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Laboro.AIコラム

マッチングアプリ化する「AI 採用」。出会いの効率化は成長への一歩か

2024.5.5
監 修
株式会社Laboro.AI 執行役員 マーケティング部長 和田 崇

概 要

2023 年に転職希望者が初めて 国内1000 万人を超え、雇用市場は新卒・中途の違いに限らず、すべての人にとってよりオープンな場所へと変わりつつあります。

そして、企業側でスクリーニングや面接ボットなどのAI活用が進むだけでなく、LLM(大規模言語モデル)の登場によって求職者側でも文章を作成したり校正したりとAIの利用が進んでいる今、雇用マッチングにおける『AI vs AI』のせめぎ合いが注目されています。

その一方で、続々と導入される新しいAIシステムに対し、世界ではAI を使用した企業の採用活動に関する法規制の制定も徐々に進みつつあり、採用・転職のプロセスでより良い結果を生み出すためにAIをどう活用すればいいのか 、あらゆる方面で試行錯誤の真っ只中にあります。

今回は、このような雇用にまつわるAI活用の動向を掘り下げ、そこから”人”を採用する”人”の役割について考えていきます。

目 次

大企業の8割超がAI採用 に前向き
 ・転職は新卒よりも「売り手」市場
仕事探しの「マッチングアプリ化」
 ・深く悩まず、瞬時に大量に応募する
 ・「AI + 従来の応募方法」でチャンスを増やす
求職者の半数が履歴書にAIを利用
 ・AIでスキルをマッチングさせる
 ・AIで調整すると応募先の反応が変わる
 ・異業種/異職種へのチャレンジ
透明で公平なAI採用を行うために
 ・バイアスに対処し、人権を守る
 ・もう面接をブラックボックスにしない
「量より質」の選考は人に任せる
 ・AIの得意と、人の得意
『 AI vs AI 』から『 AI x 人間』へ
 ・人の成長が企業の成長になる

大企業の8割超がAI採用 に前向き

転職は新卒よりも「売り手」市場

総務省の統計によると、2023年に日本で転職希望者が初めて1000万人を超えたということです。また、2024年1月の中途採用の求人倍率が、今年卒業の大卒求人倍率よりも1.5倍以上高かったというデータもあり、今や中途採用の方が求職者にチャンスの多い「売り手」市場という時代を迎えています

転職希望者の半数以上が35歳以上といいますが、ここ数年で人と職のマッチングに関係するテクノロジーの進化は目覚ましく、転職のために久しぶりに求人に応募する人は、過去に経験したことのない仕事探しのプロセスに戸惑うかもしれません。

実際、昨年にIBMが20カ国を対象に行った調査によると、大企業のおよそ42%がすでに採用と人事の業務改善にAIを活用しており、さらに40%が導入に向けてAIを試している段階にあったそうです。

代表的なものが書類選考で応募書類をAIでスクリーニングする応募者追跡システム(ATS)です。ATS は、フォーチュン500企業の99%が使用しているほど多くの企業に頼られるツールとなっていて、企業側が求めるスキルが履歴書や職務経歴書に含まれていない応募者を、AIで自動的に選別するために用いられます。

さらに書類選考を通過した後に登場するのがAIチャットボットで、AIが面接官のように指示や質問をしながら回答を記録してデータを分析するなどして、候補者の絞り込みを効率的に行うこと試みが進められています

採用プロセスに関わる最新のテクノロジーというと、少し前まで関心が寄せられていたのは、こうした企業側の採用プロセスのAI化についてがほとんどでした。しかしながら、履歴書を作成できるほどにLLMの性能が向上したほか、 マッチする求人をAIで探し出す自動応募アプリなども登場するなど、その関心は求職者自身の応募ツールとして移行しつつあります。

仕事探しの「マッチングアプリ化」

深く悩まず、瞬時に大量に応募する

一般的に求人への応募は手間のかかる作業で、特に仕事をしながら転職活動をするには相当な勇気が必要になるほど、簡単なことではありませんでした。ところが現在、求職者がAIを利用した仕事探しをより効率的に加速させ、仕事探しがよりオープンで手軽なものになりつつあります。

特に今年話題になったのは、あるソフトウェアエンジニアがAI搭載サービスを利用して、ワンクリックで5,000 件の求人に一斉送信し、自動で約20件の面接を獲得したという話です。たしかに成功率は低いとはいえ、自分が寝ている間に20件の面接にこぎつけたという意味では、かなりの労力を削減できたと言えます。ちなみに、彼が自分の手作業で応募できたのは200〜300 件で、そのうち面接にこぎ着けたのも同様に20件ほどだったそうです。

こうした変化を「仕事探しの“マッチングアプリ化”」が進んでいるという見方もあります。応募手続きが簡単になったことを指しているのはもちろんですが、応募書類に感銘を受けた採用担当者が応募者本人に会ってみるとコミュニケーションがうまく噛み合わないなど、データ上の人物と実物とにギャップが起こりやすい点もマッチングアプリ化したと言われる別側面としてあるようです。

