つなげ。保険、AI、インシュアテック
2021.8.29
概 要
保険業界にAI活用の大きな波が訪れています。例えば、ビッグデータ解析を基にした細かな保険商品の開発や、ユーザーの満足度向上の取り組み、また、保険業務に関わるバックオフィス業務をAIで自動化するなどの活用も広がっています。今回のコラムでは、保険とテクノロジーを組み合わせた「インシュアテック」、とりわけAIの活用についてご紹介します。
目 次
・話題の「インシュアテック」とは
・保険になぜAIが使われるのか
・インシュアテックによって保険業界はどう変わるのか
・1人ひとりにパーソナライズ
・保険契約がより簡単に
・より創造的な仕事に集中
・保険AIが抱えるリスク
・パーソナライズされすぎて比較しにくくなる
・プロセスのブラックボックス化
・「保険×AI」の活用事例
・オンデマンド損保
・最適な保険の提案
・画像アプローチからの手書き文字の読み取り
・AIとビジネスをつなげ、インシュアテック
話題の「インシュアテック」とは
インシュアテックとは、Insurance(保険)とTechnology(技術)をかけ合わせて作られた用語であり、さまざまな最新テクノロジーを駆使し、従来の保険の様式にとらわれず、新しい価値を提供していくことが目指されています。同様の用語としては、金融とテクノロジーを組み合わせた「フィンテック」がよく知られていますが、フィンテックでは、インシュアテックが話題になる前の早い段階からAIなどのテクノロジーの活用が進められてきました。
インシュアテックについては、保健事業へ参入するための規制の強さや、リスクを常に抱えるという不安要素があることによる資金調達の難しさなども手伝って導入が遅れ、テクノロジーの活用が難しい領域であるという認識を持つ方も少なくないはずです。ですが、近年はフィンテックで培われた革新的技術を活用しようという動きも追い風になり、インシュアテック領域でも活況さが見られるようにになってきました。
保険になぜAIが使われるのか
インシュアテックで活用される幅広いITテクノロジーですが、中でも高い期待を寄せられているのがAI技術です。機械学習やその一種であるディープラーニング技術が発達したことにより、AIは、一定の機能に関しては、人間を超える処理能力を発揮するまでになってきています。
例えば、これまではなかったような新しい保険商品・サービスの開発、チャットボットの導入などによる従来サービスの改善、バックオフィス業務の自動化など、あらゆる面での活用が期待されています。
インシュアテックによって保険業界はどう変わるのか
動き出しを見せる保険業界のインシュアテックですが、今後活用が進むことで業界をどのように変化させていくのでしょうか。
1人ひとりにパーソナライズ
これまでの保険商品は、極端に言えば、保険会社が作っている決められたプランからユーザーが希望に一番近いものを選ぶという形でした。これが、例えば、AIによってリスクを正確に予測できるようになる、あるいはユーザーの健康状態のデータを有効に活用できるようになれば、一人ひとりにパーソナライズされた保険商品開発の道が拓かれます。ユーザーの健康状態などによって保険料を変動させるといった展開も期待でき、より自分に合った保険に対して適正価格で加入したいと考えるユーザーにとっては、選択肢が増えることへとつながっていきます。
保険契約がより簡単に
従来の保険契約といえば、窓口に出向くなどでして検討し、担当者と話しながら保険内容を決めるといった流れが一般的でした。近年はネット保険が増えてより気軽に保険に加入できるようになってきています。契約内容の見直しをLINEで行えるような保険も登場しており、契約内容に関する手続きがより簡単に行えるようになってきています。
より創造的な仕事に集中
インシュアテックは、企業のバックオフィス業務の改善にも活用されており、さまざまな業務の効率化や自動化に用いられています。これまで多くの人員を割いていたバックオフィス業務にAIを活用し効率化・自動化が図られれば、人が本当に注力すべき創造的な仕事に取り組めるようになります。
保険業界のバックオフィス業務には、例えば保険料の査定や顧客情報の変更などの保全がありますが、保険料査定にAIを活用して人的要員は削減する、あるいは保全の業務にRPA(ロボディクス・プロセス・オートメーション)などの技術を用いて業務の一部を自動化するなどが考えられます。
保険AIが抱えるリスク
AIを中心としたインシュアテックは、保険業界を良い方向に変える可能性を多く秘めていますが、一方でリスクも抱えています。導入を検討する際は、以下のようなリスクを念頭に置くことも必要です。
パーソナライズされすぎて比較しにくくなる
保険会社に蓄積された個人データや健康に関するデータなどを用いることで、パーソナライズされた保険商品を提供できる可能性がある一方、ユーザーにとってはどうパーソナライズされているのか分かりにくくなる可能性もあります。かえって複数の保険商品との比較が難しくなることも想像され、ユーザーにとって不利益になるリスクも懸念されます。
