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Laboro.AIコラム

AIベンダー選定術。生涯ともに、障害を乗り越える

2022.1.24
株式会社Laboro.AI マーケティング・ディレクター 和田 崇

概 要

業務効率化や業務改善に向けて、あるいは新商品開発や新サービス開発のために新たな技術を導入してビジネス活用することは、どの時代であっても行われてきました。テクノロジーのタイプによっては自社での内製化を見越して導入を進られることもありますが、近年その導入が盛んになっているAIは専門的な知識・スキルが必要なケースが多く、AIベンダーの協力を得て導入を進めていくのが一般的です。このコラムでは、AIベンダーにはどのような種類があるのか、AIベンダーはどう選べば良いのかについて考えていきます。

目 次

AIベンダーとは
AIベンダーの種類
 ・パッケージAI/プロダクトAIベンダー
 ・受託開発AIベンダー
 ・カスタムAIベンダー
 ・AIコンサルティング
 ・研究開発AIベンダー
AIベンダー選定のポイント
 ・AI活用のゴールを常に共有できる
 ・社内システムとの連携が可能
 ・十分なキャッチアップをし、経験もある
 ・「できます!」と言い切るベンダーは疑う
 ・サポート体制が充実している
生涯パートナーのように苦労が共にできるベンダーを

AIベンダーとは

もともと「ベンダー(vendor)」という言葉は「ユーザー(user)」の対になる言葉で、販売業者や提供者を意味します。AIベンダーとは、AIの販売・提供者、つまりAIモデルやAIシステムの開発を事業とする企業のことで、開発だけでなく導入のためのコンサルティングや保守運用サービスなども含めてAIベンダーの対応範囲とするのが一般的です。

AIは、2010年代に機械学習技術のうちのディープラーニングが開花して以降、各産業分野への導入が活発に進められているテクノロジーの一つです。コンピュータに特定のデータを入力し、その特徴を学習させて認識・予測の結果を出力させる機械学習は、これまでのIT技術では至ることのできなかったビジネス成果を創出できるインパクトを秘めていることから積極的な導入・活用が目指される一方で、その技術的な新規性と専門性から内製化が難しく、スペシャリティを持つ外部のAIベンダーに相談・委託して開発を進めるやり方が主流になっています。

AIベンダーの種類

「AIベンダー」と一口に言っても、対応技術や得意分野、提供形態などに応じて様々なタイプがあり、AIの導入目的によって相談すべきAIベンダーも変わってきます。

パッケージAI/プロダクトAIベンダー

まず挙げられるのが、SaaSのような形である程度において汎用化されたパッケージ製品やプロダクトを提供するタイプのAIベンダーです。このタイプのAIベンダーは、すでに開発されたAIプロダクトをライセンス発行し、例えば月額料金を回収するような形でソリューション販売を行っています。チャットボットやOCR(光学式文字読み取り)サービス、RPAのほか、最近ではカメラ画像を用いた入退システムなども登場しています。

パッケージAIやプロダクトAIは、大掛かりな開発が伴わないことから比較的導入が楽で、導入コストも安価であることが一般的です。ですが既製品であるが故、仕様が固定されている上、その範囲は多企業に共通するビジネス課題への対応に限定されることになります。つまり、世間一般で同様に課題とされるボトルネックの解決には効果を発揮するものの、企業固有のビジネス課題を解決することには限界があるケースが少なくありません。

もう少しわかりやすく言うと、経理処理や文書整理など広くマニュアル化できるルーチン寄りの業務に対してはこれらパッケージAIの活用可能性が見込まれますが、企業の差別化や競争優位に関わる、あるいはその企業唯一の本業に関わるコア業務に用いるAIとしては、その特性からして理にかなったものにはなり得ないということが言えます。

受託開発AIベンダー

スーツで言えば既製品スーツを販売するようなタイプが上のパッケージAI/プロダクトAIベンダーであり、オーダーメイドでスーツを仕立てるようなタイプがこちらの受託開発AIベンダーです。受託開発ベンダーとは、クライアントから相談・依頼を受け、システムやソフトウェアの技術開発を担うベンダーを指します。AIにおいても同様で、受託開発AIベンダーは主にAIモデルやAIアルゴリズムをはじめとしたAI部分に特化した専門的な開発を行います。

AI開発の流れとしては大きく、

①構想フェーズ:ビジネス課題の整理や費用対効果(ROI)指標を検討し、開発すべきAIシステムの構想を練る
②PoCフェーズ:その構想システムが技術的に実現可能かを実験的に検証する
③実装フェーズ:実際のビジネス環境への導入を前提にした開発・テストを行う
④運用フェーズ:導入後の保守・運用や再学習を行う

