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教育もAIも、一律ではダメ。教育変革のためのAI活用

2021.3.19公開 2024.2.21更新

概 要

コンピュータによる高度な処理を可能にするAI技術は、なんでも解決できる万能な技術と捉えられがちですが、実際には単機能であり、特定の課題に合わせたカスタム開発が必要になります。一方で、活用次第では人が行うには非効率な作業を大幅に効率化することもでき、人間とAIが共存することで新しい価値を創造できることが期待されています。

AIの導入により高い価値を見いだせると期待されている分野の一つが、教育です。まだAIの活用は限定的ですが、教育現場が抱える課題を解決し、誰もが必要な教育を効率良く受けられるようになることが期待されます。このコラムでは、教育現場においてAIができることについて考えていきます。

目 次

教育現場の課題
 ・一対多による一律教育の限界
 ・教員の不足
AIができること
 ・画像認識
 ・音声認識
 ・行動予測
教育にAIを導入する四つのメリット
 ・採点業務の効率化
 ・指導の平準化
 ・データ分析に基づく授業や、カリキュラムの評価・改善
 ・進路決定の支援
教育にAIを導入するデメリット
教育へのAI導入例
 ・英語発音評価システム
 ・いじめ検知
 ・オーダーメイド学習プログラム
 ・音声アシスト・FAQの自動化
 ・授業への活用
AIで変革する教育現場

教育現場の課題

多くの先達の努力により、教育は改善や進化を繰り返し、より多くの人が高度な教育を受けられるようになってきています。しかし、教育現場には依然として課題が残っています。

一対多による一律教育の限界

教育現場における大きな課題の一つが、一人の教師が多数の生徒を相手に一方向的に行う教育の限界です。

現在の教育は指導要領によって学ぶ内容が決められているだけでなく、教室における一対多による一律な授業によって進められることが主流です。教師の努力によって生徒一人ひとりに寄り添った対応をすることはできても、授業のフォーマットは基本的に一斉授業であり、内容が難しくてついていけなくなる生徒、反対に理解が早くて退屈に感じてしまう生徒はどうしても出てきます。授業に置いていかれた生徒は教育の機会を逸し、授業を退屈に思う生徒はより高い教育を受けられたはずの時間を無駄にしてしまうことにもなります。

教員の不足

教育現場で大きな役割を担うのが教員ですが、その不足が大きな課題となっています。2022年1月に文部科学省が発表した調査内容によれば、全国の公立小中学校・高校・特別支援学校の4.8%を占める1,591校で、本来学校に配置するはずの教員の人数を満たせていないことが明らかになっています。こうした教員の不足は、実に8万人に近い児童や生徒に影響を及ぼすと考えられています。

文部科学省は続く2023年に、全国の都道府県・政令市の教育委員会に、2022年度と比較した教員不足の状況に関するアンケート調査結果「「教師不足」への対応等について(アンケート結果の共有と留意点)」を発表しています。それによると、小中高と特別支援学校を合わせた全体では「悪化した」が29団体(42.6%)で最も多く、「同程度」が28団体(41.2%)、「改善した」は11団体(16.2%)にとどまりました。

教員不足が起きている背景としては、「産休・育休取得者数の増加」「特別支援学級の増加」「転入等による学級数の増加」などが挙げられます。一方、調査では不足はなかったと回答した県であっても、退職者への声掛けなどの苦労によって人員を確保している現状があると言われています。

出典:朝日新聞DIGITAL「文科省調査 教員不足1591校で 専門家『深刻な現実明らかに』

AIができること

AIは人間の知性を代替するようなものではなく、特定のタスクを高度に行うための技術です。現在、AI技術は以下をはじめとする分野で技術革新が見られています。

画像認識

画像に写っている物体を認識し、その結果に合わせて分類を行ったり、文字を認識して意味のある文として処理したりといった画像認識の領域は、AIの技術革新がとくに顕著な分野の一つです。画像認識技術の精度は人を上回る成果も残すようになっており、教育においては記述問題の採点にAIが活用されるなどの応用が行われています。

音声認識

人が発話した内容をテキストとして抽出する音声認識も、AIの進化が著しい分野の一つです。音声認識AIを用いたテキスト抽出によって、高度な文字起こしや、声のイントネーション・変化などから発話者の感情を推測するといった技術も生まれています。

