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Laboro.AIコラム

「生産性」を上げた先にあるもの。AI と人の「医療革命」

2023.11.20
監 修
株式会社Laboro.AI 執行役員 マーケティング部長 和田 崇

概 要

AIの利活用において最も期待されている成果、「生産性」のアップ。労働生産性におけるOECD(経済協力開発機構)のデータによると、日本は残念ながら1970年以降でもっとも低い順位を記録していますが、それも社会の高齢化に伴い、伸びている産業が医療・介護といった生産性の低い分野へと移り変わったことが一つの要因です。

生産性の伸び悩みは、高齢化の進む先進国に共通する課題であり、このままの状態では多くの国で医療サービスを維持すること自体が難しくなると予測されています。そこで、まずは医療において欠かせない書類の作成や記録作業といった「事務」の仕事をAIに任せようと、世界の名だたる企業がAI開発に挑んでいます。

かつて緑の革命や産業革命が労働生産性を躍進させたように、次はAIで医療における生産性の未来を変える、私たちの革命の出番です。

目 次

「イノベーション」から「生産性」へ
 ・生産性の低い産業が伸びると、足かせになる
 ・AI で医療サービスの生産性を上げる
国の未来をかけて医療を変える
 ・書類作業を担う AI 「アンビエント・ドキュメンテーション」
 ・最大の産業となる医療・介護の市場争い
AI で生産性が上がると、仕事が楽しくなる
 ・情報のスピードに追いつけない
 ・仕事の良し悪しがわかる人間を育てる
労働力による成長ができなくなる時代へ
 ・医療業界の長時間労働を無くすために
 ・働く人に「楽しい」という人間らしい感覚を

「イノベーション」から「生産性」へ

生産性の低い産業が伸びると、足かせになる

AIについてのニューストピックで、「イノベーション」と同様に「生産性」というワードが熱く語られるようになっています。一般的に労働生産性とは、「就業1時間あたりの付加価値」を意味します。

では、日本の労働生産性がどのくらいなのかといえば、2021年のOECD(経済協力開発機構)のデータによると、 およそ50ドル。85ドル以上のノルウェーやアメリカ、そして70ドル弱のイギリスと比べても、大きく下回っています。結果的に、OECD加盟国での労働生産性において、日本は1970年以降でもっとも低い順位を記録することになりました。

とはいえ、これだけ世界的に「生産性」が注目されているのには、日本以外にも深刻な生産性の課題を抱えている国が増えているという背景があります。

photo by Flickr

生産性を上げることが難しくなる一つの要因として、日本をはじめ多くの先進国では、労働人口が高齢化していることが共通しています。事実、2050年までに世界の60歳以上の人口は倍になると発表されています

日本では60代や70代で亡くなると「まだ若いのに」と言われることも普通になり、着々と寿命を延ばす医療やテクノロジーが進化を遂げてきました。実際、今後も伸びていくことが確実視されている産業が医療・介護の分野で、2040年には日本最大の産業になると言われています

しかしながら、この分野は公共サービスとして意義が強いこともあって、経済的な生産性の高さを求められるものではないため、今の医療・介護の在り方でヘルスケアの労働者が増えれば、このまま日本の労働生産性は伸び悩み続けることになります。すると、国は公共支出を上回る成長を維持できなくなり、私たちがより多くの税金を支払うようになるのも十分あり得る話なのです。

AI で医療サービスの生産性を上げる

そういったことはイギリスでも議論されており、ジョン・グレン財務長官は今年10月、AI がこの課題の鍵を握っているとして次のように述べました

「公共サービスの生産性を上げなければ、私たちは支出が増え続ける持続不可能なサイクルに陥ってしまいます」

「 AI を安全に利用することによって、看護師を始め、教師、警官、公務員を時間のかかる事務作業から解放することが、彼らを納税者のために解放することになるのです」

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国の未来をかけて医療を変える

書類作業を担う AI 「アンビエント・ドキュメンテーション」

世界181カ国/地域を対象に調べられた「各国政府のAIへの備え度指標」を見ると、イギリスはヨーロッパでナンバーワンに位置付けられており、AI分野への民間投資が盛んに行われてることがわかります。その一方で、公共部門への投資においてはヨーロッパで10位と、大きく遅れをとっているそうです

イギリス国民保健サービスのティム・フェリス氏は、医療文書に関する労働者の負担を軽減することがサービス全体の生産性を向上させるために不可欠であり、この先数十年の未来を左右する “最大の賭け” だと考えていると次のように語ります

「(医療における)書類の問題は、実際にこの目で見て確信していますし、医療サービスの生産性において20%、30%、もしくは40%の足かせになっていると言えるでしょう」

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そしてフェリス氏は続けて、今後10 年で大きな変革を実現するのに役立つだろうとされているAI ツール「アンビエント・ドキュメンテーション」のことについて触れました。アンビエント・ドキュメンテーションを診療の場に導入すれば、音声記録された医師と患者の会話は一旦クラウドに送られて、AIによってカルテのように編集・文書化され、医師が症状などを記録する作業が不要となります

日本の大病院などでも「3 時間待ちの3分診療」と言われたりしますが、文書作成の自動化によって患者が受ける診察の質が上がり、それによる医師と患者の信頼関係や治療成果のアップが期待されます。

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実際、医療のような生活に必要不可欠なサービスにアクセスできずにいる人は、世界で推定10億人に上るとされています。産業革命や緑の革命によって工場や農場の生産性が大きく向上してきたのとは対照的に、診療所における生産性は実のところ、アメリカでは低下している可能性があり、他の国でも同様な状況が見られるそうです

