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Laboro.AIコラム

大人に告ぐ、子供向けAI開発の今。「子どもによる、子どものためのAI」

2022.2.12
監 修
株式会社Laboro.AI マーケティングディレクター 和田 崇

概 要

スマートフォン、スマートスピーカー、スマートテレビ…。これらに囲まれて育つ子どもたちの世界では、AIとの接触がもはや避けられなくなっています。大人と子どもではAIとの向き合い方がまるで異なり、子どもたちにはAIが人であるかのように感じられ、親に聞けないことも問いかけ、AIが自分の話を聞いてくれていると理解します。

ところが、現在子どもたちの身近にあるAIは、大人の世界のルールや常識を前提としてとして発展してきたものです。子どもにとっての初めての友達がAIになるかもしれないこれからの時代、子どもたちにとって、AIはどうあって欲しいものなのでしょうか。今回のコラムでは、AIと子どもの関係に着目し、「子どものためのAI」について考えていきたいと思います。

目 次

世代は「AIネイティブ」へ
 ・音声認識AIはスクリーンタイムの悩みを解消するか
 ・真逆のアプローチで生まれた「子ども裁判所」
 ・大人のデータによる、大人のためのAI
AIから正解はもらえなくてもいい
 ・子どもは疑り深い生きもの
 ・知能の発達には順序がある。「絵の描けない子どもたち」
AIと大人、AIと子ども
 ・子どものためのAIは、一からつくる
 ・子どものデータによる、子どものためのAI
子どもにとっての理想のパートナーは、やっぱり『ドラえもん』

世代は「AIネイティブ」へ

音声認識AIはスクリーンタイムの悩みを解消するか

「アレクサ、ドラえもんのうたをながして」

といった具合に、幼い子どもたちがAI搭載のデバイスに向かって気軽に話しかける姿を目にする光景も当たり前になりつつあります。AIと自然に交流する「AIネイティブ」を目の当たりにし、時代が変わったと感じた人も少なくないのではないでしょうか。

子どもが言葉より先に画面をスワイプすることを覚えると言われるようになってから世代は移り、今の子どもたちの日常にはAIアシスタントが急速に溶け込んでいます。中でも、急ピッチで導入が進んでいる音声アシスタントは、2020年の時点で音声認識AIが使用されたデバイスは48億ユニットを数え、2024年にはその数が84億に達すると見込まれています。

世界人口をも上回る数ですが、立ち止まって考えてみれば“一人一台スマートフォン”の今の時代、眠っている音声AIも含めて搭載デバイスを複数所有する家庭は少なくなさそうであることを踏まえると、例えば2年後には、よりカジュアルにAIと話している現実があっても不自然ではありません。

こうした音声AIが子どものいる家庭になじみやすいのには実のところ、子どもたちの“見る”サービスへの対抗馬として、音声AIが好意的に考えられているところがあります。

新型コロナウイルスの拡大以降、私たちは1日のほとんどの時間を家で過ごすようになり、スマートフォンやパソコン、タブレットなど、常にデジタルスクリーンがオンになっているような環境に身を置いています。

そんな折、国立成育医療研究センターは「コロナ × こども本部」を設置し、0歳から高校生の子どもを持つ保護者に、子どもたちのスクリーンタイムに関するアンケート調査を定期的に行なってきました。2020年の9月10月に実施された調査では、スクリーンタイムが「1時間〜2時間」もしくは「2時間以上」増えたと回答した割合が、全体の4割に上ったという結果も報告されています。

子どものスクリーンタイムは1日2時間以下と推奨される中で、“スクリーンフリー”な音声認識AIが現状に歯止めをかけ、さらに子どもの成長を助けるアシスタントになるかもしれないと期待を寄せられているのです。

真逆のアプローチで生まれた『子ども裁判所』

子どもを意識することで、これまでにないインタラクティブな音声認識AIの活用法も生まれています。2018年に募集されたAmazon公式スキルコンテスト「Alexa Skills Challenge: Kids」部門では、13歳以下の子どもを対象にしたさまざまなアイデアが集まりました。

グランプリを受賞した『Kids Court(子ども裁判所)』は、Alexaが裁判官となって子どもたちのリアルな喧嘩を仲裁するシステムです。「静粛に!」と登場したAI裁判官に向かって「お兄ちゃんがぶった」「おもちゃを壊した」「お菓子をとった」というような被害を子どもが訴えて裁判が始まります。それを受けてAIが「被告人、間違いありませんか?」「証人はいますか?」というような投げかけをしながら原告被告双方の言い分を汲み取り、最終的にはAI裁判官によって判決が下されるようになっているとのことです。