行動予測

さまざまなデータから人の行動を分析し、人がどのような状態にあるか、あるいは次にどのような状態になるかを予想することもAIで可能になってきています。よく知られているのは顧客の行動分析です。例えば、購買データや属性データなどのビッグデータから次の行動を予測したり、カメラの映像から動線を分析することで売上の上がりやすい商品陳列のヒントにするといった活用も見られるようになっています。

教育にAIを導入する四つのメリット

こうした技術革新を背景にさまざまな活用が行われるAIを教育に導入することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。特に大きな効果が得られると思われるのが次の4点です。

採点業務の効率化

選択問題の採点については、CBT(コンピュータを使って回答するテスト)はもちろん、PBT(ペーパーで回答するテスト)で画像認識技術が活用されるなど、すでに実用的な技術が確立され多くの教育現場で導入されています。

一方、記述問題の採点の自動化は難しい状況でしたが、AI技術の発達により、画像認識をベースとした文字認識技術が飛躍的に向上、部分点を与えるような設問でもAIが採点できるようになってきています。2020年の学習指導要領の改訂もあり、今後は選択問題よりも記述問題の方が重要視されていくことも考えられ、こうした技術の重要性はさらに増していくはずです。

指導の平準化

専門的なスキルを持つ一部の教員にしか担当できなかった教科指導を、AIを活用することで、そのノウハウを他の教員に共有するような活用も見られます。

例えば、英語のライティングやスピーキングは日本語にはない文法、表現、発音で構成されることから、教員にも高いスキルと経験が求められます。AI技術の活用例として、生徒が書いた英文や発音に対してAIが良し悪しを判断し、改善点を提示するようなアプリケーションも開発されています。

教師のスキルに左右されることなく、どの生徒にも高度かつ平準化された教育機会を提供することにAI技術が活用されています。

データ分析に基づく授業や、カリキュラムの評価・改善

AIの効果が強く期待されているのが、冒頭にもお伝えした一対多の授業がもたらす課題の解決です。一人の教師が多数の生徒を相手に行う授業では、一律のカリキュラムを実施せざるを得ず、生徒一人ごとにカリキュラムを策定・指導することは難しいのが現状です。

AIを活用することで、生徒がどこにつまずいているのか、何が得意で何が苦手なのかを分析し、レベルアップに必要なカリキュラムを自動で設計するといったことも可能になってきています。苦手な問題には何度でも挑戦でき、つまずきのポイントを重点的に学習し、得意な分野はどんどん次に進んでいけるような「個別に最適化された教育」を実現できれば、どの生徒も自分のペースで確実にステップアップできることが期待できます。このような一人ひとりの能力や状況に適応した教育は「アダプティブ・ラーニング」と呼ばれています。

進路決定の支援

生徒一人ひとりの成績や履修状況をAIに分析させることを通して、進路のアドバイスを行う取り組みも始まっています。アメリカのメンフィス大学では、今後どのような科目を履修していくべきか、その際の成績はどの程度になりそうかなどについてAIを用いて予測し、その予測結果を参考にしながら教員が進路アドバイスを行っています。

自分の適性が分からない状態では、つい思いつきや瞬間的に入ってきた情報で進路を選んでしまうといったこともありがちです。AIを活用した分析結果を参考にすることで、生徒が自身の適正を客観的に評価し、進路決定に生かすことにもつながっているようです。

出典:WIRED『あなたの進路は人工知能が決める

教育にAIを導入するデメリット

教育へのAI導入にはもちろんデメリットもあります。例えば文部科学省は生成AIの利用について2023年に「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を発表し、生成AI活用について適切でないと考えられる例として以下の8点(要旨)を挙げています。

① 情報活⽤能⼒が⼗分育成されていない段階において、⾃由に使わせること
② 各種コンクールの作品やレポート・⼩論⽂などについて、⽣成AIによる⽣成物をそのまま⾃⼰の成果物として応募・提出すること
③ 芸術作品の創作や鑑賞などで感性や独創性を発揮させたい場⾯などで最初から安易に使わせること
④ 教科書などの質の担保された教材を⽤いる前に安易に使わせること
⑤ 教師の代わりに安易に⽣成AIから⽣徒に対し回答させること
⑥ テストを受けるときに使わせること
⑦ 学習評価において、教師がAIからの出⼒のみで⾏うこと
⑧ 教師が専⾨性や⼈間的な触れ合いを基にした指導を実施せずに、安易に⽣成AIに相談させること

同ガイドラインではこうした懸念を挙げる一方、⼈間中⼼の発想で⽣成AIを使いこなしていくことも目的の一つとして触れられています。やはり、生成AIにもデメリットがあり、それらをリスクとして捉えて、リスク管理をしながら活用することが必須でしょう。