に分けられます。AI導入プロジェクトは、通常、クライアント企業内で社内チームを作ってプロジェクトを進行していくことになりますが、受託開発AIベンダーはここに外部パートナーとして関わっていきます。ベンダーによっては③の実装フェーズのみに関わる企業もありますが、全フェーズに参加できるベンダーの方が成果を出しやすいと考えられます。というのも、上記の通り、AIシステムの導入に当たってはPoCと呼ばれる実験開発を繰り返し、その精度を少しずつ高めていく試行錯誤が欠かせません。つまり、ビジネス環境や導入目的などを含めたプロジェクト全体をベンダー側もしっかりと理解していなければ、達成すべき精度指標の定義や開発すべきAIシステムの設計が的外れなものになり、無意味なPoCを繰り返してしまうことになるからです。

なお、比較的パッケージ化されたモジュールを用いて開発する形態は「パッケージ開発」、ゼロに近い状態からAIを開発していく形態は「スクラッチ開発」と呼ばれます。スクラッチ開発の方がやはり技術的な難易度が高くなりつつも、オーダーメイド感が強くなるわけですが、一方でなんでもかんでもスクラッチ開発をすれば良いというわけでもありません。AI開発で用いられるアルゴリズムやシステムの多くはオープンソースとして学術的に公開されていることがほとんどで、こうしたリソースをうまく活用しながら開発コストを下げ、開発期間も短くする工夫がポイントになるため、パッケージ開発する部分とスクラッチ開発する部分を見定めながら、全体のシステム設計を進めていくことが重要になります。

カスタムAIベンダー

当社Laboro.AIもクライアントからの相談・依頼を受けてAI開発を行う受託開発AIベンダーのひとつですが、当社では、単なる受託開発として位置づけるのではなく、『カスタムAI』という名称を付けて事業を展開しています。

カスタムAIの特徴としては、画像認識、自然言語処理、音声認識、強化学習など、現在のAIの根幹を担う機械学習の技術分野に広く対応していることが挙げられます。受託開発AIベンダーの中には、例えば画像専門に展開する企業なども少なくなく、一方でカスタムAIの場合には、その対応技術範囲の広さが特徴になることから、画像と自然言語処理の組合わせのように複数領域のデータや技術を活用したマルチモーダルなソリューション開発も視野に入ることになります。

さらに当社のカスタムAIの特徴として挙げられるのが『ソリューションデザイン』というプロセスです。ソリューションデザインとは、単なるツールとしてのAI開発に注力するのではなく、ビジネス成果につながるソリューションとしてAIを設計・開発するためのノウハウでもあり、わかりやすく言うと上の①〜④のプロセス全てをビジネス的な観点から実施するものです。場合によってはAIだけでなく、ビジネス側の運用やオペレーションを再設計することも行うため、通常の受託開発AIと比べると、戦略的なAI活用に向けた取り組みがソリューションデザインであり、カスタムAIだと言うことができます。

カスタムAI、ソリューションデザインについては、以下のページをご覧ください。
カスタムAI開発
ソリューションデザイン

AIコンサルティング

ベンダーという定義からは少し外れてきますが、AIの開発部分の多くを外部委託し、導入に向けたコンサルティングサービスを中心に提供する企業も多く存在します。大手としては、BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)やアクセンチュアなど、外資系コンサルティングファームが、AIコンサルティングの領域でも活躍しています。

これら企業は、AIやデータを活用したビジネス戦略の検討に不足がある場合などには力強いパートナーとなり得る一方で、コンサルティング企業内に開発部門がない、あるいはあったとしても技術的に十分でないケースも少なくなく、上の受託開発AIベンダーに開発部分を委託するケースも多いようです。この場合に往々にして起こるのが、複数の業者が連なることによる開発目的・内容の伝言ゲーム化や、責任所在の不明瞭化です。AIという新規性・専門性・不確実性の高い技術システムを導入・活用するにあたっては、各種の情報が散在化することを避けるために、できる限り1ベンダーに依頼先を集約するか、あるいはPMO(Project Management Officer)と呼ばれる全企業・全プロジェクトを管理・統括する役割を持った人材を配置するなどの体制構築が不可欠です。

研究開発AIベンダー

AI/機械学習という技術領域は、現在でもアカデミア(学術界)を中心に日進月歩で技術が進化しています。こうした技術進歩に向けたAI技術の研究開発に取り組むベンダーも存在します。研究・教育機関との産学提携や、企業のR&D案件を請け負うケースが多く、応用的なビジネス活用よりも基礎的な研究に注力し、次の時代のAI技術の基盤を担っています。

AIベンダー選定のポイント

これまで見てきたようにAIベンダーにはさまざまなタイプが存在し、その対応領域や提供形態が大きく異なるため、良し悪しではなく、自社での導入目的や投資コストなどによって相談先のベンダーが変わってきます。とはいえ、AIベンダーを選定する際に共通して留意すべき点も考えられ、最後にそのポイントをご紹介していきます。

