プロジェクト事例
- インフラ
- 設備
- 時系列データ
- 波形データ
- 異常検知
波形解析による管内外面の損傷検出
非破壊検査 株式会社 様
- 波形データの特徴から損傷箇所を検出
- 従来のデータ解析処理数量と比較して60%程度増加できる見込み
非破壊検査と過電流探傷試験
「非破壊検査」とは、プラントやインフラなど、あらゆる施設・設備の欠陥や劣化状況を、対象を破壊したり分解したりすることなく、その状態のままで検査する技術を言います。
今回AI導入の対象となった「渦電流探傷試験」は、鉄鋼・非鉄金属などの導電性材料を素材とした製品に対する非破壊検査法の一つで、これら試験体の近くに交流を通じたコイルを接近させ、電磁誘導現象によって試験体に発生した渦電流の変化により減肉(摩耗や腐食によって金属部の厚みが薄くなる現象)等の損傷を検出・確認する検査手法です。
このプロジェクトでは、この渦電流探傷試験の中でもボイラーなどの熱交換器等の強磁性伝熱管を対象とする検査技術として同社が特許を保有する検査技術「強磁性チューブ渦電流探傷技術(FTECT:エフテクト)」にAIを適用しています。具体的には、FTECTによって取得された検査データの解析作業にAIを適用し、データ上に現れる減肉信号を自動抽出することを目指したものです。
導入前の課題と開発内容
従来FTECTによって取得された検査データの解析作業は、人がデータの波形を確認して異常箇所(減肉箇所)の特定を行っていました。しかし、高速にデータ採取が可能な一方で、信号の解析には高い専門知識が必要で解析時間がかかるため、解析処理数量に限界があり、将来的な検査件数の増加も見据えると省人化・効率化が必要な状況でした。
そこで、このプロジェクトでは、FTECTによって取得された検査データを入力し、その中に含まれる異常箇所を特定、検査対象である管の減肉の有無を出力することが目指されました。ですが、昨今、製造業を中心に音や振動といった時系列データを対象としたAI異常検知の事例が多数報告されていますが、本件が対象とするFTECTのデータには以下の制約があり、通常の異常検知タスクで用いられている手法をそのまま流用することは難しい状況でした。
・データ中に生じる減肉部を示す信号の発生が周期的ではなく、瞬間的に現れるため捕らえにくい
・振幅の大小が損傷具合によって変化する
そのため、新たなニューラルネットワークモデルを開発するなど、同社オリジナルのカスタムAIとして開発・実装しました。具体的には、ニューラルネットワーク技術により減肉箇所を特定するモデルを複数作成し、モデルごとの出力結果のアンサンブル平均を取る方法を用いた仕組みがベースになっています。
導入後の成果
このプロジェクトは、AIモデルの開発・検証だけでなく、実用時の業務オペレーションや実業務で使用しているソフトウェアとの連携方法なども両者で議論を重ねるなど、ビジネス現場への適用を徹底的に目指したAI導入プロジェクトとして推進しました。
今回開発したカスタムAIは、2020年5月頃より同社現場業務での試験運用が開始されており、最終的な不良判断は人が行う形で運用することで、従来と変わらない高い検査品質を保ちながら作業処理数量の増加が実現されています。
同社によれば、従来と比較してデータ解析処理数量が、60%程度増加できることが見込まれています。