そもそも、開発者であるAdva Levin氏が「Kids Court(子ども裁判所)」を考案したきっかけは、大人と子どもでは音声認識AIに対する向き合い方が全く違ったからだそうです。

「大人たちを観察していたら、指示を出す(例:ミルクを足して)か、質問する(例:今日の天気は?)といったやりとりしかありませんでした」
「一方、子どもたちは小さな箱の中に人がいると思い、友だちのように嬉々として話しかけていました」

そうして出来上がった『Kids Court(子ども裁判所)』はある意味、大人の間で行われているAIと人のやりとりとは真逆のアプローチで、質問をするのがAI、情報を教えるのが人として成り立っています。

大人のデータによる、大人のためのAI

考えてみれば、今子どもの世界に浸透しつつあるAIはほとんど、大人の世界での活用を前提に開発が進められてきたものです。基本的にAIは、猫の画像を大量に覚えさせて猫が判別できるようになるというように、先に「正解はこれだ」ということを教えられて学習します。

その際にAIの開発者である人間が正しいことと正しくないことを判別できるのは、過去に学んだことと照らし合わせながら物事を見るからです。言わばコンピュータのプログラミングのように大人の脳は反復学習を原則として働くわけですが、それとはまるで対照的に幼い子どもは、今の時点での感情のままに物事を見ようとします。

アイスクリーム屋さんに行った先ではチョコ味がいいと言ったのに、家に着いたらバニラ味が良かったと訴える、というように子どもにとっての正しい答えはコロコロと変わりやすく、大人のルールや常識が通用しません。つまり、これまでAIを開発するには一貫性のある正解が不可欠であり、子どもの世界の常識は、AIのアルゴリズムの中には取り入れられて来なかったことになります。

AIから正解はもらえなくてもいい

子どもは疑り深い生きもの

素直なイメージのある幼い子どもたちですが、実は非常に疑り深くものごとを観察しています。幼い子どもを対象にしたハーバード大学の研究では、2歳から5歳の間に子どもが説明を求めて問いを投げかける数は、全部で40,000回に及ぶという結果になったそうです。親しい大人といる子どもは毎分のように問いを投げかけているわけで、コロナ禍で人と話す機会が減って言葉数が落ち込む一方の大人社会とは比べものになりません。

実際、AIと接触した子どもも、この自分を見ている機械が何者なのか、本当に自分が見えているのか、どんな問いにも答えてくれるのか、どこかAIを探るような気持ちでAIに話しかけます。

「あなたは誰?」
「どこにいるの?」
「ぼくの名前知ってる?」

大人が鵜呑みにしていることを子どもは一つ一つチェックしているのです。そしてたとえAIから正しい答えが返ってこなくても、幼い子どもたちはそのエラーや間違いに失望することなく、AIと一緒に考えて答えや着地点を探し、自分の世界でやり遂げようと試みます。

このように、子ども時代は問いを繰り返しながら自分から学んだ経験を積み重ねることが大事であり、むしろ、正解がもらえることを期待しすぎない姿勢を身に付けることが、子どものその後の成長に役立つとみられています。

知能の発達には順序がある。「絵の描けない子どもたち」

好奇心が溢れ出る幼少期、生まれた時には300〜400gしかない子どもの脳。多くのエネルギーが費やされて知能が発達し、5歳の時点で成人の脳(1200〜1500g)の90%に達します。その時期に大人の手によって発達の順序が狂わされたとしたら、子どもたちの知能はどうなってしまうのでしょうか。

例えば、絵は文字よりも先に誕生した人にとって初歩的なコミュニケーションツールですが、昨今未就学児の教育現場では「絵が描けない子」がみられるそうです。星を“☆”と描くように、大人にとってのルールを教えられたり、文字で表すことを教えられたりした場合、子どもは教えられた通りのモチーフを描いたり、文字で書こうとしたりして、絵と呼ぶにはとても貧弱なものを描くようになってしまうといいます。

本来、子どもたちに絵のでき上がりはさほど重要でなく、作品を“見る絵”として捉えることよりも、描くプロセスの方に意味があります。その時々の感情で動く子どもたちは、絵を描いている中で心の赴くままに物語を進め、登場人物を増やしたり、冒険をしたりしながら思いつくものを描いていきます。

そのうち物語のシーンが夜になって、せっかく描いたものが真っ黒に塗りつぶされてでき上がり、という周囲の大人が固まってしまうような描き終わりになったりします。子どもたちの絵は、大人から描き方を教えられたり、あとででき上がりを見てもらったりすることよりも、近くでその物語を聞いてくれる存在が必要な“聞く絵”なのです。