AI活用のゴールを常に共有できる

AIベンダーを選ぶポイントとして特に重要なのが、AIを導入することで何を達成したいのかというゴールを同じ目線で検討・議論し、共有できることです。そういったベンダーを選ぶことで、途中でプロジェクトが脱線することなく、PoCの失敗もリカバリーでき、最初に掲げた目標の達成へ確実に近づけるはずです。

一方、最終ゴールを確認することなく、ベンダーが提供しているAIシステムやサンプルデータを押し付けてくるような場合は要注意で、こうしたベンダーはパートナー企業のゴール達成ではなく、自社の利益を第一にしていると考えられます。また、良いAIベンダーであれば、課題の解決に必要な手段はAIだけではないと知っているため、AIに限らず他の技術の活用も視野に入れたアドバイスやサポート提供してくれるはずです。

社内システムとの連携が可能

とくにパッケージAI/プロダクトAIの導入を検討する際においては、既存の社内システムとの連携可能性に気を配る必要があります。場合によっては高い導入効果が期待できるAIですが、単独のシステムとして導入するケースよりも、既存の社内システムとの相互連携が前提になるケースが多く見られます。新しくAIシステムを導入することによって、返って全体システムが複雑化することがないか、あるいは業務オペレーション上に支障が出ないかなどに注意することが必要です。こうしたシステムや業務といった全体設計に渡るまでフォローしてくれるAIベンダーほど価値あるパートナーだと考えられます。

十分なキャッチアップをし、経験もある

上でも少し触れたように、AI開発で用いられる技術の多くはアカデミアを中心にオープンソースとして公開されています。そのため、とくに受託開発AIやカスタムAIベンダーを選定する際に言えることとして、AIベンダーによってどのような技術を持っているかという観点よりも、アカデミアの情報をちゃんとキャッチアップしているかどうか、そして、それらの技術の取扱い能力あるかどうかという観点が重要になります。つまり、技術を「持っているか」ということよりも、「知っているか」と「使えるか」が、良いAIベンダー選定のポイントになります。

次々と新しい技術や理論が登場するAI/機械学習の世界では、新しいAIモデルやアルゴリズムを初めて用いるケースは決して珍しくありません。しっかりとアカデミア情報をキャッチアップしながら技術・業界ともに幅広い領域での導入経験をもつAIベンダーほど、この点については安心感があると考えらます。

「できます!」と言い切るベンダーは疑う

「アジャイル開発」とも言われますが、AI、とくに機械学習という技術は、従来のITシステムのように予め決められたプログラムに基づいて情報処理するタイプのテクノロジーとは違い、未知のデータを入力して予測結果を出力する技術であるため、導入前に目指す出力結果が得られるかどうかがわからない、「やってみないとわからない」という特性と常に隣り合わせにあるタイプの技術です。

そのため、導入前あるいはPoC前に「絶対にできます!」と言い切るベンダーはかなり怪しんだ方が良いということになります。「こういう設定をすればできるのではないか」という仮説を立て、それに向かって試行錯誤を共にできるベンダーとの協働がベストだと言えます。

サポート体制が充実している

最後に、​AIに限らず言えることですが、AIベンダーにAI導入や開発を相談する際は、サポート体制についてもよく確認が必要です。AIは新規性のある専門的な分野であるため、トラブル時に柔軟に対応してくれるかどうかは重要なポイントです。また、AI開発で用いられる機械学習という技術の特性上、導入後も新規のデータを再学習させてAIモデルのアップデートを図ることが必要なケースが多く想定されます。「導入して終わり」とはならないAIベンダーを見定めることが大切です。

生涯パートナーのように苦労が共にできるベンダーを

近年、AI導入に着手する企業が増加する一方で、PoCに失敗する「PoC死」のケースも増加傾向にあります。こうした背景には、上記に触れたような良いAIベンダーを選定できているかどうかが、少なからず関係しているようにも感じます。PoCの失敗とは、つまり導入前の実験段階でプロジェクトが終了してしまった、何かしらの理由で途中で諦めてしまったことを意味します。技術的な限界だとすれば仕方ない一方で、ビジネス的に意味のないものを作ってしまった、業務オペレーションに落とし込むことができなかった、評価すべき精度指標が誤っていたなどのケースも少なくなく、こうしたケースを見ると要件定義、課題の整理、ロードマップ策定など、事前の検討をしっかりと行なっていれば回避できたもののようにも顧みられます。

“やってみないとわからない”がどうしてもつきまとうAI導入・活用にあたっては、試行錯誤が必ず伴います。生涯のパートナーを探すことにも似ていますが、AIベンダーの選定においても、目的を共有し、導入にあたってさまざまに現れる障害を共に乗り越えていく気の合うパートナーを探すという視点が何より重要です。

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