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Laboro.AIコラム

AIは革新的アイデアを提案できるか。「ググる」を超える検索の可能性

2023.1.31
株式会社Laboro.AI リードマーケター 熊谷勇一

概 要

ビジネスという競争をしている以上、革新的なアイデアは常に求められ、消費され、陳腐化し、また新しいアイデアが求められる…というサイクルが繰り返されています。そしてそのサイクルは、どの業種や分野でも短くなっているのではないでしょうか。そこでAIを活用して、アイデアやひいてはイノベーションを「検索」する方法は考えられないでしょうか。インターネット検索や生成系モデルを確認しつつ、その可能性を見てみます。

目 次

従来のインターネット検索だけでは革新的アイデアは得られない
ネット検索の技術と歴史
 ・ネット検索の仕組み:検索技術は自然言語処理
 ・単語ベースと文脈ベースの検索の違い
 ・ネット検索の歴史、誕生からBERT登場まで
近年話題の生成を活用した検索の実力は
 ・文脈を理解する検索「BERT」とは
 ・GPT-3とは
 ・生成系AIを利用した検索エンジン例
言葉を超えた意識やニーズの掘り起こしをAIが手伝える可能性
 ・「顕在意識」と「潜在意識」の違い
 ・セレンディピティーで生まれた商品・サービスの例
ソリューションデザイナが「言葉にならない支援」ができる

従来のインターネット検索だけでは革新的アイデアは得られない

一口に「革新的なアイデア」と言っても、歴史上類を見ないものだけでなく、過去存在したが現在では忘れ去られてしまったものをよみがえらせて活用するのも温故知新であり、素晴らしいアイデアです。温故知新とは、古いこと、昔のことを研究して、そこから新しい知識や道理を見つけ出すことです。さらに、アイデアが本当に新しいかどうかを判断するには、過去の事例をよく知っていて、それらと重複がないことを確認しなければなりません。

過去にどんなアイデアがあったかを知れるということで、インターネット検索はアイデア創出に大いに役立ちそうです。現にこれまで多くの人がそうした目的で利用してきたでしょう。しかし注意点もあります。

一つ目は、ネット上にある情報の量は膨大であり、しかもそのうち、事実に則っていなかったり、不正確だったりする情報もまた膨大であることです。よく知らない分野こそ調べたいのに、情報の真偽を判断するのは難しくなっています。

二つ目は、未来のことは分からないということです。天気予報や景気予測のように、過去の膨大なデータや、既に日程が決まっているイベントを基にして、未来の出来事をそれなりの精度で予測するサービスは生まれています。しかし、全く予測されていなかった出来事が起きたり、しかもそれが社会を一変させるほど大きな影響を与えてきたりしたことは、皆さんの経験にもあるはずです。言い換えれば、未来予測は過去のある時点で作成された「過去の情報成果物」であり、それがそのまま「未来の事実」になるわけではありません。

こうした前提を踏まえて、うまく学習させたAIを活用したネット検索を使い、アイデア創出ができないでしょうか。これを確認するために、まずは検索技術そのものから振り返ってみましょう。

ネット検索の技術と歴史

ネット検索の仕組み:検索技術は自然言語処理

ネット検索の技術は、類似文書検索です。類似文書検索は自然言語処理で実現できることであり、自然言語処理はAI技術の一つです。よってネット検索もAIで実現できていることの一つになります。

類似文書検索を一言で言えば、「文章を何らかの方法で数値化し、その数値の類似度をもって検索対象の文書集合の中から検索条件に近い文章を選択する技術」となります。この数値化や類似度計算の仕方で精度や特性、ネット検索で言えば表示されるページやそれらの順番が変わってくることになります。

文章の類似度を算出する処理は基本的に、文章のベクトル(数値)化をした後に、文章ベクトル同士の類似度を算出する流れになります。日本語は英語などと違って単語間に空白を用いないので、ベクトル化の前処理として、形態素解析と呼ばれる処理で単語ごとに分割します。そして各単語が文章ごとに何回出現したかを数え、ベクトルとして各単語に付与するのです。

検索システムに検索用キーワードが入力されると、そのキーワードが多く含まれるウェブページ、あるいはタイトルなど重要な場所に含まれるウェブページがリストの上位に表示されます。また複数のキーワードで検索する場合には、それらのキーワードが含まれるだけでなく、その位置関係が近い物ほどリストの上位に表示されることになります(アルゴリズムが異なればこれらの限りではありません)。