教育現場へのAI導入例

実際、AIは教育現場でどのように活用されているのでしょうか。その事例を五つを紹介します。

英語発音評価システム

英会話学習で知られるイーオンとKDDI総合研究所が共同で開発したのが、英語の発音をAIが評価するシステムです。このシステムは、学習者が発音した英語をAIが分析し、どの程度正しく発音できているかを評価するもので、いわゆる「シャドーイング」と呼ばれる学習法にAI評価システムを導入しています。

このシステムの面白いところは、ネイティブと完全に同じ発音を目指すのではなく、日本人らしいイントネーションが残っていても「伝わる英語」になっていれば高評価になるような調整がなされているなど、英語指導のトレンドに合わせた作りになっている点です。

出典:CNET Japan「イーオンら、英語発音を評価するAIシステム開発」

いじめ検知

アメリカの事例として、AIによっていじめを検知するシステムの導入事例があります。このシステムでは、トイレで普段以上の騒音があった場合に「いじめが起きている可能性がある」として教師にアラートを飛ばす形でいじめを検知する仕組みになっています。

本来、いじめへの対処は教師が行うべきものです。しかし、教師の目にも限界があることを考えると、早期発見を実現するための手段として、教師業務への貢献度が高い活用例だと言えます。

出典:Forbes Japan「いじめ検知もAIで それでも忘れてはいけない「人間の役割」」

オーダーメイド学習プログラム

生徒一人ひとりに合わせた教育を提供するアダプティブ・ラーニングの事例として知られるのが、国内ベンチャー企業が開発したシステム「アタマプラス」です。

アタマプラスでは、生徒の得意分野・苦手分野・学習進捗などを総合的に分析して一人ひとりに合わせたカリキュラムを作成するほか、データに基づいたコーチング支援を行うことが目指されています。生徒の集中力が低下したタイミング、問題につまずいたタイミング、現在取り組んでいる課題をそろそろクリアしそうなタイミングなどを検知して教師や講師に通知することで、指導者が適切なタイミングで生徒に声掛けを行うことにも役立てられます。

出典:週刊アスキー「タブレット型AI教材のatama plus、生徒の“合格しそう”をAIで判定する特許を取得」

音声アシスト・FAQの自動化

教育機関に対するサポートとして、AIによる音声アシストサービスを活用した事例も存在します。アメリカのジョージア工科大学にて導入されたチャットボット「Jill Watson」は、オンライン学習時の学生のサポートを行うチャットボットとして導入され、利用した学生の多くがチャットボットと気づかないほど高い精度で受け答えをしていたとのことです。

学習内容や教科内容、教員へのちょっとした質問など、生徒・学生・その保護者から寄せられる多くの質問をAIで受けられるようになれば、教育機関の負担軽減につながると考えられます。

出典:ED Tech “Q&A: Georgia Tech Researcher Discusses How AI can Improve Student Success

授業への活用

茨城県つくば市ではAIを英語の授業で使う試みが始まっています。生成AIを活用した英会話学習用ロボットを利用して「即興で英会話やディベートをする」ことを目標に学習したり、発音修正機能を持つアプリ「ELSA Analyzer」を使ったりという内容です。「いつでも練習できる」「生身の人間相手よりも気後れせずに取り組める」ことの他、例えば試験問題の考案にAIを補助的に使えれば、教師の働き方改革につながり、生徒指導の時間が増やせるといったことが期待されています。

出典:日本経済新聞「英会話の先生は生成AI つくば市、学習ロボで授業

AIで変革する教育現場

これまでの教育は、教師のスキルやノウハウ、経験、個性に依存せざるを得ず、すべての生徒が十分な教育を受けられているとは言えない面もあったように思います。教育現場へのAI導入が進むことによって、一対多の一斉授業による対応の格差を埋め、生徒一人ひとりに合わせた効果的な学習環境へと変化しつつあります。

とはいえ、AIはやはり単機能な技術です。すでに製品として完成しているアプリケーションを導入する場合は別として、教育現場であってもAIを導入する際には、学校や教育現場など環境に合わせて個別に開発することが、きめ細やかなシステムとしてのAIを導入することにつながります。

教育が一律ではうまくいかないことと同様、AI技術も一律で考えることはできません。専門技術を持ったAIベンダーと密に協力し、現場の課題を正確に洗い出した上で、適切なAIソリューションの設計を考え、導入のための体制を構築していくことが重要です。

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