そういう意味でも「それでどうなったの?」と、子どもの世界に寄り添うことができる音声認識AIがあれば、私たちの思う以上に子どもたちの可能性を広げるツールになりうるかもしれません。

AIと大人、AIと子ども

子どものためのAIは、一からつくる

目の前のことにワクワクしていた子ども時代を経て大人になった私たちの毎日の行動は、40%以上が「習慣」に基づいて行われているそうです。この習慣システムは考えずともほぼ自動的に働くものの、もし習慣的なシステムがなくなり、全てを毎回プログラムし続けるとしたら大変な労力を必要とします。

裏を返せば、反復的で自動的な習慣というものが大人の脳になったという証でもあり、AIがより一層、効率をあげる手助けをする場合に、私たち大人は自然とAIを受け入れることができるのでしょう。

例えば、大人の世界では日々、コミュニケーションに予測変換が多用され、ECサイトではレコメンドシステムに導かれて、連絡も買い物も作業がグングンと楽になっています。AIからレコメンドされた本購入し、スマートスピーカーに「読んで」と頼み、それを音声生成AIが音読をしてくれるのを家事をしながら流しておく、そんなAI時代の読書も便利に活用されているのではないでしょうか。

こうした大人のためのAI活用が盛り上がる一方、AIのあり方が見直され始めた子ども向けAIの開発現場では、大人のものを子ども用に調整するやり方ではなく、一から子どもに合ったAIを産み出す動きも見られるようになっています。

子どものデータによる、子どものためのAI

子どもの音声データによる、子どものための音声認識AIを開発したアイルランドの企業は先日、この音声認識AIが声で個人を特定することなく、録音データが販売されたりマーケティングに使われることはないと宣言しました。

読書にしても、子どもとAIが交代で音読をしながら、子どもが読み詰まった時にはAIがサポートし、AIはそうすることで子どもの話し方を学ぶというようにして、子どもとAIそれぞれが成長することを目指してデザインされたものも登場してきています。

子どもにとっての理想のパートナーは、やっぱり 『ドラえもん』

さて、このようにAIが子どもと交流するようになった今も、相変わらず子どもが大好きなのが『ドラえもん』。これまでに登場したひみつ道具は2,000近くに上るそうです。その一つ『オコノミボックス』は、「テレビになあれ」と言うとテレビになるなど、自由自在に音楽プレイヤーになったりカメラになったりもします。

そう、お気づきかもしれませんが、このドラえもんのひみつ道具は音声認識AIが搭載されたスマートフォンに似ています。似ているものが実在する世界にいても子どもがドラえもんを好きなのは、ひみつ道具の機能自体よりも「あんなことできたらいいな」という自由な発想の世界が子どもに合っているからなのでしょう。

子どもとAIを眺めていて感じることは、自分で考えることをしなくていいように導かれるよりも、「こんなことできたらいいな」とアイデアを話せる相手がいる暮らしの方が大人にとっても豊かなのではないかということです。

学ぶことが得意なAIは、日々多くを学んでいる子どもたちのいいパートナーになれそうですが、子どもが自分から学ぼうとする中にどのようなAIを立ち入らせるかは、放っておくと“アルゴられてしまう”(=つい習慣的にAIの恩恵に甘えてしまう)私たち大人の確固たる意思にかかっているのかもしれません。

(監修 株式会社Labro.AI マーケティングディレクター 和田 崇

<参考・引用文献>
・statista ”Number of digital voice assistants in use worldwide from 2019 to 2024 (in billions)
・毎日新聞 「視力低下や肥満にも 長くなる子どもの「スクリーンタイム」どう対処する?
・DEVPOST ”Alexa Skills Challenge: Kids
・amazon alexa ”Announcing the Winners of the Alexa Skills Challenge: Kids
・Pure Wow ”The ‘Kids Court’ Skill on Alexa Resolves Sibling Squabbles So You Don’t Have To
・Medium ”Interview with the creator of Kids Court — a skill that won Alexa Kids Challenge and $25k
・イアン・レズリー著 『子どもは40000回質問する あなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力
・MIT Technology Review ”Podcast: When AI becomes child’s play
・山極寿一著 『スマホを捨てたい子どもたち: 野生に学ぶ「未知の時代」の生き方
・鳥居昭美著 『子どもの絵の見方、育て方
・チャールズ・デュヒック著 『習慣の力
・CNN Business ”Irish tech firm helps kids’ voices be heard
・Tech Crunch ”Amazon introduces Reading Sidekick, a kids reading companion for Alexa, and Voice Profiles for Kids
・藤子・F・不二雄著 『ドラえもん 19

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