「AI + 従来の応募方法」でチャンスを増やす

AI で自動応募するアプリを使用した人からは、次のような相反する感想が聞かれているそうです

「AIだけを使った場合、手作業で検索すれば見つかるかもしれない、本当にやりたかった仕事を見逃してしまう可能性がある」
「AIのおかげで、今までだったら読み飛ばしていたかもしれない仕事を見つけることができた」

このように人によって受け止め方が異なる現状をふまえると、転職希望者にとっては従来の転職サイトやSNSネットワーキングにプラスアルファの武器として、こうしたAIサービス を利用することが可能性をさらに広げるために現時点でのベストなやり方かもしれません。

求職者の半数が履歴書にAIを利用

AIでスキルをマッチングさせる

履歴書をAIで作成することはもはや珍しいことではなく、AIに自分の詳細な職務経歴や仕事内容をプロンプトとして渡して、特定の求人案件に適した履歴書に編集するということも行われています。というのも、前出の応募者追跡システム(ATS)で振り落とされないようにするためには、履歴書の内容が求人の職務内容にあるキーワードの60〜80%を一致させる必要があるということがわかってきているのです

事実、アメリカ、イギリス、インド、ドイツ、スペイン、フランス、メキシコ、ブラジルの5,000人の求職者が参加したリサーチによると、求職者の45%が履歴書を作成、更新、または改善するために生成AI を使用したことがあると回答したそうです

AIで調整すると応募先の反応が変わる

このように求人情報と照らし合わせて履歴書をAIで最適化させることで、次のステップに進める確率が上がることは実感として認識されつつあります。昨年行われたある調査では、ChatGPTを使用して履歴書やカバーレターを作成すると応募先企業からの反応が良かったと報告した回答者が70%に上りました

それでは、仕事探しが上手く行った人がどのようにAIを使ったのかというと、まず自分の作成した履歴書の内容と応募する仕事をChatGPTに渡し、以下のような質問をプロンプトとして入力したという例があります

「 私の履歴書がもっと顧客サービス志向で、技術的で、プロフェッショナルに見えるように、必要なだけ質問してください。」(Please ask me as many questions as you need in order to help me write my resume to sound more customer service oriented, technical and professional.)

すると、ChatGPTが次のようなことを問いかけてきたそうです。

・これまでの仕事の責務
・リーダーシップやプロジェクトに携わった経験
・ 達成したことや受賞したこと
・ 応募ポジションに必要なスキルの有無

こうした質問に回答した上で、最後にプロフェッショナルな人材に見えるようにさらにAIに頼んで履歴書を仕上げたということです。

異業種/異職種へのチャレンジ

また、転職先としてこれまでと異なる業種や職種を希望している場合、履歴書をアレンジするのは頭が痛い作業ですが、そのような時こそAIが大きな助けになると、次のような意見も聞かれます

「例えば、これまでの教師としての履歴書をChatGPTに投げ、『カスタマーサポートの仕事に適したスキルを抽出してください』と問うことができます」

現時点では、AIを使用した履歴書を判別して弾くシステムを導入している企業ももちろんあり、AIで履歴書を作成したために不採用となった調査結果もあります。その一方で、Harvard Business Reviewのようなビジネスリーダー向けのメディアは、ChatGPTなどのAIツールを使用して履歴書を作成することが「数年後には新しい標準になる可能性が非常に高い」という予測を提示してもいます

オンラインコンテンツにより多くの人の目がとまるよう検索エンジンの最適化 (SEO) を施すのが当たり前になっているように、今後、履歴書やプロフィールの最適化が求職者・転職者にとってスタンダードなやり方になっていく日もやってくるのかもしれません

透明で公平なAI採用を行うために

バイアスに対処し、人権を守る

急速に雇用市場でのAI化ニーズが高まる一方で、個人情報の扱いや雇用差別が行われないための対策にも手が打たれ始めています。例えば数年前、Amazonが従業員を参考にしてシステムを開発した結果、女性が採用されにくくなってしまったという報告もされました。このようにトレーニングデータを精査し必要な対策を取らなければ、データの偏りが選考に反映されてしまうという可能性は否定できません。

そうしたことからニューヨーク市はバイアス監査法を可決し、採用にAIソフトウェアを使用する企業に対して候補者への通知と、偏見と差別に関する第三者による監査結果を毎年公表することを義務付けています

ほかにもアメリカのメリーランド州やイリノイ州でも、AIを採用活動に導入している雇用主に対する法が施行されています。メリーランド州は顔認識技術の使用において、イリノイ州はAIビデオ面接において、応募者の同意を得ることや機密保持などが定められています。

またEUはAIを規制する世界初の包括的な「AI法」において、採用におけるAIの使用を「高リスク」として分類し、雇用主がAIを使って候補者や従業員の感情を読み取ることを禁止する方向です。

これらの採用プロセスにおいてAIが使用されることを前提とした法規制が進む状況を受けて、法の遵守と効率的な採用システムを両立させるためAIをどのように取り入れていくか、多くのAI開発企業が挑んでいます。