単語ベースと文脈ベースの検索の違い

検索技術は近年、単語ベースから文脈ベースへと大きく変わりました。きっかけとなったのは、Googleが2019年にBERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers、バート)という技術を採用し、文脈を踏まえた検索結果を出すようになってきたことです。導入前のGoogleでは、日本語で形容詞と名詞の形態素解析はできているものの形容詞が名詞を修飾していることを理解していなかったり、英語の検索語群にある前置詞の意味が分からずに主語を取り違えたりすることが起きました。BERT以前の主に単語の登場頻度だけで類似度を計算して結果を出すのが単語ベース検索、BERTに代表される文法なども理解して検索結果を出すのが文脈ベース検索です。

BERTについては具体的に後述します。

ネット検索の歴史、誕生からBERT登場まで

ネット検索の歴史を、検索サイトの誕生から振り返ってみましょう。最初期のインターネット検索サイトは1994年誕生のYahoo!です。後発のGoogleと同じく、米国で始まりました。

Yahoo!の特徴は、サイトをカテゴリ別に分類し整理した一覧を提供することです。このような提供方法は、ディレクトリ方式といいます。サイトを登録する際には、Yahoo!の掲載基準に基づいた審査が行われました。

Yahoo!への掲載は主に推薦や依頼に基づいて行われるのに対して、ウェブページを自動的に収集して、特徴をデータベース化して検索要求に応えるタイプの検索システムが登場しました。この自動的にウェブページを収集するソフトウエアをロボットと呼ぶことがあり、このような検索システムをロボット方式といいます。ロボット方式の草分けは、1994年誕生のInfoseekという検索サイトです。

一方、1995年誕生のAltaVistaという検索サービスは、世界で最初の日本語を含む多言語検索能力を持つ検索サイトでした。すべてのHTMLページのあらゆる単語を高速に検索できるように索引を付けて格納し、ウェブページの全文検索が可能でした。その他、ExciteやLycos、フレッシュアイ、gooなどの検索サービスも出てきました。

Googleは、1996年1月にスタンフォード大学の在学生2人が原型を開発しました。特徴は、ウェブページの価値をバックリンク(そのページに向かってどれくらい外からリンクがあるか)によって評価する方法を提案するものでした。その後しばらくは、適切な収入源が見つからないなどあって普及が進みませんでしたが、2000年10月「アドワーズ」という、索結果連動型広告の手法を応用したサービスを開始。これがGoogleの当初からの特長である検索結果の精度の高さが相乗効果を生み、業績が急拡大していきました。

東邦大学「インターネット検索について」

近年話題の生成を活用した検索の実力は

検索技術は発展をし続け、現在は生成AIを活用したものが話題です。検索という行為が手軽になって久しく、気軽に使ってみる人や、無意識に使っている人が少なくありません。

文脈を理解する検索「BERT」とは

前述の通り、Googleが2019年から導入しているAI技術です。それまでのネット検索は単語ベースでしたが、BERTの登場により文脈ベースに変わりました。その特徴を二つの例とともに見ていきましょう。

一つ目は、英語の検索語群として”parking on a hill with no curb”(縁石のない坂道に駐車)を使った場合です。BERT導入前は”curb” (縁石)の直前の否定の形容詞”no”がどの単語にかかるのかを理解できないため、「縁石のあり・なし」に関係なく、「上り坂と下り坂の駐車方法の違い」を説明するページを上位表示させていました。しかしBERT導入後はまず”no”を”curb” にかかる語として認識し、”no curb”(縁石のない)の意味を理解。その結果、「縁石のあり・なし」の違いによる駐車方法の違いを説明したページを上位表示させます。

二つ目の検索語群も英語で、”2019 brazil traveler to usa need a visa”(2019年、アメリカに行くブラジル旅行者はビザが必要)です。BERT導入前は行き先を示す”to”の文法上の意味や前後のつながりを理解できないため、旅行する主体を米国人にしてしまいました。その結果、米国人がブラジルを旅行する際のビザに関する情報ページを上位表示させました。BERT導入後は”to”の前後関係が理解され、ブラジル人を旅行の主体として認識できました。その結果、米国大使館がブラジル人旅行者向けに提供しているビザ情報ページを上位表示させます。

出典:PLAN-B「Googleが導入したBERTとは?最新の自然言語処理技術”BERT”が与える影響は?」

GPT-3とは

最近、多くの人が競うように活用方法を探索しているのが、GPT-3(ジーピーティースリー)です。2020年7月にOpenAIという研究所が発表した高性能な言語モデルで、同研究所はテスラCEOのイーロン・マスクなどの投資家によって設立されました。OpenAIは、Transformerと呼ばれる深層学習の手法を用いた言語モデルであるGPT(2018年)、GPT-2(2019年)を発表しており、GPT-3はその後継です。2021年10月時点では、マイクロソフトのクラウドサービスAzureからAPI(申請制)を介して利用でき、文章の生成、文章の要約、質問への回答、翻訳などに活用できます。出力される文章は、人間が書いたものと変わりがないと思わせるほど流暢です。