医療サービスを受ける前提として、診察されている時間より待っている時間が長いのは当たり前になっており、人々は医療に対して慢性的な不安や苦労を抱えています。そうした現状がある中で、医師が診察記録に費やす時間は患者を診療する時間の2倍近くに上るという調査結果も出ており、文書の問題が医療サービスに及ぼしている影響は無視できるはずがありません。

最大の産業になる医療・介護の市場争い

これから先進国で最大の産業になっていく医療・介護の未来を見越し、企業の間ではまず、文書の問題を解決するAIサービスに関して業界のリーダーシップをとろうと、市場シェアをかけた競争が始まっています。

例えば今年アマゾンと3Mは、AIで医療文書の作成を自動化するサービスを推進していくために業務提携することを発表しました。他にも、マイクロソフトは既存のアンビエントAI に、新たに生成AIを組み込んで臨床文書プロセスにおけるサービスを発展させるとのことです

医療に従事する人も医療を受ける人も、世界中の人が待ち望んでいた医療サービスの形へと、 国や企業がその未来をかけてAIを用いた変革にようやく動き出したのです。

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AIで生産性が上がると、仕事が楽しくなる

情報のスピードに追いつけない

「〇〇ってどこに保存されてる?」という会話が職場で当たり前に聞こえてくる今の時代、パソコンを使って仕事をするデジタル・ワーカーのおよそ2人に1人 が、仕事に必要な情報を探すのに頻繁に苦労しているとした調査結果があります。

さらに悪いことに、この調査の回答者の36%が、膨大な量のアプリケーションや情報のせいで重要な知らせを見落としたことがあると回答したそうです

「ログインが多すぎる」
「通知が多すぎる」
「仕事で使うツールやプラットフォームが多すぎる」

こういった状況は、ITスタッフの半数近くが経験しているとする報告もあります。

仕事の良し悪しがわかる人間を育てる

この時点で最新のシナリオでは、今の仕事の半分が、2030年から2060年の間に自動化される可能性があると予測されていて、医療における膨大な情報の文書化や記録作業も自動化が進み、ざっと2045年くらいには必要な情報に瞬時にアクセスできるようになっているかもしれません。

昨今の生成AIの技術進化を背景に、すでにプログラマーの間では、AIがコードを書けるようになってきたことで仕事の効率と生産性が上がり、「仕事がより楽しくなった」という感想も聞かれるようになっています

ダブルチェックに時間を費やしたり、慣れないプログラミング言語を使ったり新しいプログラミング言語を学んだりするプレッシャーから解放されることになり、ソフトウェア開発者は生成AIを使用した方が、幸福感、充実感、フロー状態を報告する傾向が2倍以上も高かったというリサーチ結果もあります。

一方で、そこまでプログラミングに精通していない開発者の場合、それなりにAIの書いたコードが良いコードなのか悪いコードなのかを見極めるのが非常に難しいといったことが指摘されているのも事実です。例えばプログラミング経験が1年未満の開発者は、AIを使用しない場合よりも、AI を使用した場合の方がタスクを完了するのに7〜10%多く時間がかかったケースもみられたそうです。

そう考えると、AI頼りであることが即、生産性の向上に直結するということでは決してなく、人間がスキルや専門性を持ち続けることで、AIの課題に気づき、それを改善し、さらに良い仕事ができるようになり、それによって生産性が上がり、「仕事が楽しい」状態につながっていくということなのかもしれません。

労働力による成長ができなくなる時代へ

医療業界の長時間労働を無くすために

世界の経済成長は2000年台初頭からすでに鈍化が始まっており、このままいけば世界中の先進国において、労働供給による成長への寄与が「2030 年代にはゼロになる」と予測されています。

日本の医療も、労働不足を補う長時間労働によって支えられているといっても過言ではなく、勤務医のおよそ40%が週60時間以上働いているといいます。こうした流れの中で政府の打ち出した「医師の働き方改革」によって、来年4月から、医師の時間外・休日の労働時間は「年間960時間」および「月平均80時間」が上限となるそうですが、具体的な打ち手がなければ医療を受ける立場の人が “医療難民” 状態へと追い込まれ、より苦しむことになるかもしれません。

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例えばアメリカでは、膨大な書類作業の補助からさらに進んで、人間ではなくAIが診断を行って医療の生産性を向上させる研究が行われており、まだ小規模ではありますが、参加した患者からも専門医からも高い満足度が報告されたりしています。最近のリサーチでは、専門医はAIによってより複雑な症例に集中することができ、患者の約4分の3がAIによる診断のみで診療を完了したといいます

働く人に「楽しい」という人間らしい感覚を

世界に先駆けて高齢化が進む日本では2040年に高齢化のピークが訪れ、国内の生産年齢人口が2022年時点よりも約1,400万人減少すると推計されています。医療が必要な人がピークを迎える中で労働人口は大幅に減るため、医療サービスの継続自体が不安視されています。今後15年でそれを補う医療サービスを提供するために雇用しなければならない人の数を考えてみれば、もう人による労働力でなんとかできる事態でないことは明白です。

医療作業の大半をAIで削減することはきっと、医療の未来を変えた革命と呼ばれるでしょう。かつてない「生産性」はもちろん、仕事が「楽しい」という人間らしい感覚を生み出すため、そして人の力を超えた経済成長を実現するため、AIとともに世界は動き出しました。

かつてトラクターが農作業に取って代わったように、医療の分野でも大変な手間のかかる作業をたった 1 台の機械が行えるようになる日が刻々と近づいています。

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