もう面接をブラックボックスにしない

アメリカよりも速いペースでAI採用市場を成長させてきたイギリスでは、2023 年時点で雇用主のほぼ 3 分の1が新卒や学校中退者の採用にAIを使用していたということです

そのイギリスに本拠地を置くAI人材採用ソフトウェア会社が「面接」にフォーカスしたAIで 700万ドル (10 億円超)の資金調達に成功したとして注目を集めました。面接の要約と分析を自動化する大規模言語モデルに対応したAIソフトウェアを手がけるこの企業は、今後一年半でエンジニアを3倍に増やし、機能の開発とサービスの成長を加速させると話しています

この資金調達を実現させた投資家の一人、 Khaled Helioui氏は「重要な面接のステップはテクノロジーによって無視されてきた」とこれまでを振り返りました。そして、この最も不透明な部分の改善に重点を置き、採用決定がAIによって適切、迅速、客観的に行われれば採用プロセスを妨げている偏見は取り除かれ、より公平な職場が実現するという展望を語っています

また、昨年夏に発表されたResume Builderの調査によると、2024年までにアメリカ国内の大企業10社中 4社が面接で候補者と「会話」するためにAIを活用する予定ということです。そうしたことが企業側で可能ということは、もちろん求職者側がAIの助けを借りることも可能なわけで、面接選考を突破できるようにアシストする「AIスピーチコーチ」というツールが登場もしています。

AIスピーチコーチは、模擬面接の質問に対する回答を記録し、言葉の選択、話すスピード、話し方 (アイコンタクト、間の取り方、笑顔など)をその場で分析するというもの。 これまで面接の練習は独り言のイメージトレーニングを繰り返すのが通常で、気楽にフィードバックが得られる方法がなかなかありませんでしたが、企業側の面接AIの開発が進むほど、求職者側にとってもそれを突破するためのAIサポートツールが入手しやすくなっていくはずです。

「量より質」の選考は人に任せる

AIの得意と、人の得意

現時点で雇用プロセスでのAI活用は、店舗スタッフや新卒社員など、たくさんの応募者が集まるエントリーレベルの仕事や、応募者が何千、何万と集まるような人気企業でのケースが中心です。

例えばMeta では、一部の新入社員には人対人の面接さえせずに内定を出す一方で、マーク・ザッカーバーグ氏が GoogleのAI研究者に個人的に熱烈なメールを送ってヘッドハントをしていることもあるそうです。需要の高い人材は自分から市場に出る必要性が低いため、応募者の中からは見つけにくいということなのでしょう。

「AIはCEO を選ばない」なども言われますが、採用プロセスにAIの導入が加速されてきたのは、より会社にとっての重要性が高い人材の採用プロセスに採用担当者の時間とエネルギーを100%集中させるためであることが大きな背景としてあります。

あくまで情報処理ツールであるAI は、1,000人の応募者を分類し、評価し、選別することには一定の力を発揮しますが、上位10人から1人を選ぶために、給与や福利厚生、働く場所や時間、パーソナリティ、目指すキャリアパスなどのさまざまな条件を踏まえて戦略的に交渉し、合意に辿り着くには十分ではありません。

人間はこうした複雑な状況・環境を加味した上で、交渉人としてAIよりもやはり格段に優れた判断を行うことができます。組織のニーズと候補者の期待の両方の妥協点を探り、より重要な人材の採用成功率を上げることに注力していくことが人の役目なのではないかと思うのです。

また、「水が合わない」と言われるような定量データでは表すことが難しい、文化的・感性的なミスマッチを人は直感的に判断することができます。きっとこれから、ますます多くの採用担当者がAIという機械では再現できない無形の条件マッチングを、より掘り下げて取り組むようになっていくはずです

『 AI vs AI 』から『 AI x 人間』へ

人の成長が企業の成長になる

いまのAI採用と言えば『 AI vs AI 』(採用企業が行うAIツールによる人選が優れているか、応募者がAIツールを使用して作成した応募内容が優れているか)という技術面に注目が集まっていますが、本来的にはAIと人の採用担当者が協働することを通して、より効率的で、安全で、自己実現に貢献できる理想的な雇用プロセスをいかに共に作り上げていけるかに目を向けるべきなのかもしれません。

日本では中途採用は売り手市場というものの、転職で収入が10%以上増加した人の割合は3分の1 ほどだそうで、転職の動機を見てみると「今の仕事に耐えきれなくて」というのが目立つそうです。採用とは企業が成長するための人材確保の手段であり、そして企業を成長させるのは結局のところ、そこで働く人の成長です。ゆえに採用市場は人が成長できるチャンスを掴める場であることが理想であることに間違いありません。

AIによって企業側の採用選考がスピーディ行われるようになり、マッチングアプリ感覚で求職者側が気楽に一歩を踏み出せるようになるーー。こうした出会いの効率化で満足することなく、多くの求職者が前向きな転職をして人材としての成長を遂げると共に、企業の成長にもつながっていくような未来に、私たちはAIという武器を携えて挑んでいくべきなのでしょう。

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