野村総合研究所「GPT-3」

生成系AIを利用した検索エンジン例

新興の検索エンジン・NeevaAIは2023年1月6日に、生成AIを搭載した検索機能「NeevaAI」ベータ版を発表しまた。NeevaAIが出力する情報は、検索語句に関連する複数のウェブページの内容を要約し、単一の回答を表示します。AIが回答生成に利用した情報源はその回答枠の下部に参照元としてリンクを記載しているので、検索利用者は回答と参照元の両方を確認して信頼性の判断もすることができます。

例えば、英語で「PlayStation 5の入手が困難なのはなぜ?」という質問をすると、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)や半導体不足の影響を理由として挙げました。また「PS5の需要は大きいため生産がスムーズに行われるようになっても入手は難しいかもしれない」とも説明されました。従来の検索である「単語ベースにせよ文脈ベースにせよ検索語の類似度が高い結果を出す」を超えた検索の登場を感じさせます。

SEMリサーチ「検索エンジンNeeva、ジェネレーティブAIを活用した「NeevaAI」ベータ版を公開」

言葉を超えた意識やニーズの掘り起こしをAIが手伝える可能性

以上、類似文書検索技術を超えた、最近の検索の在り方を見てきました。あと少し、今後の検索技術やそれにとどまらないAI技術の可能性について触れます。

「顕在意識」と「潜在意識」の違い

意識は顕在意識と潜在意識に大別することができます。その位置付けは「海に浮かんだ氷山」に例えられることが多く、水面から突き出ている部分が顕在意識で、水面下に隠れている部分が潜在意識です。

そして潜在意識は意識全体の約9割を占めていると言われており、自分では自覚も制御もできないとも言われています。一方、顕在意識は、自分で考えて、行動するときに働いている意識です。善悪を判断したり、不安になったり悩んだりするのも顕在意識の働きです。

もしAIが検索で潜在意識の中から最適な答えを見つけられたり、そのときに最適な潜在意識の一部を働かせるように促せたりしたら、より良いアイデアを早く生み出せるようになるかもしれません。そのためには、既存の技術で言えば単語ベース検索ではなく、文脈ベース検索が基になるかもしれません。検索語に関連はあるが検索した人がすぐには思い浮かばなかった情報を提示してくれることが考えられるからです。

ハフポスト「顕在意識と潜在意識」

セレンディピティーで生まれた商品・サービスの例

セレンディピティーとは、予想していなかったものが発見できたり、ひらめきによって新たなアイデアが浮かんだりするなどして起こることで、「思いもしなかった偶然がもたらす幸運およびその才能」を指します。ニュートンが万有引力の法則を発見した逸話はこのセレンディピティーの例として挙げられます。木から落ちるリンゴという偶然の具体的な事象を見て、物理学の法則という抽象的な概念に気づいたということです。

セレンディピティーで説明される商品開発の例もあります。化学メーカーである3M社では、強力な接着剤の開発が思うように進まず、粘着力が弱い接着剤が出来上がりました。この接着剤を見た同社の研究員が、本から落ちないしおりが作れるのではないかと考え、付箋紙が誕生するきっかけとなりました。

ラップフィルムは、第二次世界大戦中に米軍兵士が水虫を防ぐために、ブーツの中敷きとして使われていました。戦後、野菜をラップフィルムに包むと保存するのに便利であることが見つけられ、食品の保存用に販売したところ大ヒットしました。

こうしたセレンディピティーは、潜在意識が顕在意識に変わったとも、現実の出来事が潜在意識を刺激して新しい行動を促し、新しいアイデアが見つかったとも捉えられそうです。しかし起こせる確率はかなり低いのは、誰もが実感があるでしょう。セレンディピティーを起こすのをAIが支援してくれるようになったら、アイデア創出、ひいてはイノベーション創出がもっと早くできるようになるかもしれません。

Welfeeldo「セレンディピティはビジネスにも応用できる!新たな発見につなげよう」

ソリューションデザイナが「言葉にならない支援」ができる

BERTなどの文脈ベースの検索モデルやGPT-3のような生成モデルが進化すれば、人間では気づかないような、例えば商品・サービスの新しい見込み客が検索できるようになるかもしれません。それらは現時点では実現していませんが、Laboro.AIでは独自のAIコンサルタントである「ソリューションデザイナ」がお客様の潜在意識を引き出し、セレンディピティーを起こすためのご支援を通して、AI技術の活用による新しいビジネスの創造に伴走させていただいています。

当社のソリューションデザイン、ソリューションデザイナについてはこちらもご覧ください。
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