのネタ・笑い・拍手も学習データとし、AIの強化を図りました。

出典:お笑いナタリー「「笑い」と「拍手」分けて解析、M-1やKOCも学習したAIが芸人のネタを採点

AIによるお笑いの評価・測定と聞くと、「それぞれのお笑い芸人が持つえも言われぬ個性やニュアンス、間などの情緒を機械が理解する」といった印象を持ったかもしれません。しかし根底は、縦軸に音量、横軸を時間などとした2次元で特徴量を捉えていくことが中心であり、他の産業でも活用されているAIとあまり変わらないと言えるでしょう。例えば、製造機械の稼働音から故障を予知するケースを考えてみると、基本的には横軸には時間軸を、縦軸には機械の稼働状況を示した2次元データを元に異常な波形箇所を発見するというやり方が考えられ、原理的には同じデータ解析のアプローチになっているというわけです。

笑いを生み出すボケの生成

AIの生成で最近話題なのは画像ですが、お笑いのボケの生成をするAIも登場しています。

2008年に生まれた画像大喜利(写真でひとこと)サイト「ボケて」では、同サイトに蓄積されたボケデータを基に機械学習・AIモデルを学習させてボケの自動生成を競う「ボケて 電笑戦」を開催しました。

「写真でひとこと」なので、まずは画像が用意され、それに対してボケを返すことが求められます。参加社の一つである電通デジタルは、そのために、「画像要約」という技術を使って画像をテキストに置き換える手法が取りました。具体的には、CNN(Convolutional Neural Network、畳み込みニューラルネットワーク)と、RNN(Recurrent Neural Network、再帰型ニューラルネットワーク)というそれぞれディープラーニングの一種を用いています。

同じく参加したストックマーク社は、「画像からボケを生成する」問題は、機械学習の分野のImage Captioningという問題によく似ているので、それを応用して「お笑いモデル」を作れそうだと見いだしました。Image Captioningは、「画像を入力として、その画像内の人物・動物・物体等の振舞いを説明する文章を生成する」という問題です。そしてImage Captioningの手法の一つ「Encoder-Decoderモデル」を採用しました。 これは簡単に言うと、Encoderを使って画像を中間表現(ベクトル)に変換して、変換した中間表現をDecoderで文章に変換するものです。

さらには、ボケだけでなく、教師データにビジネス記事のタイトルという「真面目な文章」も足して「水増し」してボケと組み合わせ、「ちょっとズレた真面目な文章=絶妙なボケ」を生み出すことも狙いました。

また大喜利AIとしては、わたしは社が提供する「LINE版大喜利人工知能」は、AIが生成する「お題」「回答」「ガヤ・ツッコミ」「写真で一言」が楽しめます。 育成機能も搭載しており、毎日出題される「育成お題」で最強のカスタマイズ大喜利AIをユーザーみんなで育成していけるとしています。

出典:ログミーBiz「AIは人を笑わせられるのか? ボケの自動生成を競う、お笑いAIバトルの舞台裏
  :Stockmark Tech Blog「ボケて電笑戦への挑戦〜AIで画像大喜利〜
  :LINE版大喜利人工知能

ネタの評価

ビジネスAIでもおなじみのテキストマイニング(自然言語処理などを用いて大量のテキストデータを解析し、有用な情報を取り出す技術)を一部応用して、文章構成のキーワード抽出を行うソフトウエアの中には、お笑いのネタも分析できるものも登場しています。

東京大学の大澤幸生教授が開発したKeyGraph(キーグラフ)で、文章構成のキーワード抽出が鍵です。あるデータを構成する要素一つひとつの登場頻度、互いのつながりの強さや数を計算し、重要な役割を果たしている要素を分類・抽出します。さらに結果をネットワーク図として視覚化することで、データに潜んでいるアイデアの発見を支援するとしています。

2022年7月に開催された「『M-1グランプリを科学する!』成果報告イベント」では、このKeyGraphが漫才ネタの構造を分析・可視化し、「笑いは文脈によって生まれるもの」という知見を改めて明らかにしました。漫才の魅力には面白い動きもありますが、やはり言葉をどう使うか(「どう使わないか」も含む)を中心とした話芸であることから、こうした技術応用が可能になっていると言えるでしょう。

出典:日本経済新聞「お笑い、学問や教育の場に つかみの効果研究・交流力高める授業
  :構造計画研究所「KeyGraph
  :BIZDRIVE「売れないスルメにも意味がある!チャンス発見学とは

データや業界に壁はない。特徴量設定・カスタマイズが重要

以上のように、笑いに関するAI活用でも、AIが人間の情緒を理解しているわけではなく、何らかの特徴量を設定し、それに基づいて計測・評価するという、さまざまな産業で活用されているAIでありふれた手順が踏まれています。違う言い方をすれば、特徴量の設定がまず重要であり、設定をするのは最終的には人間です。人間によるカスタマイズとも言えるでしょう。

特徴量は人間が設定すべきといっても、勘ですれば良いというわけではありません。最終的に得たい出力結果をにらみながら、最適なデータから、最適な特徴量を設定する必要があります。そのためには産業・企業側とAI側、両方の知見を持った上で、何度もやり取りすることが欠かせません。ソリューションとしてAIを適切にデザインをしていくことが必要なのです。

Laboro.AIでは、各産業・事業に合わせたAIを開発する「カスタムAI」と、それを実現するための機械学習の産業応用支援を強みとしています。さらに、さまざまな産業での実績があり、それぞれで抽象化した知見を得て、それをまた別の産業に横展開して生かすというサイクルを回しています。あなたの課題を解決できるカスタムAIを開発し、一緒に笑えれば幸いです。

「データに壁はない」「業界に壁はない」をキーワードにした当社のカスタムAIについてはこちらもご覧ください。

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