また、保険商品をパーソナライズするために用いるデータ情報の扱いに関しては、プライバシー保護や情報セキュリティの観点から、より慎重になる必要があることは言うまでもありません。
プロセスのブラックボックス化
AI、とくにディープラーニング技術の利用に際してよく言われることですが、保険料の査定などの意思決定を担わせた場合、その複雑な計算処理からプロセスがブラックボックス化し、「なぜその結果が導き出されたのか」が分からないというリスクが指摘されます。ディープラーニングは大量のデータを学習することを通して、人間でも発見が難しい規則性を抽出するなどのポテンシャルを持っていますが、文字通り何層にも渡る深い計算処理を伴うことから、なぜその結果を出力していたのかを完全には説明できないというデメリットがあります。
極端なケースではありますが、例えば、AIがデータを処理した結果、不当に高い保険料を請求してしまうケースが起こり得ることも否定できません。近年「説明可能なAI(XAI:Explainable AI)」も注目を集めていますが、導入したAIシステムの保守・チューニング・再学習などのメンテナンスを万全に行うことに加えて、その透明性を確保することが今後の課題として挙げられます。
「保険×AI」の活用事例
最後に保険業界でのAI活用の事例を3つご紹介します。
オンデマンド損保
AI技術の発達によって登場したのが、即座に、かつ短期で保険に加入できるオンデマンド損害保険です。オンデマンド損保を提供するサービスとしては、ITベンチャーのWarranteeが手掛ける「Warrantee Now」があります。Warrantee Nowは、あらかじめ所有している家電などの動産を登録しておき、必要なときにスマホから選択して1日単位で損害保険に加入できるというサービスです。例えば、旅行中に使用するデジタルカメラに旅行期間中だけ保険をかけるといった使い方が可能です。
基本的な仕組みはこれまでの動産保険と大きく変わりませんが、Warrantee Nowでは保証書をスマホで撮影することで文字を読み取り、データベース化する技術を導入しており、面倒な手続きや処理なしでリスクの計算および保険料の査定を行うことが可能になっています。
最適な保険の提案
アメリカの保険会社の事例ですが、ユーザーに最適な保険をAIが提案する「Gabi」をご紹介します。 Gabiは、ユーザーが保険を見直したいと思ったときに、オンライン上で相談ができるサービスです。Gabiではビッグデータを用いて学習したAIがユーザーの質問に答え、現在入っている保険と主要な保険会社の保険商品を比較検討し、現時点で最も最適と考えられる商品を提案します。保険の見直し時に、資料を取り寄せたり保険知識を身につけたりする必要性もなくなり、ユーザーとしては気軽に見直しができるようになります。
出典:AIre VOICE「保険業界を変える注目のInsurTech(インシュアテック)スタートアップ6選」
画像アプローチからの手書き文字の読み取り
こちらは当社Laboro.AIのプロジェクト事例です。ある大手生命保険会社では、生命保険の保険料請求の際に行う内容の精査、保険金額の算定、支払い可否の判断に膨大な人員と工数を要していました。これは保険金請求が基本的に紙ベースで行われるという文化が背景にあり、同社では、OCRによって文字をテキスト化しようと試みましたが、十分な結果は得られていませんでした。
そこで、手書き文字をテキスト化するのではなく、画像として認識し、その内容を社内の統一コードに変換するというカスタムAIを開発しました。これにより、必要なデータを高い精度で抽出できるようになり、作業員の工数の削減を実現しています。
この事例について詳しくは、以下のページに掲載しています。
Laboro.AI プロジェクト事例:「画像アプローチからの手書き文字の読み取り」
AIとビジネスをつなげ、インシュアテック
ご紹介してきたように、インシュアテックを活用した保険商品・サービス、導入事例は多数登場しており、スタートアップから中堅企業、大企業まで、さらには国内外で多種多様な取り組みが進められています。
とはいえ、制度や規制にまつわるテクノロジー利用の難しも背景に、そのリスクと導入ハードルは決して低いものではありません。インシュアテック、とくにAIの活用には専門技術をもったAIベンダーと共に進めていくことが主流ですが、単に技術知見を保有しているだけでなく、ことこの保険業界に関しては、業界知見も保有したベンダーと共に取り組んでいくことが重要です。
保険業界でAI活用に課題をお持ちの方は、「テクノロジーとビジネスを、つなぐ。」をミッションに掲げ、AI知見に加えてビジネス知見の蓄積にも強みを持つ当社に、ぜひご相談ください。