AIは不完全。本当に必要な「AI人材」の役割とは
2020.6.22
株式会社Laboro.AI 代表取締役CTO 藤原 弘将
概 要
「AI人材」の重要性とその確保が叫ばれていますが、この用語は、一般には「AIに詳しい人」くらいの意味で用いられていて、具体的にどのような人材を指しているのかが曖昧になっているようにも感じられます。“AIは不完全なもの”という前に立つと、AI導入で考えるべきポイントと、それを実現するために必要な人材の姿が見えてきます。
(*本コラムは、日刊工業新聞の連載『AI・ロボット転機予報part2』へ寄稿した内容を再編集したものです。)
目 次
・「AI人材」、本当に足りないのは
・「AI=万能」の実際
・AIの使い方を創造的に考える
・ソリューションデザインの重要性
「AI人材」、本当に足りないのは
第三次AIブームが到来したと言われるようになってから数年が経ち、AI技術をビジネスで活用しようとする動きが活発になっています。その中で、取り組みを牽引できるAI人材の不足が叫ばれていますが、この「AI人材」とはいったい何を指しているのでしょうか。
よくイメージされるのは、ディープラーニングに代表される機械学習技術についての知識を持ち、実際のデータに対して適用できるデータサイエンティストや機械学習エンジニアと呼ばれる職種などでしょう。もちろんこのような人材も、AIのビジネス活用の根幹を担う重要な存在です。
ですが、本当に足りず、かつ見落とされがちな役割は、技術と実際のビジネス現場をつなぎ、産業に新たな価値をもたらすことができるビジネスサイドの人材です。
「AI=万能」の実際
その重要性を語る上で前提となっているのは、「AIは万能ではない」ということです。機械学習技術で達成できる精度は、原理的に100%になることはなく、ほとんどの場合で人間のエキスパートの水準にはほど遠いのが実態です。実際のところ、人間の素人の水準か、それを下回る場合すらあります。
身近なAIツールを思い出せばイメージが湧きやすいところですが、AppleのSiriやGoogleアシスタント、AmazonのAlexaなど、スマートフォンやスマートスピーカーの音声対話エージェントは、何か話しかけた際にかなりの水準で正しく返答してはくれますが、少し複雑なことを言うと人間ではあり得ないような勘違いや聞き漏らしをすることも珍しくありませんし、マイクから離れて話しかけるだけで大きく認識誤りが増えてしまいます。他のAI技術においても、程度の差はあるものの、同様の誤りが発生するというのが通常でしょう。
こうした例は日常では笑い話にできることですが、実際のビジネス現場で同様のミスは許されません。AIを万能なものと捉えることは、新入りの社員に仕事を任せてベテラン社員と同じ結果を期待するようなものです。不完全なAIに、エキスパートであるベテラン社員と同水準の仕事ぶりを期待して導入すると、当然そのAI技術には失敗のレッテルが貼られることになってしまいます。
AIの使い方を創造的に考える
AIが真価を発揮するには、AIがベテラン社員に及ばないことを理解した上で、ビジネスの進め方を変えることを前提に、意味がある使い方を創造的に考える必要があります。
例えば、ベテラン社員2人の仕事を、ベテラン1人と新人2人で回すにはどうしたらよいでしょうか。単純に減ったベテラン1人と同じ仕事を新人の1人に任せても品質が低下してしまいますし、新人1人が余剰人員になってしまいます。一つの発想として、例えば、新人2人にまず作業をさせて、その結果をベテランが修正するなどの作業フローを構築することが考えられるはずです。
こうした発想は人の配置を考える際にだけ言えることではなく、AI導入を考える場合でも同じです。AIに全業務を代替させることを前提にするのではなく、AIに不完全さがあることを認識した上で、人が行う作業をどう補完できるか、あるいは人がAIの不足をどう補うかという視点でビジネスプロセスを見直すことが、AI導入では重要なポイントになります。
ソリューションデザインの重要性
当社では、AI技術とビジネス双方の現実を見極め、検討するプロセスを「ソリューションデザイン」と呼び、それを担う人材を「ソリューションデザイナ」と名付けています。正しい技術理解とビジネス経験に基づいて、AI活用を前提とした新しいビジネスプロセスをデザイン(設計)することが役割です。不足が叫ばれるAI人材の中でも、このソリューションデザイナの育成がAI技術によるビジネス変革を進める上で重要で、今後社会的に必要なってくる真のAI人材だと考えています。
コラム執筆者
代表取締役CTO 藤原 弘将
京都大学大学院修了 博士(情報学)。2007年、産業技術総合研究所にパーマネント型の研究員として入所。機械学習を用いた音声/音楽の自動理解の研究に従事。開発した特許技術を様々な企業にライセンス提供し、ライセンス先企業の技術顧問も務める。2012年、ボストンコンサルティンググループに入社。ビッグデータ活用領域を中心に多数業界・テーマのプロジェクトに従事。AI系のスタートアップ企業を経て、2016年に株式会社Laboro.AIを創業。代表取締役CTOとして技術開発をリード。
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